| 教育実習が終わって半月後、は再び星月学園に足を運んでいた。 「あれ、」 職員室に顔を出すと、背後から声をかけられた。 「ああ、郁ちゃん」 「『水嶋先生』でしょう?」 郁の指摘に「あはははは」と笑っては自分の発言を訂正しない。 肩を竦めた郁はの横をすり抜けて自分の席についた。 は自分の実習担当の神話科の教師にレポートを提出する。 これで合格がもらえたら晴れて教育実習が修了となる。 「え、。もう出来たの?」 「うん」 何でもないことのように頷く。 「生意気ー!」 「郁ちゃんってギリギリだったんでしょう?陽日先生から聞いたよ」 「余計なことを...」 ポツリと呟く郁には笑う。 「琥太に..星月先生は?」 「保健室で寝てるんじゃない?今日は理事長としての用事がどうのって聞いてないし」 「じゃ、顔出してこよ」 他の教員達に挨拶を済ませては職員室を出る。 郁もそれに続くことにした。 「郁ちゃん、仕事は?」 「休憩」 「琥太にぃみたい」 が呟き、 「琥太にぃよりは勤勉だよ」 と不本意そうに郁が言う。 「失礼します」と言いながら保健室に入る。 「ちゃん!」 2年神話科の生徒だった。 「久しぶり。って、どうしたの、その足」 「強烈なタックルを受けて、ね」 「ああ、サッカー部だったっけ?」 の言葉に彼は「そうだよ」と嬉しそうに頷く。 「ふーん」と郁が面白くなさそうに呟く。 「い..水嶋先生」 いつものように『郁』と呼びそうになって琥太郎は言いなおした。郁が何を思ったのか察したのだ。 「ところで、。不知火君は元気?」 「半月前に会ったばかりじゃない」 呆れたようにが言う。 基本、郁が一樹のことを聞いたときには、その続きにへのからかいが入ってくる。 だから、今回もそれだと思って呆れたのだ。 「彼、法科大学院に進むの?ほら、弁護士になるんでしょう?」 昨年の春先にそんな話をした。 「ううん。何か、予備試験を受けてそれに合格したら本試験が受けられるんだって。この間予備試験の合格書見せてもらったよ」 それはそれで可愛くないなぁ... 「えーと。ちゃんと水嶋先生って...」 「幼馴染だよ」「いじめっ子といじめられっ子の関係だよ」 郁との言葉が重なる。 「え..と?」 「昔からの知り合い。どうしたの?」 何だか急に元気がなくなってきたように思える。 が首を傾げて問い返すと 「あ、いや。何か仲が良いみたいだったから。そうなんだ。星月先生、ありがとうございました」 彼は治療をしてくれた琥太郎に礼を言い、保健室を後にした。 「郁ちゃんって、何だかんだで一樹さんが好きだよね」 溜息混じりにはそう言って「何言ってんのさ」という郁の抗議を背に受けながらキッチンスペースに立つ。 「琥太にぃ、コーヒー淹れてもいい?」 「ああ、俺にも淹れてくれ」 「僕も」 「はいはい」 「それで、さっきの。不知火、本当に最短ルートを目指しているんだな」 琥太郎が感心したように言う。 「うん、そうみたい。次は5月だって」 「半年切ってるね。大丈夫なの?」 郁がそう言い、は一瞬言葉に詰まった。彼は現在俄然やる気を出している。目の前に人参をぶら下げられた馬状態だ。 そして、その人参は他人がぶら下げたのではなく、自分でぶら下げた他人の人参。 思い出して溜息をつくと「何、どうしたの?」と少し弾んだ声で郁が問う。 「何でもない」 「ところで、は何でウチに来てるんだ?」 「レポートの提出。大変なものはさっさと済ませちゃおうって思って」 「...郁はギリギリだったのになぁ」 琥太郎が呟く。 「琥太にぃ、うるさいよ」 拗ねたように郁が呟き、プイとそっぽを向いた。 |
桜風
14.10.10
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