Diamond ring 75





 梅雨の晴れ間。

正直、こんな良い天気になるなんて思っていなかった。

雲ひとつない快晴の空を見上げては目を細める。

「なあ、。そのドレス、丈が短くないか?」

「そうですか?」

先ほどから何度目だろう。

一樹はずっとの今日の服装を見ては眉間に皺を寄せているのだ。


今日は、月子の晴れの日だ。

ジューンブライトに憧れていたから、と言って6月の挙式を選んだと聞いた。

仕事を覚えるのも大変だろうに、就職して2ヶ月で挙式。

凄く疲れたと月子は言っていた。

は、今日、この後の披露宴で月子の友人代表で挨拶をすることになっている。

その原稿を一生懸命考えて、結局持ってこなかった。

それを聞いた一樹は苦笑した。

「そういうのは念のために持ってくるもんだろう?」

「けど、準備した言葉じゃなくてわたしのそのときの言葉でお祝いしたいんです」

が返し、一樹はらしいなと思った。

「一樹会長、さん」

振り返った2人は笑顔になる。

「颯斗!」

「颯斗くん」

「お久しぶりですね、お2人とも」

新郎新婦は異性の友人を招待しないのが、世の中の慣例らしいが、月子の通っていた星月学園が殆ど男子校だったこともあり、お世話になった人を招待したいということになれば自ずと異性を招待することになる。

その点に関しては、月子の夫となる人は大らかで全く気にしていないようだった。

「おい、颯斗。翼のやつは見かけたか?」

「いいえ。翼君、まだなんでしょうか」

不安そうに颯斗が言うが、

「木ノ瀬くんがたぶん一緒だから、遅刻とかの心配はないと思うよ。彼、しっかり者じゃない?」

たしかに、と一樹と颯斗が頷く。

「そういえば、向こうで金久保先輩を見かけました。一樹会長はお話されましたか?」

「何?誉か。ちょっと行ってくる」

そう言って一樹はその場を離れた。

「ツアーが始まったんだって?」

が颯斗を見上げて言う。

「ええ。良くご存知ですね」

「一樹さんが、ネットで颯斗くん追いかけてるよ。マネージャーみたいにスケジュールが頭に入ってるんだから」

クスクスと笑うに颯斗は嬉しそうに微笑んだ。

「今日、月子さんに頼まれているんです」

「ピアノの演奏?わ、楽しみ!」


「とてもいい雰囲気だねぇ」

少し離れたところで会話をしていると颯斗を眺めながら金久保が愉快そうに呟く。

「何だよ、誉」

「ううん、何でもないよ」

にこりと微笑む金久保に一樹は半眼になって抗議をした。

「しっかし、月子がなー」

「僕、夜久さんのお相手は星月学園の誰かとだと思ってたな」

「俺も。もそうだって言ってたな」

「で?」

金久保にそういわれて「で?」と一樹は言葉を繰り返した。

「一樹とさんは?」

面白がって聞かれているのは重々承知だが...

「誉まで俺を焦らすなよ...」

「焦ってるの?」

「すげー焦ってる」

そういいながらしゃがんで頭を抱える。

「そう」と相槌を打った金久保はさほど興味がないらしく、それ以上話題を膨らませる様子がない。

「ぬいぬいー!」

不意に聞こえた声に一樹は思わず立ち上がり、周囲を見渡す。

「あ、。相変わらずちっこいのだ!」

「ちっこくないよ!!」

一樹を見つけてダッシュしていた翼は、途中にと颯斗の存在に気付いて一樹の元へ行くまでに足を止めた。

「天羽君がいるってことは、木ノ瀬君もいるね。僕たちも行こう」

金久保に促されて一樹が「だな」と頷いた。

「あははー、高いたかーい」

とうとう翼がを高い高いし始めた。久々の再会で嬉しいのはわかるが...

「翼君!さんが嫌がっていますよ」

颯斗に窘められてもなんのその。聞く気がないらしい。

「おいこら、翼。俺のに何をする」

「あー!ぬいぬいだ。ぬはははー、久しぶりなのだー」

嬉しそうに翼が応じる。

そうしているうちに、見慣れた懐かしい顔が揃ってくる。

、可愛いじゃん。馬子にも衣装って言葉はのためにあるんじゃないかって思っちゃったよ」

「郁ちゃんは、スタイルと顔だけは良いから、華やかだねー」

月子の勤務先の星月学園の教員も招待されており、郁と琥太郎、陽日もやってきた。

本当に同窓会のようだった。




「疲れたー...」

「いい式だったな」

日が暮れて帰宅した。

披露宴の後の二次会までは出席した。月子と話をしたいと思ったからだ。

しかし、人気者の彼女とはさほど話すことが出来ずに、二次会がお開きとなった。

三次会にまで行く元気がないは帰ることとし、一樹も同じ選択をした。

月子とはあまり話せなかったが、他の、懐かしい顔ぶれとはかなり話をすることが出来た。

、花が萎れてるぞ」

月子は、ブーケトスをしなかった。

その代わり、今日出席していた女性陣にブーケのおすそ分けとして月子がバージンロードを歩いた際に持っていたブーケを別けた花束を作り、皆が貰って帰った。

「いけない!」

疲れてベッドにボスンと倒れたは慌てて起き上がり、ブーケを大き目のコップに挿した。

家にある花瓶だと少し大きすぎるのだ。

花を生けて満足したはそのブーケを眺めて目を細める。

ベッドに腰を下ろしてそんなの表情が目に入った一樹は少しだけ焦りを覚えたが、何とかそれはやり過ごした。

自分の中で決めているのだ。いつ、彼女にプロポーズするか。

「ごめんな、もう少し時間をくれ」

ポツリと呟く。

「一樹さん」

トスンと隣に座ったが顔を覗きこんできた。

「ん、うん?何だ??」

慌てて返事をした一樹に、は微笑む。

「何だよ」

「呼んでみたくなっただけです」

そんなことを言う彼女が愛しくて、唇を奪った。

「一樹さん!」

「キスしたくなっただけだよ」

先ほどのの言葉をまねして言うと「なら、仕方ないです」とは少しだけ嬉しそうに呟いた。









桜風
14.11.14


ブラウザバックでお戻りください