Diamond ring 66





 修学旅行の栞を眺めながらは笑う。

懐かしい。

自分が行った修学旅行とコースが変わっていない。あれから新しい地を開拓していないのだろう。

「歩きながら読むと柱にぶつかるよ、間抜けな感じに」

背後から声がして振り返ると呆れた顔をした郁がいた。

「ご忠告どうもありがとうございます」

の言葉にクスリと笑う。

「何でハロウィンに参加しなかったの?」

10月末のハロウィンパーティへの参加は教師も生徒も自由だ。

「...郁ちゃ..水嶋先生がいまだにネコミミとメイド服を持っているとは思いませんでした」

今度はが呆れた顔をする。

「手軽なコスプレでしょ?」

「仮装、と言いましょうよ。ハロウィンなんですから」

「やってることは一緒でしょ?」

否定できない。

先生は、修学旅行久しぶりでしょ?」

「って言っても。5年前に行きましたからね。全く同じコースを」

「僕はそのコースを3回目」

肩を竦めて郁が言う。

「意外と多いですね」

郁が教師になってからそんなに経っていない。


「で、不知火君は何て?」

「結局それが聞きたかったんでしょ?」

保健室のドアを開けて入りながらが呆れた顔をして言う。

「そりゃ、からかい甲斐があるもん」

「人の彼氏で遊ばないでよね」

の口から『彼氏』という単語が出ると何とも感慨深いな」

珍しく起きていた琥太郎が言う。

「あ、琥太にぃ。珍しいね」

郁がそう言いながらソファに座り、

「ホントだ」

はキッチンスペースに向かった。

「お前たち、保健室で寛ぎすぎだぞ...」

に至っては在学していたときと同様に保健室の冷蔵庫にチョコレート菓子を保管している。

「はい、コーヒー」

そう言いながらは2人のカップをテーブルに置き、自分のカップを取りにキッチンスペースに戻っていく。

「不知火君、面白くないだろうねー」

「少なくとも、今の郁ちゃんは見せらんないね」

「全力で楽しんでるもんな」

の言葉に琥太郎は苦笑した。

「男子校って、娯楽が少ないんだよね」

「男子校じゃないでしょ」

が言うと

「事実上男子校」

と郁が言い直した。

「...何が問題だと思う?」

琥太郎がに向かって言う。

「立地条件とカリキュラムの専門性。あとは、学費」

「それ、全部じゃん」

「あと、生活環境」

「トドメ」

の言葉に郁が愉快そうに茶々を入れる。

「郁の言うとおり全部じゃないか」

「わたしはともかく、つっこちゃんは相当の変わり者だよ」

「何ではともかくなワケ?」

「入学動機が不純だから」

「なるほど」と呟いた郁は静かにコーヒーを口にした。



修学旅行の準備に追われていると一樹からメールが入った。

いつも電話なのに、と不思議に思っているとの体を気遣う言葉が目に入る。

思わずダイヤルする。

『どうした?』

「声が聞きたくなっちゃいました」

が言うと電話の向こうの一樹は苦笑を漏らす。

『修学旅行の準備はどうだ?』

「先生って大変なんですね」

『折衝業務が多そうだよな。けど、普通はさすがに教育実習生にそれはさせないだろう?』

「普通は、そうなんでしょうね」

が零す。

『何だ、はその担当か』

「生徒会で培ったあれこれを出し惜しみするなと言われています」

『星月先生にか?』

「寧ろ郁ちゃんです」

の言葉に一樹は笑った。

『厳しいなー』

「琥太にぃが言うには、郁ちゃん最近生き生きしているそうです。わたしが実習終わったら寂しがるんじゃないかって」

『それは大いにあるかもな』

笑いながらそういった一樹の声がぴたりと止まった。

「一樹さん?」

どうしたのだろうか。

「お腹でも痛いんですか?」

心配そうにいうに電話の向こうの一樹は脱力した。

『痛くないよ』

なら安心だ、とホッと息を吐く。

『やっと2週間切ったなと思って』

「帰ったら山ほど課題があります」

がトホホと返すと

『当分離さないからな』

と一樹が宣言した。

「はい?!」

『手伝える課題は手伝う。が、やっとが帰ってくるんだ。離すはずないだろう?』

当然のように一樹が言った。

「あの、一樹さん。ご自分の勉強は?」

『安心しろ。そっちもきちんとやる。早く一人前になりたいんだから当然だ』

「...甘えん坊さんですね」

とりあえず、頭に浮かんだ単語を口にすると

『おう。たっぷり甘やかせよ』

と返されてはうな垂れる。

『ちゃんとも甘やかしてやるから、安心しろ』

一樹の言葉に乾いた笑いしか出てこなかった。









桜風
14.9.12


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