思い出のチョコレート





「いやぁ、懐かしいね」

その光景を目にしては苦笑した。

女の子たちが群れている。

群れて、とある建物を包囲しているのだ。

「あったよね、こういうイベント」

うんうんとは独り納得した。

受験生、大変だろうしと思った。だから、今は出来るだけ近付きたくない学園に足を運んだのだが...

「なァにやってンだ?」

「ああ、ハル。お久しぶり」

アホサイユを遠くに眺めているの姿を目にして清春が声をかけてきた。

「おう。まさか、オメェもあいつらに何か持ってきたのかよ」

「まあ、持ってきたけど。甘いものは疲れた脳に良いと思うし。でも、やめとこうか...」

「僕には?」

いつの間にか至近距離に居た瑞希がポソリといった。

「マダラ!オメェ居るなら居るで気配殺すな!!」と清春が言っているが、瑞希は気にしない。

「あるよ。B6皆に。もちろん、トゲーにも」とが言うと少し機嫌が悪くなった。

「ほら、行こうよ。みんなは職員室?」とがそう言って歩き出す。瑞希は諦めての手を取って隣を歩くことにした。


職員室に入るとここも似たようなものだった。

「相変わらず、まあ...」と呆れたようにが呟く。

清春は人気があるにはあるが、できれば近寄りたくない人物らしく、瑞希は瑞希でノーリアクションなので彼らに声をかけようと思ったら結構勇気が要るようだ。

その点、残りの4人は人気があるみたいでそれぞれの机の上に可愛らしいラッピングの小山が出来ている。

「あれ?ちゃん!って、ミズキ。またどさくさに紛れてちゃんと手を繋いでる!!離れろー」

「いーやー」

は肩を竦めて「瑞希、ちょっと両手が使えないから」と言って手を離してもらった。

物凄く名残惜しげに手を離す瑞希に悟郎は「早く!」と急かす。

「じゃあ、まずはトゲーね」と言ってトゲーに小さな包みを渡した。

トゲーは器用にそれを剥ぐ。

「クケー!」

「ほう?中々器用だな」

トゲーへのプレゼントが気になったB6は彼の手元を覗き込んでいた。

はトゲーにトゲーの姿をしたチョコレートを渡していた。

自分で自分の姿をしたものを食べるその心境はどうなんだろうと思った者も居たが、それは敢えて指摘しないこととした。何より、トゲーが嬉しそうだし。

ちゃん、最近お仕事忙しいのに作ったんだ?」

悟郎が目を丸くして言う。『仕事』と言っても色々と抱え込んでいるのでそれを指しての『忙しい』だ。

「気分転換。ずっとパソコン画面見てたら疲れるもん。はい、ゴロちゃん」

そう言っては皆にチョコを配った。

機械的に渡されるそれにみなは苦笑を漏らしてそれぞれ礼を言う。

「Wait!待て、!」

翼が声を上げた。

永田にも渡していたは面倒くさそうに振り返る。

「なに?」

「な..なんだこれは!!」

「皆一緒だよ?」

の言葉に彼らは自分の手にある包みを思わず放り投げた。

失敬だな、とは溜息を吐いた。

が渡したものは数年前に悠里が皆に渡したチョコレートの姿そのものだった。

「うっはー!ウニだウニ!ウニチョコだぁ!!」

独り喜んでいるのはもちろん一だ。

「ほら」と一を指してが言うが、「草薙は前のときもああだった!」と瞬が抗議する。

「酷いなぁ」とが言う。

「チョコを溶かして型に入れて、トゲをつけただけだから。市販のチョコレートと一緒だよ」

「そうは言うが、あの時。担任もチョコレートを溶かしただけだと言っていたぞ!!」

それなのに、あんなおぞましいものに...とブツブツと呟いている。

どうやら、みんなのトラウマになっているらしい。

「じゃあ、みんなの一にあげてよ」

彼はどんなものでも喜んで食べる。

その言葉に素直に従ったのは翼と清春だった。

瞬は、なにやら葛藤をしている。ただでチョコレートをもらえるのに、これを誰かにあげるのかとか何とか、顔に書いてある。

悟郎と瑞希は別の葛藤がある。

「悟郎たちもくれるのか?」

ニコニコと期待した目で一が言う。

さん。大変おいしゅうございます」と不意に永田が言った。

翼たちはあの形に惑わされて冷静さを失っていた。これは、が作ったものだ。

形は確かに数年前に悠里が作ったものと寸分たがわないものとなっているが、家事歴がとても長いがチョコレートを溶かして固めるだけのものを失敗するはずがないのだ。

「あ、永田さん。中は生チョコなんですよ」

なに?!と皆の視線が永田に集まった。

、今何と?」

「中が生チョコ」

「チョコを溶かしただけって言ったじゃネェか!」

「まあ、それだと芸がないって言うか...」

の返事を聞いて翼と清春は一にチョコ返還要求を行っている。

「さっきくれたのはお前たちだぞ!」と抵抗しているが、きっと一の方が折れるのだろう。

ふと視線を感じては振り返る。職員室入り口に上條がいた。

会釈をすれば彼も笑顔でそれを返した。

「美味しい...」ぽそりと呟く瑞希の声に反応してが彼を見上げる。彼はとても幸せそうにまずはトゲ部分から口にしているようだ。

そういえば清春って甘いもの好きだったっけ?

何かムキになって一から取り返そうとしている彼を見ては首を傾げた。









桜風
10.2.1