| 放課後、悠里はバカサイユに向かう。 既に本試験まで1ヶ月もないこの時期だ。補習の内容も段々と濃いものになっている。 が手伝ってくれているからコレで済んでいるのだろうな、と感謝しつつもバカサイユの豪奢なドアを開けた。 「さあ、今日も頑張って補習しま..!」 小さな包みがおでこに当たる。 「やべ!先生大丈夫か??」 駆け寄ったのは一だ。清春が投げたそれを一が避けたため、悠里に当たったのだ。 「キヨ!」 悟郎が抗議するように名を呼ぶが、 「オマエだって投げてただろうが、悟郎!」 そう指摘されてぐっと詰まる。実際そのとおりだ。 「先生、避難したほうがいいですよ」 そう言って背後から声を掛けてきたのはだ。彼女は今この場にやってきてすぐさまこの状況を理解したらしい。 「え..と」 「今日は節分ですから。たぶん、豆まきでもしてたんでしょう」 が言うと「お!あたり!!」と一が楽しそうに言った。 悠里に当たって床に落ちた小さな包みを拾って部屋の中を見渡す。 「これ、提案したのは誰?包み」 「俺だ」 挙手したのは瞬だ。なるほど、と納得した。 「これに包んで投げれば後々この豆は食べられるからな」 バカサイユは土足OKだから、床に落ちたものはさすがに食べられない。瞬の提案なら納得だ。 「それはそうと、」 瞬が声を掛ける。「何?」と返すに「知っていたか?節分には歳の数だけ豆を配る豆小僧がいるということを」と少しだけ得意げに言ってきた。 「いないよ、それ。どうせハルから聞いたんでしょう?それに、節分では歳の数より一つ多く豆を食べたら健康で1年過ごせるんだから、1個足りないでしょう」 と指摘されて「なに?!」と瞬は部屋の中の清春を振り返ってキッと睨んだ。 「仙道、貴様...!騙したのか!!」 「騙されるほうが悪いんだろーが。ンなもん居るわけねェだろう」 まあ、確かに騙される人材の方が少ないだろうなー、とその場に居た全員が思った。 「じゃあ、ほら。みんな。豆まきはここら辺で終わらせて。補習始めましょう」 そう言いながら悠里がパンパンと手を叩く。 彼らも仕方ない、と彼らは諦めたようにとりあえず床に転がっている包みを拾い、片づけを始めた。 は教室で補習をすることにしているため、今日の生徒を引き取りに来ただけだといったが、その前にお茶でも、と永田に勧められてとりあえずテーブルに着いた。 「お茶請けに、さっきの豆でも食べない?」と悠里の提案に基づき、包みの中身を取り出すとそれらは全て金箔が貼られて、金の豆となっていた。 「え、と...」 「この真壁財閥が用意する豆が普通の豆で良い筈がないだろう?」 ふんぞり返って言う翼に「普通のでいいんじゃないの?」とが返す。 「何!?」と少し空気が悪くなりそうだったので悠里は慌てた。 「で、でもさすがね。うん、翼君!」 何だろう、と全員の視線が悠里に向く。 特に特別な言葉を用意していたわけではない悠里は少し慌てつつも、今頭に浮かんだ言葉がベストだと思ってしまった。 「ほら、こんな豪華な豆」 「そうだ、担任。素晴らしいだろう」 「ええ、ほら、さん。この豆、食べるでしょう?」 悠里に話を振られては永田を見る。とりあえず口にしても大丈夫なものだろうか、と。 永田は頷いて安全性を保障した。 「まあ、食べますかね?」 「『食べる』って別の言い方あるでしょう?」 何が言いたいのだろう、とは首を傾げた。 「『頂く』か?」 国語の問題、しかも謙譲語などを言わせたいのかと思ったらしい瞬が答えた。 「ええ、えーと。そうじゃなくて...そ、そうね。一君」 突然指名された一は驚いて目を丸くする。 「一君は普段『食べる』ってどう言ってるかしら?」 「えーと、突然言われてもなー...『食う』かな?」 わが意を得たとばかりに悠里は椅子を蹴って立ち上がった。 生徒たちが不思議そうに見上げる中、悠里は得意げに胸を張った。 「ほらね。