| 「わたし、今度からもっと気をつけます」 一樹を救出したは、少し不機嫌になりながらも開口一番そう言った。 救出した、と言っても一樹が自力で脱出した。待ち人があるからその場を離れなかっただけで、それがなければ既に脱出できていた。 「ん?」 一樹がを見下ろした。 「どうした?」 「何か..嫌でした」 が呟く。 「何だ、妬いてくれたのか?」 にやりと笑って一樹が言う。 「妬きました」 少し自棄になりながらが言う。 その言葉に一樹は少しだけ嬉しそうに笑った。 「そうか」 「何で嬉しそうなんですか」 「いや、俺も愛されてるなーって思ってさ」 「...今更です」 ポツリと呟いたの言葉に一樹は驚いて目を丸くして彼女を見下ろす。 「は...すぐにキスできないところでそういう可愛い事を言うよな、ホントに」 例えば、家の中でこんなことを言われればキスどころでは済まなかったぞ、と思いながらも一樹は溜息混じりにそう呟いた。 それから夏凛たちと合流し、逃げていた晴秋が郁を見つけて一緒にやってきた。 琥太郎が時間ギリギリにやってきて、琥春が仕事の都合で来られなくなったことを告げる。 「、絶対ウチに来ると思ってたのに」 郁が言う。『ウチ』とは星月学園のことだ。 「つっこちゃんが行くじゃない。合格したって聞いたよ」 「そうなの、琥太にぃ?」 「...ああ」 言って良いものか悩んだらしいが、このメンバーなら問題ないだろうと頷く。 「そうか。けど、月子ちゃんはみたく扱き使えないからね」 「郁、を扱き使おうなんていい度胸ね?」 夏凛がにやりと笑い、郁が隣に座っている晴秋の陰に隠れる。 晴秋は呆れたように溜息を吐いた。 「ところで、。引越しとかするのか?」 「最初の赴任地は、いつ分かるの?」 琥太郎と小鳥遊が問う。 「赴任地は、3月に入って分かるみたい」 人事異動の時期で何処に配属かがわかるのだろう。 「じゃあ、遠くになったらどうするの?」 「一応公舎があるみたいだから、とりあえず生活はできるかな、と」 「一樹は実家出ないの?」 「年が明けたら部屋を探そうかと思ってます」 それは初耳とは一樹を見上げた。 「さすがに、ずっと実家ってのもな」 と彼が苦笑した。 「.........ふーん」 長い沈黙の後に夏凛が相槌を打つ。その沈黙の間に何かしらの葛藤があったらしい。 「そういえば。つっこちゃん結婚するんですよ」 と小鳥遊を除く全員が吹いた。 小鳥遊は『つっこちゃん』がの友人であり、可愛いというのは夏凛から聞いているから名前だけなら知っているが、それでも面識もないので驚きはなかったのだ。 「なに、どうしたの?」 首を傾げる小鳥遊に誰も答えてくれない。 「ちょっと待て。月子が?!誰と!!」 「東月君?あ、宮地君も一緒だっけ?」 「いや、学校が一緒じゃなくても良いだろう。七海じゃないのか??」 わたわたと混乱している目の前の様子をは気にせず、とりあえず料理に手を伸ばした。 「や、。ちょっと待ちなさい。話を振っておきながら自分だけご飯はないわ」 夏凛が止める。 先ほど吹いた者達がうんうんと頷いている。 「社会人の人だって」 「何?!、その人に会ったことあるか?」 お父さん発動だなぁ... はそんなことを思いながら「1度だけ」と頷く。 「どんなヤツだ?月子は幸せになれるか??」 「それは、つっこちゃんに聞いてください。とりあえず、職業は建築士さんだそうです。おっとりした方でした」 呆れながらが言う。 「ちょっと、一樹」 夏凛が剣呑な声で一樹を呼ぶ。 「はい」 不思議そうに一樹が返事をした。 「何であんたがつっこちゃんの幸せを心から心配してんのよ」 「へ?」 自分にとっての当たり前がどうも当たり前ではないらしい。 一樹はを見た。助けを求めたが、はそれに気付いていないらしい。 気付いてるけどー、と思いながらは食事を続ける。 とりあえず、気付いていないと思っているのは一樹と殆ど興味を持っていない小鳥遊だけで、夏凛は勿論幼い頃からのを知っている郁だって分かっている。 一通り、妹の彼氏いじめをしてスッキリした夏凛が勘定を済ませている間に店を出た。 「ね、不知火君」 こそっと郁が声をかけてきた。 「何ですか?」 酷い目に遭ったと思いながら一樹が返事をする。 「あんまり恋人の前で他の女の子の心配するものじゃないよ」 「はい?月子のことですか?」 「そ。意外とも可愛いところあるんだねー」 そう言ってニヤニヤと笑う。 「はい?」 「郁、帰るぞ」 「はいはい」 琥太郎に声をかけられて郁は軽く手を上げる。 「学園に帰るの?遠いのに...」 が言うと「ま、明日も部活やるみたいだから」と郁が言う。 そういえば、郁は吹奏楽部の顧問だった。意外と体育会系の文系部だ。 「じゃね。また正月にでも。不知火君もねー」 そう言って郁は琥太郎と共に駅前に向かって行った。琥太郎は酒を飲まないから、彼が車を運転して学校に帰るのかもしれない。 その場で解散となり、一樹はを送る。今日はの部屋に泊まる予定だ。 手を繋ぎながら並んで歩く。 「あと1年」 一樹が呟いた。 「一樹さん?」 頭上でなにやら呟かれたらしいのが隣を歩く一樹の名を呼ぶが、「なんだ?」と返された。 「あ、いえ。何か言いませんでした?」 「独り言だよ」 少しばつが悪くて一樹はの頭をよしよしと撫でた。 「なんか、子ども扱いされた気分です」 拗ねたようにが言うと一樹はふっと笑う。 「大丈夫だよ。部屋に戻ったらちゃんと『大人』として接するからな」 「...一樹さん、酔ってますね」 それなりにお酒が進んでいたのは見ていた。 「さあ?それはどうだろうな。あ、そういえば。さっき水嶋先輩に言われたんだが、月子の話は拙かったか?」 何か、こそこそ話をしていたと思ったら... は心の中で郁に毒づきながら「いいえ。ただ、ちょっと面白くなかっただけです」と正直に言った。 その言葉に驚いた一樹は少しぽかんとして、やがてにやっと笑う。 「可愛いなー、は」 そう言って一樹はひょいとを抱え上げてそのままキスをした。 「一樹さん!酔ってますね!!」 「おー。俺はいつでもに酔ってるぞ」 上機嫌の一樹には溜息をつく。たぶん、今は何を言っても会話が成立しそうにない... |
桜風
14.11.7
ブラウザバックでお戻りください