| ふと、人の気配がして目を開けると至近距離に見慣れた顔があり、慌てて飛び起きた。 「瑞希..じゃないねぇ」 首を傾げながらそういう。 目の前の姿かたちで言ったら、それは間違いなく、同じ年の親戚だった斑目瑞希だ。 が、雰囲気が全然違う。 「凄い!何で分かったの?」 声が違う。 何だ、どうした。ああ、夢か。 すぐにそう片付けた。 このマンションに引っ越してきて以来、結構非常識なことを目の当たりにしていたため、“非常識”には免疫が出来ているつもりだ。 隣を見ると気持ち良さそうに寝ている担任の姿がある。 ああ、そうそう。 神社で会ったんだ。初詣に出て、そこで先生に会って。悟郎が一緒にの家へと騒いだから収拾がつかなくなってそのまま先生を連れて家に帰った。 そして、お茶とかコーヒーを飲んですぐに寝た。そんな感じだった。 はそっとベッドから降りた。 「もしかして、間違ってたらゴメンね?...トゲー?」 「凄い!」 とても嬉しそうに瑞希の姿をしたトゲーはに抱きついてきた。 「痛い、トゲー。痛いよ」 「ゴメン。ミズキの姿だと、力の加減がよく分からないから」 「まあ、そうだよね。大きいもんね。B6で一番大きいもんね」 苦笑しながらは答え、やっぱり夢だなぁと思った。 でも、まあ。夢の中でも先生を起こすのは忍びないし、と思ってクローゼットからコートを取り出す。 その様子をトゲーは首を傾げながらじっと見ていた。 「何するの?」 「外に出ようよ。このまま話をしてたら先生や皆を起こしちゃうかもしれないから。あ、でも、トゲーは寒いのダメか」 さて、どうしようと思ってが腕を組むとトゲーは首を振る。 「ううん、大丈夫。ミズキの体だから、寒くても動けるよ」 でも、まあ。見た目寒そうだから、とはマフラーをトゲーの首に巻いた。 「でも、トゲーがこれを借りたらちゃは寒くない?」 「このコート、襟を立てられるから。結構あったかいんだよ」 そう言って着たコートの襟を立てて見せた。 「じゃあ、寒かったら言ってね。ちゃんと返すから」 「ありがとう」 隣室のクラスメイトを踏んづけないように注意深く足場を探して家を出た。 外に出るとツンと鼻の奥が痛く感じる。 「はあ、寒いね」 吐いた息が白い。 「うわぁ、息が白い」 トゲーはそれが嬉しいらしく何度も息を吐いていた。 「トゲーは、何でその姿になれたの?」 が先ほどからずっと気になっていたことを聞いてみた。 「わかんない。目が覚めたらこうなってたの」 それは... は絶句した。 とりあえず、あの部屋でトゲーがこの姿になっていたのだったら、誰かが少しの間でもこの瑞希のサイズのトゲーの下敷きになった可能性がある。 起きなかったんだ... 感心しながら「そっかー」と相槌を打つ。 「でも、トゲーとお話が出来る日が来るとは思わなかったな。私、瑞希みたいにトゲーの言ってること正確に分からなかったから」 「うん。トゲーもちゃと話が出来て嬉しいよ。ねえ、ちゃ。ミズキみたいに手、繋いでくれる?」 「ああ、いいよ。はい」 そう言ってはトゲーに手を差し出し、トゲーは嬉しそうにその手を取った。 「ちゃ、あったかいね」 「トゲーもあったかいよ」 そう言って2人は暫く近所を散歩する。 途中、トゲーが希望したため缶コーヒーを購入した。 「ミズキが毎朝飲んでて、どんな味がするのか知りたかったんだ」 そう言いながらコーヒーを一口飲み、顔を顰める。 「苦いよ」 「それが、大人の味なんだって」 笑いながらいうにトゲーは膨れて眉間に皺を寄せながらコーヒーを飲みきった。 「たぶんね」とトゲーが不意に言った。 はトゲーを見上げる。 「たぶん、トゲーがミズキの姿になってちゃと一緒にこうして歩いているのって、神様が願いを叶えてくれたからなんだよ」 は首を傾げた。 「さっき、神社でお参りしたでしょう?トゲー、神様に『ちゃとお話してみたいです』ってお願いしたの。そしたら、こうなってて」 「そっか」とが呟く。 「じゃあ、近々お礼参りに行こうね。瑞希に内緒にしないと。こうやってトゲーが瑞希の姿になれたのって、瑞希だって知らないことだから。2人で行こうね」 が笑いながらそう言った。 トゲーは嬉しそうに目を細めて頷く。 「トゲー、ちゃに会えてよかった」 の家に帰りながらトゲーが呟いた。 「そう?わたしもだよ」 が微笑んでそう言った。 「トゲーに会えてよかった。トゲーが居てくれて。瑞希と離れずにずっと居てくれて、わたしは嬉しかったな」 遠くを見るような目でが言った。 少し寂しげなその瞳が気になり「ちゃ...?」とトゲーが顔を覗きこむ。 それを受けては笑顔を作り「何でもないよ」と返した。 瑞希との会話をいつも聞いているトゲーはこんなは頑固で何を聞いてもダメなのを知っているから、何も聞かずにぎゅっと抱きしめる。 「ちゃ。トゲー、ちゃのこと、大好きだよ」 「わたしも、トゲーの事好きよ」 目を覚ますと隣には悠里が寝ており、やはり夢だったのかなと首をかしげる。 キッチンへ向かうのにクラスメイトを踏んづけないように慎重に足を運んだ。 ふと、そのクラスメイトの群の中に自分のマフラーが置いてることに気がつき、首をかしげる。 あれは、クローゼットに仕舞ったはずなのに... その下からひょっこり顔を出したのは白いトカゲのトゲーだ。 「トゲー!」 挨拶をするかのように声を上げたトゲーに向かっては「しー」と唇に人差し指を当てる。皆が起きてしまうかもしれない。 トゲーは皆の上を何でもないように駆けての肩に載った。 「おはよ、トゲー」 「クケー!」 どうやら、昨日のことは夢か何かではなく、半分くらいは現実だったのかもしれない。 「お礼参り、いつ行こうかね?」 が言うとトゲーは嬉しそうにまた「トゲー!」と鳴いた。 |
桜風
08.12.12
ブラウザバックでお戻りください