『豪華』な豆を『食う』なの。『豪華』を『食う』。『豪華、食う』。つまり、『合格』ってなるでしょう?」 シーンとバカサイユの中に静寂が訪れた。 「先生...」 は俯いて呟く。 「センセ、大丈夫?そんな親父ギャグを得意気に口にして。ゴロちゃんたち、センセに迷惑沢山かけてるけど、やっぱりそれは全部ストレスになってるんだよね!?今日はお休みする??」 「先生......寒い」 寝ていたはずの瑞希までもがそう呟く。 「ブチャ...あのホスト崩れでも言いそうにねェぞ?」 しまった、と今更ながらあの言葉を撤回したいと思ったがそれはもうできない相談のようで、不思議そうに自分を見上げていた生徒たち全員の目がなんとも言い難い、どう声を掛けていいのやら、というものになっていた。 「え、いや。違うの。皆、聞いて...!」 勢いよく体を起こすとそこはまだ暗い部屋の中だった。 ベッド脇の時計を見ると、まだ起床まで時間があった。 「ゆ..夢?」 ほっと胸をなでおろす。 可愛い生徒たちにあんな視線を向けられるなんて...しかも、大抵は自分の味方のにまでかわいそうな人を見るような目で見られてしまった。 くぁ、と欠伸をかみ殺す。 「どうしたんですか、悠里先生」 職員室での朝礼を済ませて席に着いた悠里は先ほどから何度も欠伸をかみ殺していた。 「あ、衣笠先生。おはようございます。いえ、その..夢見が悪くて」 歯切れ悪く答えた悠里に 「何だい、子猫チャン。それなら、今日はこの銀チャンが...!!」 言葉の途中で沈んだ銀二は頭を抱えている。その背後には鳳が出席簿をもって立っていた。 「先生、大丈夫かな?しかし、体には気をつけるようにね。今、先生が休んだりすると生徒たちが心配するからね」 優しく語り掛ける彼の様子からは、先ほど葛城の頭を容赦なく出席簿の角で殴りつけたとは思えない。 「ありがとうございます」 そう言って悠里は職員室を後にした。 放課後になり、バカサイユに向かう。 ドアを開けるとおでこに何か当たった。 見てみると、夢の中で見た包みそっくりなそれだった。 まさか、と息を呑む。 「ほら、先生が来たからもうやめたら?」 既にバカサイユに来ていたらしいが皆を止める。 「ま、先生が来るまでって話だったしなー」 と一は自分が手にしている包みを開ける。 「担任、早く入って来い」 ドアを開け放したまま呆然としている悠里に翼が言う。 「え、ええ...そうね」 絶対にあの言葉は口にしない、と心に決めて悠里はバカサイユのドアを閉めた。 「お?これ全部金の豆じゃん!」 そう言って一は疑うことなくそれを口にした。 「悪趣味ー」とが呟くとその声が耳に届いたらしい翼が「何だと!」と噛み付き、「もー、ツバサ。大人気ないよ」と悟郎が止めている。 「あ、なあなあ」 何かいい事を思いついたかのように一が声をあげた。悠里はとりあえず夢の中の失敗を繰り返さないように口をつぐんでいる。 「これさ、豪華な豆だよな?『豪華な豆を食う』。『豪華、食う』。合格!...なんてな!」 得意気に言う一にその場に居た全員が溜息をついた。ただ一人を除いて。 「一君!」 突然悠里に抱きつかれて一は目を白黒した。何だ、どうした。とりあえず役得か!! 「な!どうした、担任!」 「ハジメの頭がかわいそうなことになったから悲しくなっちゃったんじゃないの?」 ポリポリと豆を噛みながら悟郎が言う。 しかし、バカサイユの中ではそれが気が気ではないメンバーも居るようで、ハジメと悠里を引き剥がそうと頑張っている。 「先に教室に移動しておくから、なるべく早くおいでねー」 とりあえず、教室で静かに本でも読んでおこうと思ったのか、はそのままバカサイユを後にした。 「ねー、センセ。今日の補習ないなら、ゴロちゃん帰ってもいい??」 永田の淹れてくれたお茶を一口すすって悟郎はのんびりと声を掛けた。 |
桜風
09.2.1
ブラウザバックでお戻りください