Dear my friends ―夕立―





突然の雨というものはこの季節には良くあることで、周囲の景色が白く煙ってぼんやりとしか見えない。

こういう日常の中に潜む非日常は好きだったりする。

今日の天気予報では夕立があるかも、と言っていたので、傘を持参していたはそれを差して足を進める。

靴に雨がしみて気持ち悪いなーと思ったり、スカートが重いなーと思ったりしながらも、それでも上半身はこの傘のお陰で何とか無事である。

どちらかといえば、スカートの方が無事であってくれた方がいいのにと思いながら本日寄ろうと思っていた薬局は諦めて自宅への最短距離を歩いていた。

ふと、店先の庇の下に長い髪をした人物を見た。

視界は悪いが、それが誰かと言うことは分かる。

「七瀬くん?」

か」

困った様子の瞬には声をかけてみた。

「傘、ないの?」

「時間がなくて天気予報を見て来れなかったんだ」

「...南先生の補習は?」

「今日はバイトがある。そうでなかったら補習を受けて、帰る頃にはこの雨も止んでいただろうがな」

なるほど、と納得してもその庇の下に入った。

「これ、貸してあげるよ。花柄で七瀬くん的には恥ずかしいかもしれないけど」

が言って、差していた傘を瞬に差し出す。

「いや、それだとが困るだろう」

瞬はそう言って断ったが、

「凄いんだよ。この鞄の中にはなんと折りたたみ傘があるの。七瀬くん、時間がないんでしょう?」

の言葉に瞬は頷く。そして、躊躇いがちにの手から傘を受け取った。本当に急がないとバイトに遅刻してしまう。

「すまないな。明日返す」

「いいよ。というか、意外と似合ってるね、花柄」

笑いながら言うに「悪いな」と言ってそのまま傘を持って駆け出した。でも、足は意外と遅かった。

「さて、」とは庇の下から空を見上げた。

夕立だからすぐに止むだろうな、と思ったが、意外と雲の流れが遅い上に、雲の薄い箇所が見あたらない。

これは、意外と長く降る雨だったのかもしれないな...

取り敢えず、30分くらい時間を潰して、それで止まなかったら濡れて帰ろう。

先ほど瞬に言った言葉は実は嘘だ。

傘を持って歩いて更に折りたたみを持って歩くなんて面倒なことはしない。重いから。


さん」

声を掛けられて振り返ると二階堂が立っていた。

「二階堂先生」

「七瀬君に傘を貸して、あなたはどうするつもりなのですか?」

呆れたように言われた。

「七瀬くんはバイトの時間が迫っているみたいでしたので。わたしは時間が有りますし、通り雨だと思って舐めてかかったんですけど...」

「この雲だと、きっと長く降りますよ。これを貸してあげます。ああ、いや。差しあげます」

そう言って庇の下に入りながら二階堂は今自分が差しているビニール傘をに差し出した。

「でも、先生は...」

「いいから。取り敢えず持ってください」

そう言われては取り敢えず受け取った。

すると、二階堂は自分の鞄の中から折りたたみ傘を取り出す。

傘と折りたたみ傘を持つ人だったんだ...

は少し感心した。

それが表情に出たのか、二階堂は眼鏡の位置をなおして、

「以前、突然降られたので、その傘は通勤途中のコンビニで購入したものです。取り敢えず、既に置き傘があるのに学校にずっと置いておくのはどうかと思いましたので。家にも何本かそういった経緯の傘があるので、減った方が助かります。
勿論、さんにとって迷惑でしたら明日にでも持ってきてもらえればちゃんと返却は受けます」

とその傘の経緯を説明した。

なるほど、と納得して

「じゃあ、貰っちゃってもいいですか?わたし、置き傘がないからこれを置き傘にさせてもらおうかと...」

「ええ、構いません。それでは」

そう言って二階堂は自分の鞄から出した黒い折りたたみ傘を差して庇から出て行き、駅の方へと足を進めていった。

は庇の下から出てくるりと傘を回してみる。

水滴が飛んでそれが少し楽しい。

家に帰るまでそれを何回か繰り返した。

「七瀬くんはこっちの方が良かったんだろうなー」

呟いて、先ほど結構似合っていた瞬の花柄傘姿を思い出して小さく笑った。









桜風
08.7.11


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