| 中庭を歩いていると蹲った男子の姿を目にした。 声を掛けるべきか、と少し悩んだが、その男子が知り合いだったため、声を掛けることにした。 「ハジメちゃん?」 ひょいと覗き込むと、その足元には仔猫がいた。 「あら、にゃんこ」 そう言いながら一の隣にしゃがむ。 「おー、。かっわいいだろー!」 上機嫌でその仔猫の喉を擦ってやる。 気持ち良さそうに目を細めた仔猫は喉を鳴らしている。 「親猫は?」 「たぶん近くに居るぜ」 そう言いながらも猫を撫でる手を止めない。 「でも、学校内でこんなに猫を可愛がってたら怒られない?」 「んあー...まあ、怒られるだろうな」 ポリポリと頭を掻きながらばつが悪そうにそう言った。 だろうな、と思う。 この一の様子だと餌とかもあげているのだろうと想像できる。だったら、ずっと猫が居つくことになるし、他の猫だって寄ってくる。学校と言うのは大抵そういうのを良しとしない。 「まあ、ハジメちゃんは昔からにゃんこに目がなかったもんね。わんこかにゃんこかでどっちか選ぶこととなったら...?」 がそういうと暫く唸りながら悩んだ結果、 「んー、にゃんにゃんだなー。ものすっごく悩むけど」 と本当に心苦しそうに応えた。 「やっぱり!」 笑いながらはそう言った。 幼い頃から一は動物が好きで、動物といっても哺乳類だけではなく、確か爬虫類も平気だったと思う。 そんな性格のお陰もあってか、殆ど家に帰って来ない獣医のの母を師匠と慕っていた。 「おや、2人ともどうしたんだい」 不意に声を掛けられてと一は猫を庇うように振り返った。 そこに居たのは、香織たちのクラスの地理歴史担当教師の鳳だった。 「ん?どうしたんだい?」 「い、いや。何でもないって、鳳先生!な?」 一が応えてに振る。 「え?あ、うん。そうそう。何でもないんです」 「別に、隠さなくても良いよ。仔猫だろう?2週間くらい前から遊びに来ているよね」 苦笑しながら鳳が言った。 と一は顔を見合わせて同時に安堵の溜息を吐く。 「何だよ。知ってたのか、鳳先生」 「まあ、ね。でも、餌はあげないほうがいいと思うよ。この子たちだって草薙君がずっと面倒を見られるわけでもないんだろうし」 「...分かってるよ」 ちょっぴり拗ねたように一はそう言う。 少し離れたところで足音が聞こえ、そちらに目を遣ると知っている人物だった。 一はすっくと立ち上がって不機嫌にその場を去っていく。 はその背中を見送った。何があったのかわからない。 誰に聞いて良いのか。いや、そもそも聞いていいことか分からないから誰にも聞いていない。 瑞希に聞いたら教えてくれるだろうか。 ふと、見上げると鳳が少し心配そうな表情を浮かべて一の去っていった方を見ていた。 の視線に気づいたのか、を見下ろして微笑む。 「草薙君は、よくこの中庭に居るんだよ」 不意に鳳が言った。 「そうなんですか?」 何でそんなこと、知っているんだろう。 の問いに鳳は少し寂しそうな表情をして頷く。 「さんは、動物が好きかい?」 「...どうでしょう。草薙君ほど溺愛していないと思いますよ。見て可愛いと思うくらいですかね」 の言葉に「そうか」と鳳は応えた。 「草薙君は、とても優しい子だと、私は思っているんだけどね」 「否定は、しません」 の言葉に鳳は目を細めてそのまま「そうだね」と言いながらの頭を撫でた。 何故、自分は頭を撫でられた... 撫でられた箇所を擦りながら鳳を見上げる。 「さんは、転校してきてまだ間もないけど。この学園生活には慣れたかい?」 「たぶん、そこそこ慣れたと思います。昔からの知り合いが居てくれる学園ですし」 突然自分の話になったことに困惑しながら応えたに向かって鳳は微笑んで頷く。 「それは良かった。困ったことがあれば相談に乗るから遠慮なく職員室に来なさい」 そう言って鳳はその場を後にする。 足元には一の可愛がっていた仔猫が擦り寄ってきている。 「ごめんね。何も持ってないの」 はそう言いながらさっき一がそうしていたように仔猫の喉を撫でた。 仔猫は一が撫でているときほど気持ち良さそうな表情を浮かべなかった。 |
桜風
08.12.5
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