あいのうた 10





バラバラバラと、何だか意外と聞きなれた音が聞こえては家の外に出た。

「あー...」

遠い目をしてそれを見上げる。

『真壁財閥』と煌びやかに書いているへリが着地してきた。

ヘリポートではない、休耕田の真ん中に静かに着地し、ドアが開く。

「...ねえ、一。あれって何?」

に遅れて家から出てきた一が笑っている。

シーズンも終わったので、の母親に結婚の挨拶にやってきたのだ。

一の家は、先日済ませた。

あとは、の父親だが、どうにも逃げ惑っていると言う情報を得たので、もう放っておくことにしたのだ。


それはともかく。

今日は、彼らが何の用事があってここまでやって来たのか全く聞いていない。

「凄いなー。やっぱ、永田さんは違うな」

一がのんびり呟いている。

ちゃーん!」

ヘリから落ちてきた悟郎がまっすぐに向かって駆けて来たが、隣に立っていた一がをひょいと抱き上げたので、悟郎の抱擁は空振りに終わる。

「なにさ、ハジメ!減るわけじゃないんだしハグぐらいいいじゃないのさ!」

「ダメだ。はオレと結婚するんだからオレのだ」

は溜息をつき、ヘリから降りてくる面々を眺めた。

揃うとは...

「ねえ、どうしたの?」

「一から聞いたのだが、挙式及び披露宴をしないとは本当か?」

信じられない、という目で翼が問う。

「うん、面倒だし」

ちゃん!ダメだよ。ゴロちゃんってば、ちゃんに似合いそうなウェディングドレスのデザイン20個ほどパターンまで引いちゃったんだから!!」

悟郎が言う。

「は?」

が声を漏らし、

「そうだ。俺もそれなりに良さそうな会場をpick upしておいたぞ。planもいくつか作らせた」

と翼が胸を張って言う。

「せっかく、友人達が結婚するんだ。ヴィスコンティだって演奏してやるぞ。タダで、だ」

世界ツアー中なのに、何故いるのだろうか...

「キシシシ。オレッサマもおめぇがアッと驚く企画を考えてやってるんだ。ちゃんと披露宴はしろよ」

、今ならまだ間に合う。そこの失業男と結婚せずに、僕と...」

「オレは失業してねぇよ!」

瑞希の言葉に一がムキになる。

「あらあら。美形さんたくさんいらっしゃーい」

家の中から出てきた母親が悟郎達を招き入れる。

と一は顔を見合わせて苦笑し、家の中に入った仲間に続く。


「ところでさ。挙式も披露宴も面倒だって言ったの、わたしなんだけどー?」

B6が固まって結婚式及び披露宴の打ち合わせを始めている。

こういうのは新婦が主役ではないのだろうか...

そして、その主役が「面倒だから良いよ」と言ったのだから、もう良いのではないだろうか?

しかし、彼らはそれを良しとしないらしい。

相変わらず、自分の意見は無視のようだ。

は溜息をつき、「コーヒー飲む人ー!」と彼らに声をかける。

全員が手を上げた。

「まて、。庶民の豆は薄いからな」

翼がそう言ってを止める。

「永田!」

「はい、翼様」

「庶民に、セレブのコーヒー豆を味わせてやろうと思う」

「翼ー。良いから、永田さん仕舞っちゃって!」

はそう言いながら豆を取り出した。

「これから挽くのか?」

瞬が言う。

「うん。うち、コーヒーオタクが家にいるからね」

そう言って振り返る。

自分に注目されたの母親は軽く手を振った。

「挽き立てなら、庶民の豆もそう悪くないから」

そう言っててきぱきと準備をするに永田は苦笑し、「ここはひとまずさんの仰るとおりにしてみませんか?」と翼に提案した。

「たまには薄いコーヒーも良いだろう」

翼はそう言って頷く。

「どーもねー」と適当に返しながら人数分のコーヒーを入れて彼らに渡す。

プランやデザインがあると言うなら、とりあえず見てみようと一の隣に座った。

一応、彼らの持って来た情報が一番見易い場所なのだ。

悟郎のデザインは、少し女心がくずぐられた。翼の持ってきたプランだって興味が沸く。

が興味を示しているのは良いことだが、少し面白くなくて一は「」と名を呼ぶ。

「ん?」とが見上げると一は彼女にキスをした。

ボタボタと何かが落下してきた。

「ちょ、マダラ!つーか、ナギ!!」

「やー、だってキスしたくなったんだから仕方ないだろう?」

「やだ、これ何?!白いコモドオオトカゲ?やーん、アナコンダも白い〜!!可愛い!!!」

少し離れたところで、子供達の様子を見ていた母親が弾んだ声を上げる。

「窓開けて。今は、まだ暖かい気候だから何とか大丈夫だと思うけど...」

が言うと

「え、この子達。ウチの子にしたらダメなの?」

と彼女が真顔で問い返した。

「ま ど あ け て!」

に強く言われて肩を竦めた彼女は窓を開けて、窓から出て行く白い爬虫類たちを名残惜しげに見送る。



それから1年後、2人はささやかな披露宴を行った。近しい友人と身内に祝福されて2人は幸せそうだ。

「何もかも、一君のお陰ねー」

穏やかに微笑む娘を見て零す。

「面白くないけどなぁ」

元夫婦をしていた2人は娘の笑顔を見守った。

「天文学者さんは、逃げ切ったんだって?チキンねー」

目の前にいる天文学者に言うと

「獣医さんは、『を生んでくれたことだけは感謝してる』って新郎に言われたんだって?」

と負けじと返ってきた。

「...いいのよ、感謝されてるんだから。

「でも、ちょっとだけ安心したなぁ」

呟く天文学者に獣医が頷く。

自分たちの子供をしていたせいで『幸せ』を諦めていた彼女が、幸せを手にした。

少なくとも、今は不幸に見えない。

これから先はどうなるか分からないが、そんなに心配ないと思う。

彼女たちはお互いを大切だと想っていて、そして、心から心配して助けてくれる友人達がいるのだ。

何かあっても、きっと乗り越えるだろう。

手伝えることがあれば、手伝う。

ただ、それは本当に少なくて、寧ろ自分たちの無力を感じてしまうことになりそうだ。

ふと、がこちらを向く。

「ありがとう」

声に出さずに彼女は口を動かした。

不意を衝かれて2人は同時に息を飲み、くるりと回れ右をした。

『愛』を教えることが出来なかった子に、『愛』を向けられた。

「不意打ち...」

呟いた彼女の頭を元夫が優しく撫でる。

彼女は暫く大人しく撫でられ続けた。









桜風
12.12.2


ブラウザバックでお戻りください