Dear my friends ―8月14日―





夏休み、お盆少し前に電話が掛かってきた。

一からだ。

「何?」と出ると

『14日、翼の誕生日なんだけど。誕生会に呼ばれてるんだ。お前もどうかって』

と言われた。

真壁財閥。

もの凄く有名でもの凄くお金持ちなので名が知られている。

「ごめん、ちょっと無理」

『用事があるんなら仕方ないけど...翼の奴、がっかりするぞ』

そう言った一に「謝っておいてね」と言って通話を切った。

しかし、自分ひとり行かなくても翼は寂しがらないと思う。

「でも、そっか。誕生日か...」

はそう呟いて窓の外に目を向けた。

今日も日差しが強いが、それでも段々風は涼しくなってきている。

立秋を過ぎているのだから、暦の上ではもう秋だしな...



「What!?」

翼は心から不満そうだった。

「何故は来ないんだ?!」

「さあ?まあ、用事があるのかもしれないし。それに、この間の事があるだろう?大事とってんじゃないのか?」

この間の事とは、街中で倒れたことだろう。

清春が発見しなかったらどうなっていたか...

そんな思いが一の中にもあったが、翼にとってはそれとこれとは話が別なのだろう。

翼にとって、いや、B6の全員にとってもはB6と同じ仲間といった感覚が芽生えている。

B6が揃う席に彼女が居ることは今では何となく当たり前だ。

だから、今回のの欠席は不満たっぷりな翼だ。

「でも、ほら。さん、体力的に夏は辛いと思うわ」

あの細さなら仕方ないだろうと悠里も思っていた。

瑞希が“この間のこと”について一に問うと、先日の熱中症の一件を話してくれた。

ちなみに、瑞希が“問うた”と分かったのは問われた一だけだ。あれで何故分かるのか。聖帝の七不思議にカウントすべきだと悠里は思った。

「お見舞いに行ったほうが良いのかな?」

悟郎がシュンとして言う。

元々、原因となったのが悟郎との約束と言っても過言ではないので落ち込んでいる。

「ああ、大丈夫だって。今度涼しい時間にを誘って遊ぼうぜ。謝りたかったらそん時についでに謝ればいいだろう。気にしてないだろうし」

とはそういう子だ。

あまり物事に頓着しない。

それは良いことか悪いことかは分からないし、自分がそれを判じる必要はない。


翼の誕生日会には悠里も招待されて向かった。

さん...」

同じ庶民的な感覚を持っているを恋しく思った。

瞬だって勿論庶民的だが、それでも瞬は外見が派手なので全くこの空間の中では違和感がない。

まあ、残った料理を持ち帰れるのかと翼に交渉しているあたりはもの凄く庶民だが...

翼は少し面白くないと思っていた。

何故この俺の、この俺の誕生日を祝おうとしない。

体調が悪いなら迎えの車くらいつけてやる。

車がダメなら牛車だ。

牛車なら大抵の細い路地でも通れるから重宝する。

そう思っても、本人が既に来る意思を示さなかったのだ。いつもだったら無理を押してでも来いと言うところだが、やはり体調が悪い者を無理やり連れ出す気にはなれない。

翼の傍に控えていた永田の携帯がなる。

少し外してそれに出ると、永田は苦笑した。

「了解致しました」と返事をして通話を切った。


翼の誕生日パーティが終わり、帰路に着く。

が、窓の外の風景が少し違う。

「おい、永田。道が違うだろう。このままでは学校に着いてしまうぞ」

「少し、バカサイユに寄ってみませんか?」

永田がそういうなら、と翼も渋々了承した。

夜、宿直の教師に門を開けてもらい、バカサイユへと向かう。

宿直の教師は何か言いたげだったが、結局B6を相手に学校の規則を口にしても色々と疲れるだけだということから何も言わなかった。

バカサイユは電気が消えていた。

それは当たり前だ。

が、何故この時間にバカサイユなのだろう。

「永田、バカサイユに忘れ物でもしたのか?」

「そのようなものでございます。さあ、翼様、ドアをお開けください」

何故この俺がドアを開けなきゃならん、とか思いながらもドアを開けると途端に「パーン」という音に身を硬くした。

「誕生日おめでとう!って...あ、ゴメン。驚いた?」

ゆっくりと首をめぐらせるとそこには、本日パーティを欠席したの姿があった。

「体調が悪いんじゃないのか?!」

拗ねたようにそう言った。

「ごめん、元々人が多いの好きじゃないってのと、ドレスなんて小洒落たもの持ってないからって理由。体調も、一応あるけど...」

「...悟郎が、かなり落ち込んでいたぞ」

「おおっと、そう来てますか。フォローいれとくわ、ありがとう。あと、永田さん、ありがとうございます」

の言葉に「いえいえ」と永田は軽く頭を下げ、翼は「What!?」と眉間に皺を寄せる。

「どういうことだ、永田」

「先ほど、さんから電話を頂きまして。パーティが終わったらバカサイユに翼様をお連れするように頼まれましたので。さんがパーティにいらっしゃらなかったから翼様も落胆されていましたし。差し出がましいかと思いましたが...」

永田の言葉に苦い顔をして翼は永田に向かって盛大に溜息を吐く。

「それで、永田と競合して俺に何のようだ?」

「競合じゃなくて、共謀。OK?」

「どうでもいい。それで、何だ!!」

苛立たしげに翼が言った。

「あー...うん。これ」

そう言ってが何か袋を差し出した。

「何だ?」

「クッキー。ケーキは、さっき食べてきただろうし。クッキーなら数日は持つだろうから。誕生日おめでとう」

そう言ったに驚いて翼はその袋を受け取った。

「18歳だね」

が言うと翼は「違う」と応える。

「へ?」

「19だ。1年留年している」

「そうなんだ?知らなかった」

「一は何も言わなかったのか?」

「うん、誰も教えてくれなかった。でも、学園でもそれって有名な話?」

「...たぶんな」

翼の言葉には頷き、「だから誰も教えてくれなかったんだ」と呟いた。周知の事実なら、知らない人への配慮は中々されない。

「じゃあ、ごめんね。これだけのために来てもらったんだ」

そう言ってがバカサイユを後にしようとしたらその腕を捕まれた。

「永田、を家に送ってから帰るぞ」

「はい、翼様」

「え?いいよ。明るい道を選んで帰るし」

が言うが「また倒れたらどうする?今度は夜中だ。お前が事件に巻き込まれてみろ。一や担任がもの凄くうるさいだろうが」と言われて黙り込む。

「そうなったらお前の親にも、悪いだろう」

翼に言われては少しだけ不快そうに眉を顰めた。その表情を目にした永田は少しだけ視線を向けていたが、「そだね」とが応えたため見なかったことにした。


を送り届けて自宅に帰った翼は先ほどに貰ったクッキーを取り出した。

クッキーには文字が書いてある。

『ツ』だ。

何だ?とずべてのクッキーを皿の上に並べる。

袋の中に入っていたクッキーには一文字ずつ書いてある。一生懸命文章を作ってみた。

たぶん、これが正解だ。

『たんじょうびおめでとう!ツバサ』

「た、食べにくいじゃないか」

口元が緩みつつも翼は文句を口にする。

結局、それは翌日、永田の淹れてくれたとても美味しい紅茶と共に味わった。









桜風
08.8.1


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