Dear my friends ―夢オチ―





バカサイユのドアを開けると翼たちが円になって何かを囲っている。

「んー、どうした?」

「あ!ハジメ!!この子、ハジメが連れてきたの?ミズキはちゃんだって言ってるんだけど...」

振り返った悟郎がそう言った。

この子、とは何だろうと思い悟郎の肩から円の中心を覗き込んだ。

居たのは猫で、一を見た途端駆け寄ってくる。

「なァんだよ。やっぱりナギのじゃねぇか」

「えー!でも、何処となく雰囲気が...」

清春の言葉にプクーと頬を膨らませながら悟郎が反論している。

「おー、どうした?お腹空いてんのか?」

そう言いながら猫を抱え上げて頬ずりする。

<ハジメちゃん!>

ピタリと一の動きが止まった。

アニマルマスター、草薙一は動物の言葉が分かるという。

そして、今周囲の皆には「ニャーニャー」としか聞こえていないこの猫の鳴き声も一が聞けば何を言っているか理解できる。

「あ、えーと..もしかして?」

<ハジメちゃん!わたし。わかる??。トゲーに訴えてみたけど、ちょっと難しかったみたいで...>

相変わらず猫はニャーニャー言っているが、一の表情を見た翼が「どうした、一」と声を掛ける。

「あ、えーと...コイツ、だって」

「ほーら!ほーら!!ゴロちゃん言ったでしょ?この子、ちゃんみたいだ..って。えーーーー!!!」

得意げに悟郎が清春に言ってみたものの、この現実は驚くに値するもので、悟郎は声を上げて驚いた。

「どういうことだ、草薙」

瞬も気になるようで詳細を聞いてくる。

「あ、えーと。ちょい待って」

そう言って「なあ、どうしてにゃんこになってんだよ」と自分の手の中にいる猫に向かって声を掛けた。

<さっき、このバカサイユに来て。それで喉が渇いたから机の上にあったピーチジュースを飲んだの。誰のかわかんなかったんだけど、あとで買って返せばいいかなーって思って...>

「ピーチジュース?」

<うん。桃の香りがしたし、味も。あの味は絶対に100%だね。ただの甘ったるい桃の香りがする液体じゃなくて少し酸味もあったし>

かなりしっかり味わって飲んだらしい。

「んで?」

<気がついたら、皆に囲まれてたの>


色々すっ飛んでる気もするが、一は今から聞いた話をした。

くるり、と背を向けてバカサイユを後にしようとした人物の襟首を掴んだのは瞬だ。

「仙道。やはり貴様か」

「んなわけねェだろ!」

「じゃあ、何で今逃げるようにドアに向かって行ったんだ」

「...つうか、どう考えても悪いのは勝手に飲んだヘチャだろーが」

「む!じゃあ、やっぱりキヨがその変なジュースをこのバカサイユに放置したんだね!?」

悟郎もそう言って真偽を問う。

「というか、どこでこんな怪しげなものを手に入れたんだよ」

呆れながらも一が聞くと、「オバケの机の上にあったんだよ」とそっぽを向きながらそう言った。

「ってことは、衣笠先生のか。衣笠先生に聞けば何か分かるかもな」

頷く一にが「にゃーにゃー」言う。

ぽかん、と口を開けたままになった一に、「は何と言ったんだ?」と翼が聞くと

「衣笠先生、今日は午後から出張だって。明日の夕方帰ってくるらしい」

が言ったことを訳す。

シーンとバカサイユの中が静まった。

「携帯!携帯で聞き出せば良いんじゃないのか?対処法とか、何かあると思うし」

瞬の言葉に一は慌てて頷いた。

「そ、そうだな!」

一は携帯を取り出し、ダイヤルした。

しかし、聞こえた来るのは留守電メッセージで、連絡が取れそうもない。

一応、留守電にメッセージを吹き込んでおく。


「でも、一晩このバカサイユにちゃん置いて帰るわけには行かないよね」

とりあえず、今は何も出来ないということになってしまった。下手に何かをして元に戻らなくなったらそれこそ大変だから。

「僕が、つれて帰る」

そう最初に立候補したのは瑞希だった。

「でも、ミズキの家ってペット禁止でしょう?犬とか猫とか」

そう言った悟郎にミズキは不機嫌な表情を浮かべた。

確かにその通りだ。トゲーは泣かないし、毛があるわけではないからアレルギーを持つ人に対して影響がないため、こっそり一緒に住んでいるのだ。

「俺はそんな余裕がないから、無理だな。バンドの練習に連れて行くわけには行かないし」

そう言ったのは、瞬だ。

「キヨのところは、逆に危ないからダメだよね。と、いうことはゴロちゃんちしかないって事だね!」

そう言って悟郎がに向かって手を伸ばすが、一がを抱えなおして「ダメだ」という。

「何でさ!ゴロちゃんちゃんの事、もの凄く大切にするよ!お風呂だって一緒に入っちゃう!」

「あー、でもさ。悟郎。お前、が何言ってんのか分かるのか?」

一にそう言われて「あ...」と悟郎は絶句する。

流石にそれは無理だ。どんなに大切にしても、が何を言っているかまでは分からないだろう。

「と、なると一しかないな。お前のマンション、動物大丈夫だったか?」

翼の言葉に一は頷く。

「ああ。だから、本当は飼いたいんだけどなー。昼間は学校があるから寂しい思いをさせることになるし、可哀想だから飼ってないだけ」

そう言いながら自分の手の中の猫に頬ずりをする。

猫大好き。

<ハジメちゃん、痛い>

にゃー、と文句を言われて慌てて頬を離す。

「じゃあ、今日はもうオレ帰るわ」

そう言って一はを連れてバカサイユを後にした。


「そういや、の鞄は?」

<バカサイユにあったはずだけど...今はどうしようもないから元に戻ってから探すよ>

「だなー」

<でも、流石にこのままってことは..ないよね?>

不安げにが言った。

猫としてこの先の人生を送るなんてどうしていいか分からない。

「だぁいじょうぶだって!もし、がこの先ずっとにゃんこのままでいても、一緒に居てやるから心配すんなよ」

そう言って喉を撫でた。

は気持ち良さそうに目を細める。

こういうところは猫なんだ?

そう思いながら、が喜んでいるので一はの喉を撫でながら帰宅した。




「って、夢かよ...」

あからさまにがっかりする。

少し寒気がして、パッと目が覚めた。

屋上でサボっているとこの時期、夕方は冷える。

HRも終わったか、と時間を確認して校舎に入った。

HRには戻るといってサボったのに...

教室に戻ると誰も居なかった。

そういえば、今日の補習はどうなってたんだっけ?

携帯を取り出したが、バカサイユに行けば誰かしら居るだろうし、そこで聞けばいいやと思って携帯をポケットに仕舞い、バカサイユへと向かった。

がにゃんこかー...」

確かにあれは現実離れしていたが、それでも可愛かったなーと思い出しながら少し冷たくなった風をうけつつバカサイユへの道を歩いた。









桜風
08.10.24


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