| 「...サイテーだな、アンタたちは」 呟いたのは瞬だった。 「そうね。結局自分たちは努力をせずに瑞希君を頼ったのよ、私たちは」 「僕...?」 の母は頷いた。 「私がアメリカに行ったとき、あなたの両親に会いにも行ったわ。そのとき、瑞希君は日本に来たときと変わらないと聞いたの。だから、聖帝にって思った。 って根っからのお姉ちゃんでしょう?たぶん、瑞希君を放っておかないと思った。誰かと接していたら別の誰かが接してくると思ったの。誰かに手を貸していたら結局他の誰かとも接点を持つと思った。家族..って言うと図々しいかもしれないけど、あの子は家族に何かを求める事を放棄している。だから、他人に何かを見出したら生きたいって思ってくれるかもしれないって思ったの」 そして、その通りになった。 「ちゃんの両親は凄く酷いと思うし、今の話を聞いてボクは許せないって思った」 悟郎が言う。 「そうでしょうね」との母が呟く。 「でも、2つだけ感謝してます」 驚いたようにの母は顔を上げて悟郎を見る。 「ひとつは、経緯はどうであれちゃんを産んでくれたこと。だって、それがなかったらボクはちゃんに会えなかった」 「まあ、そォだよな」と清春が呟く。 「もうひとつは、ちゃんを聖帝に転校させてくれたこと。たったの1年だけど、でも、今までのどの1年よりも楽しかったし、一番ボクが変われた1年だった」 「確かに、楽しかった」 翼が同意した。 「ちゃんは、人の痛みに凄く敏感だった。ボクが沈んでたら気づいて声を掛けてくれた。絶対に気づかれない自信があったのに。でも、今の話を聞いて寂しくなった。ちゃんがそんな想いをしていたのにボクは気づけなかった」 「それは、私も同じね」と悠里が呟く。 彼女は何でも出来る。 それは悠里も思ったことだ。そして、それに甘えたのも事実だ。 「先生。あ、じゃないですね。えーと...」 衣笠が迷うと 「ああ、いいわよ。どうでも。たぶん何度も言い間違えるでしょうから。“”で」 との母が軽く言った。 「じゃあ、先生。さんは、分かっていましたよ。ご両親の結婚した動機。だから、この世で一番信じられないのは恋とか愛とかだって言っていました」 衣笠の言葉に彼女は驚いたように目を丸くした。そして、意味深にため息を吐く。 「...あらあら。じゃあ、この先あの子を好きになった人ってもの凄く厚くて高い壁に恋路を阻まれるのね...大変そう」 「き、衣笠先生。マジ!?」 一が問い詰める。 「ええ、盗み聞きしたときにそう言ってました」 今、“盗み聞き”って言ったか!? 「まあ、障害があるほうが燃えるよねー」 悟郎が軽く言った。 「待て、悟郎!?」 「ボクはちゃんが好きだよ。果たし状は受付中だから」 ニコリと微笑んで悟郎が言う。 「僕も、負けない...」 「み、瑞希!?」 「...一、今のうちに名乗っておいた方がいいんじゃないか?それでなくとも出っ歯を挫かれてるんだからな」 「翼君、それを言うなら“出鼻を挫かれた”でしょ!?」 合格してて良かった... ホロリと泣きそうになる。 「まあ!さんもモテモテねぇ」と嬉しそうに言ったのは衣笠の姉だった。 「他のクラスにも彼女に想いを寄せる生徒がいたんですけどね。流石に周りを彼らに固められて挫けていたみたいですよ」 と微笑んでいる衣笠も続けた。 「え!?何!!??衣笠先生。それ、ホントか!?」 「ええ、本当です。時々斑目君の爬虫類ショーが陰で行われていたり、さんの避けた仙道君のイタズラにかかって再起不能に陥ってみたり。中々面白い光景が繰り広げられていたんですよね」 面白がっていたのは確実に衣笠だけだろうな、と皆は思った。 「お、オレだって!オレは幼馴染で一番に近いんだからな!!」 やっと名乗りを上げた一にの母が冷ややかに水を差す。 「でも、幼馴染って中々恋人に格上げされない存在なのよね」 ガクリと項垂れた一を見ながら「じゃあ、ボクが一番可能性が高いんだねー」と上機嫌に悟郎が言う。 「悟郎は、男と見られてないから、論外......」 瑞希がそういうが、 「それを言うなら皆だよ」 と悟郎が強気に返す。 「で、ボクさっきから気になっていたんですけど。おばさんの持っていたその手提げバックはちゃんのだよね?」 「ええ。重いから荷物と一緒に送ってくれって渡されたの。卒業アルバムみたいね」 の母のその言葉に悟郎はニッと笑った。 「これは、もうするしかないでしょう」 と言いながらの部屋に入っていった。 「おい、風門寺。人の部屋に勝手に入るな。本人が居なくてもやはりそれは失礼だろう」 瞬が止めた。 「あったー!」と言いながら悟郎が戻ってくる。その手には色とりどりのペンが握られている。 「やっぱ、卒業アルバムって言ったら寄せ書きでしょう?」 「なるほどな」と翼が同意した。 「よォし。オレ様がサインを書いてやろう」 悟郎からペンを奪って清春が何やら書き始める。 「次は俺だ」と翼が主張し、「えー!発案者のボクがまず書くべきでしょう?!」と悟郎が割って入る。 ぎゃーぎゃーと皆が主張を始めた。 その光景を見ての母親たちは目を細めて見守った。娘を変えてくれたのは間違いなくこの少年たちだ。 「先生」 の母が悠里に顔を向けた。 「はい」 「卒業した後にお会いするなんて失礼をしました。そして、1年間、娘の担任をしてくださってありがとうございます」 深々と頭を下げた。 「こちらこそ、さんに凄く助けてもらったんです。みんなの補習を手伝ってもらったり。でも、もっと彼女にしてあげられたことがあったんじゃないかって今の話を聞いて思いました」 「...あなたのような先生に受け持ってもらえてあの子は幸せだったと思います」 の母の言葉に悠里は深く頭を下げて「ありがとうございます」と応えた。 「ボク良い事思いついた!」 悟郎が挙手する。 「何だよ、ゴロー」 面倒くさそうに清春が言うと、 「夏休みに皆でアメリカ行こうよ。そりゃ、ボク独りで行ってもいいけど。皆が顔を見せた方がちゃんが喜ぶでしょ!?」 「ほう。それは名案だ。何も知らせずに行って驚かせてやろう」 何やら翼が乗り気だ。 「そうだな!ものっすごいイタズラ考えて今度こそあいつに参ったって言わせてやる!」 清春が燃え始めた。 「元々、そのつもり」と瑞希が呟き、「オレも絶対に行くからな!」と一が主張した。 「まあ、悪くないな」と瞬も合意した。 「おばさん、ちゃんの向こうの住所知ってるよね?」 「もち。病院も知ってるわよ」 ウィンクしながらの母は応えた。 「よーし、まずはフラグ立てるぞーーー!!」 悟郎がもの凄く気合を入れていた。 「やれやれ。今年の夏休みは、大変そうですね」 「そうですね」 衣笠の言葉に悠里が他人事のように同意したら 「先生も一緒に行くに決まっているだろう」 と翼に言われて「へえ!?」と頓狂な声を上げた。 「センセもだよ。大丈夫、来年の3年でボクたちみたいに出来の悪い生徒は居ないから。補習はきっと無しだよ」 悟郎の笑顔に悠里は遠い目をした。 「さん...」 早速が恋しくなったのは、悠里だった。 |
桜風
08.12.26
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