Diamond ring 70





 教育実習が終わって半月後、は再び星月学園に足を運んでいた。

「あれ、

職員室に顔を出すと、背後から声をかけられた。

「ああ、郁ちゃん」

「『水嶋先生』でしょう?」

郁の指摘に「あはははは」と笑っては自分の発言を訂正しない。

肩を竦めた郁はの横をすり抜けて自分の席についた。

は自分の実習担当の神話科の教師にレポートを提出する。

これで合格がもらえたら晴れて教育実習が修了となる。

「え、。もう出来たの?」

「うん」

何でもないことのように頷く。

「生意気ー!」

「郁ちゃんってギリギリだったんでしょう?陽日先生から聞いたよ」

「余計なことを...」

ポツリと呟く郁には笑う。

「琥太に..星月先生は?」

「保健室で寝てるんじゃない?今日は理事長としての用事がどうのって聞いてないし」

「じゃ、顔出してこよ」

他の教員達に挨拶を済ませては職員室を出る。

郁もそれに続くことにした。

「郁ちゃん、仕事は?」

「休憩」

「琥太にぃみたい」

が呟き、

「琥太にぃよりは勤勉だよ」

と不本意そうに郁が言う。


「失礼します」と言いながら保健室に入る。

ちゃん!」

2年神話科の生徒だった。

「久しぶり。って、どうしたの、その足」

「強烈なタックルを受けて、ね」

「ああ、サッカー部だったっけ?」

の言葉に彼は「そうだよ」と嬉しそうに頷く。

「ふーん」と郁が面白くなさそうに呟く。

「い..水嶋先生」

いつものように『郁』と呼びそうになって琥太郎は言いなおした。郁が何を思ったのか察したのだ。

「ところで、。不知火君は元気?」

「半月前に会ったばかりじゃない」

呆れたようにが言う。

基本、郁が一樹のことを聞いたときには、その続きにへのからかいが入ってくる。

だから、今回もそれだと思って呆れたのだ。

「彼、法科大学院に進むの?ほら、弁護士になるんでしょう?」

昨年の春先にそんな話をした。

「ううん。何か、予備試験を受けてそれに合格したら本試験が受けられるんだって。この間予備試験の合格書見せてもらったよ」

それはそれで可愛くないなぁ...

「えーと。ちゃんと水嶋先生って...」

「幼馴染だよ」「いじめっ子といじめられっ子の関係だよ」

郁との言葉が重なる。

「え..と?」

「昔からの知り合い。どうしたの?」

何だか急に元気がなくなってきたように思える。

が首を傾げて問い返すと

「あ、いや。何か仲が良いみたいだったから。そうなんだ。星月先生、ありがとうございました」

彼は治療をしてくれた琥太郎に礼を言い、保健室を後にした。


「郁ちゃんって、何だかんだで一樹さんが好きだよね」

溜息混じりにはそう言って「何言ってんのさ」という郁の抗議を背に受けながらキッチンスペースに立つ。

「琥太にぃ、コーヒー淹れてもいい?」

「ああ、俺にも淹れてくれ」

「僕も」

「はいはい」

「それで、さっきの。不知火、本当に最短ルートを目指しているんだな」

琥太郎が感心したように言う。

「うん、そうみたい。次は5月だって」

「半年切ってるね。大丈夫なの?」

郁がそう言い、は一瞬言葉に詰まった。彼は現在俄然やる気を出している。目の前に人参をぶら下げられた馬状態だ。

そして、その人参は他人がぶら下げたのではなく、自分でぶら下げた他人の人参。

思い出して溜息をつくと「何、どうしたの?」と少し弾んだ声で郁が問う。

「何でもない」

「ところで、は何でウチに来てるんだ?」

「レポートの提出。大変なものはさっさと済ませちゃおうって思って」

「...郁はギリギリだったのになぁ」

琥太郎が呟く。

「琥太にぃ、うるさいよ」

拗ねたように郁が呟き、プイとそっぽを向いた。









桜風
14.10.10


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