Diamond ring 64





 2年神話科の教室を覗いてみた。

もしかしたら、生徒会の方に居るかもしれない、と言っていたがこちらのほうが確率が高いと思ったのだ。



10月半ばに星月学園文化祭が開催された。

に日程を聞いて、午後になって学園に向かう。

文化祭開催期間中は学外の人も許可を得る必要がなく出入りできる。

一樹はこの学園の卒業生だから許可も出やすいが、さすがに恋人会いたさに「許可をください」とは言いにくい。

琥太郎はくれるだろうが、どうにも見栄を張ってしまっているのだ。



「お、いたいた」と呟き少し教室の中の様子を眺める。

は模擬店と言っていた。ただし、飲食系ではないと。

「なるほどなー」

神話科らしいといえば神話科らしいかもしれない。

準備期間が短い中で、彼らは本を作ったのだ。自分たちで考えた新しい神話。

それを絵本にしてみたとのこと。

は、絶対に手を出せないな」

芸術方面の才能に恵まれなかったが動物を描けば、地球外生命体を描いたと言われてしまう可能性がある。

教室入り口でニヤニヤしている人物を見て生徒達は少し気味が悪くなり、そして、彼らなりにを守ろうと結束を固めた。

ちゃん」

「だからね、先生もどきに『ちゃん』付けはどうかと思うよ?」

はクラスの生徒達から『ちゃん』と呼ばれている。せめて苗字に『ちゃん』ではないだろうか...

「入り口に変なオッサンが居るから、気をつけて」

変なオッサン?

生徒に危害を加える者なら自分が生徒を守らなければ、と鋭い視線で教室の入り口を見れば、一樹が軽く手を振ってきた。

「あ!」

少し弾んだ声が漏れ、は教室入り口の一樹に向かっていく。

ちゃん?!」

生徒達が慌てたが、一樹も教室の中に入ってに向かっているので、彼女たちの間に入り込んで守ることが出来ない。

「一樹さん、来てたんですね」

「...一樹さん?」

生徒達は首を傾げる。

は振り返り、「不知火一樹先輩。在学中は生徒会長だったみんなの先輩よ」と紹介する。

「面白い企画だな」

と後輩たちに声をかけるが、その目は「に手を出すなよ」と語っている。

同性ゆえにわかるこの牽制に、生徒達は諦めたような息を吐く。


生徒達に声をかけて教室を後にした。

「月子は?」

「2年天文科はやっぱり飲食関係の模擬店です」

「担任って、水嶋先輩だろう?」

面倒くさがりそうなのに、と思ったが

「かなり理解のある先生ですよ、水嶋先生って」

が笑う。

が郁のことを『郁ちゃん』と呼ばないことに些か違和感があるが、ちゃんと公私の区別がついているのだな、と一樹は感心した。

いや、そういうのは得意なんだったか...

2年天文科の教室を覗くと、そんなに繁盛していないのか、人がまばらだった。

「つっこちゃん..じゃなくて。夜久先生!」

店番している月子を見つけてが声をかける。

ここは公私の区別はつけ切れていないようだ。

一樹は笑いをかみ殺した。

「あ!ちゃ..先生。一樹会長も!」

月子も同じようだ。

教室の中を改めて見渡すと郁が居た。軽く会釈をすると彼はヒラッと手を振る。

席に案内されてメニューを見た。

東月が居たときのような充実したものではなかった。

「今はカリスマシェフは居ないのか?」

「錫也みたいな人がたくさん居たらビックリですよ」

と月子が笑う。

一樹はコーヒー、はケーキセットを頼んだ。

先生、太るよ?」

郁が声をかけると

「やだ、水嶋先生。それってセクハラですよ」

が返す。

相変わらず負けていないようだ。

「久しぶり..かな?ハラハラしっぱなしじゃなかった?」

こそっと郁が聞くと一樹はあまり認めたくないので視線を逸らして「ええ、まあ」とお茶を濁したような返事をした。

クツクツと郁が笑い、彼は「夜久先生、僕ちょっと校内の見回り行くから」と言って教室を出て行った。

火気を使うので、一応教師が誰かしらつくようにしているようだ。

月子の時は、お祭男の陽日が教室を空けるべくもなく、ずっと着いていたからそういう問題は無かったが、郁はそこまで面倒見が良いわけではない。

「なあ、。この後どうする?」

一樹が問う。

「スターロードは絶対に一樹さんと回らなきゃいけないらしいですから」

と言っては一樹の表情をチラッと見ると、彼はばつが悪そうに窓の外を眺めていた。

電話で文化祭の話をしたときに、一樹はスターロードは絶対に自分以外のヤツと歩くな、と言ったのだ。

あの伝説が、自分の兄が作ったでっちあげということはも充分に承知している。

だから、その気になることはないのだが、一樹は相手がその気になったら大変だと思うらしい。

「一樹さん、見たいところありますか?」

「時間的にも余裕があるからなぁ...回れるところは全部回りたいけど。西洋占星術科を冷やかしても面白そうだな」

「あ、あと。宇宙科行きたいです。今年は結構大掛かりなことをしているって聞いたんで」

の言葉に一樹は頷く。

在学中は生徒会に忙しくてゆっくり回れなかったから、こういうのも新鮮で良いとおもった。

それに、校内を歩いて後輩たちを牽制しなくてはいけない。

「お待たせしましたー」

月子がコーヒーと紅茶、ケーキをテーブルに置き「ごゆっくり」と声をかけて去っていった。

そういえば、生徒会室も覗いてみたいな...

やたらと懐かしさがこみ上げてきた。









桜風
14.8.29


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