| バカサイユのドアを開けた途端「パン!」という音がしては足を止めて目を瞬かせた。 「Trip or treatment!」 何か明らかに違う言葉をかけられた。 はその声の主に向かってニコリと微笑み、 「じゃあ、トリップの方で」 と応えた。 見ると、彼は可愛らしい格好をしている。いや、いつも可愛らしい格好はしているが、今回はそれとは趣向が違う可愛さだと思う。手には空になったクラッカーを持っているからさっきの音はそれだったのだな、と納得した。 「じゃあ、悪戯だね!」 ああ、本来の言葉の意味は知っているのか。英語で話す途端違う単語になるだけで。 「それを言うなら、『Trick or treat』でしょ?」 の言葉に彼は首を傾げた。 「あれ?そうだっけ?ゴロちゃん、ポペラ間違っちゃった?」 「パラッペ間違ってたね」 が言うと悟郎は少し嬉しそうに笑った。 「んー、この場合は『ピロポーンと間違ってた』の方がいいかも」 どう違うのだろう。文法が未だに分からない... はそう思いながらもやっとバカサイユに足を踏み入れて溜息を吐いた。 いつの間にこんな飾りを... オレンジ色のかぼちゃが部屋の中に多数置いてある。 「で、ちゃんはこれね」 そう言って差し出されたのは黒が基調のレースやら何やらがかなりついたゴスロリ風のワンピースとアクセサリと言って良いのか、それが渡された。 「猫耳ですか。これは、何のモチーフですかねぇ」 既に諦めモードで聞いてみる。 「ゴロちゃん、魔女っ子なんだよ。魔女っ子のパートナーといえば猫でしょう?ちゃんはゴロちゃんのパートナー。猫又!」 いきなり呼び名が和風だな。 そんな事を思いながら「これは、逃れられないのかしら?」と周囲を見渡すと、部屋の中に居る全員が仮装をしている。 「、諦めろ。断れば風門寺が五月蠅いぞ」 既に一度断ったのか、瞬は面倒くさそうにアドバイスをくれた。 「あー、はいはい。着替えてくれば良いんですね。で、今日はその格好のまま補習?」 「補習はお休み!だって、ハロウィーンくらいポペラ楽しくしたいでしょ!」 悟郎にそういわれ、は肩を竦めて別室に向かった。 着替え終わって出てみると悟郎が甚く満足げにを見て頷いている。 「なァんだ、ヘチャ。やる気満々っていうコトか?」 「...やる気?」 そんなもの知らない。何より、楽しそうに言う清春に不安を覚える。 「何っだよ、知らねェのか?ハロウィンは悪戯し放題の日なんだぜ!」 ...それは、初耳だ。 ふと、このバカサイユの主である翼の姿を探す。彼はソファに座り、永田の淹れてくれた紅茶か何かを飲んでいる。 「何で、止めないの?」 こっそり聞いてみた。 「What?!何故俺が面倒を全部引き受けて悟郎を止めなければらん」 「だって、唯一本物のハロウィン経験者でしょう?何かゴロちゃんたちの解釈ってもの凄く間違っている気がするんだけど...」 「別に俺は困らないから気にしない。それに、悪戯かお菓子かを選べるんだから悪戯を選んだやつが悪いだろう」 自分はその両方とも示されていなかったんだけど... そう思いながらも諦めた。 瞬も諦めている以上、この暴走し始めている悟郎と清春を止めようと思ったら相当の体力と気力が必要になるだろう。 うん、確かに大変そうだ。 は納得し、そのまま翼の座っているソファの隣に腰を下ろした。 「翼のそれは..ドラキュラ伯爵?」 「ああ、そうだ。悟郎がwitchで、清春がミイラ男。瞬は、フランケンシュタインだとか言っていたな」 「あのシーツって、もしかして瑞希?」 少し離れたソファの上にシーツがある。何かを下に含んでいるのか、立体感がある。 「ああ、普通にghostだとか言っていたが..寝てるな、あれは」 「寝てるね、あれは」 気持ち良いんだろうな。 「そういえば、一は?」 部屋の中をキョロキョロと見渡す。もしかしらお菓子に夢中での訪問に気づいていないのかもしれない。 「まだ来ていないぞ。一の衣装も悟郎に用意させられたがな」 と、なると。メジャーなところで言えば残るは狼男か... 「ゴロちゃん、こういうの好きだったんだね。というか、衣装は翼?」 が聞くと翼は頷いた。 「の以外はな。断ろうとしたら、女装と仮装のどちらがいいと迫られた。どうしてもこのeventはしたかったんだろう」 好きそうだもんなーとは納得した。 暫くしてバカサイユのドアが開く。 入ってきたのは一で、悟郎はやっぱりクラッカーを鳴らした後に「Trip or treatment!」と言っている。 一は驚いたようだが、「お?ハロウィンか?確か、お菓子くれるんだよな。食う食う!」と悟郎の言葉を軽く無視して部屋の中に入ってきた。 しかし、ぴたりと足を止めて暫くを見つめ、やがて口を開く。 「、お前それ...」 見ているのはの頭の上。 おそらく猫耳が気になるのだろう。 「ゴロちゃんがこれに着替えるようにて言ったんだニャー」 部屋の中の空気が変わった。 ああ、ニャーニャー語は柄ではなかったか... 反省して周囲を見渡すと、とりあえず間違いなく隣に座っている翼は引いている。 が、それ以外は読めない。 永田を見るとニコリと微笑み、「可愛らしいので皆さん驚いていらっしゃるんですよ」といわれてちょっと複雑な思いを抱く。 まあ、普段全く可愛らしいとか無縁だろうけど。そこまで驚くようなことか?! 気がつくと目の前に一が立っている。 何だろう、と構えると、 「、これからニャーを言葉の最後につけて話すってのはどうだ?」 「...やだよ」 少なくともドン引きする人物が居る時点でもう『ニャー』は言う気がない。 「え!もう1回!!ゴロちゃんもう1回ちゃんの『ニャー』、ポペラ聞きたいナリ!」 悟郎まで詰め寄ってくる。 どうして此処まで盛り上がってるんだろう。 「もう..1回」 「クケー!」 ふと、背後から突然声をかけられてと翼は思わずソファから立ち上がって振り向く。 寝ていたはずの瑞希がのっそり立っていた。 此処まで強く希望されると、ネタとしてからかわれているだけのような気がしてならない。 「絶対にヤダ!」 そう言っては自分の口を両手で塞ぐ。 暫く交渉は続けらたが、どうにもは気を変える様子がないため、一たちは諦めた。 その後、ミイラ男の悪戯を阻止すべく狼男や猫耳ゴスロリが校内を徘徊していたという多数の目撃証言とその報告が職員室にもたらされた。 それを受けて衣笠がそのミイラ男を捕獲し、ついでに小一時間ほど説教をしてみたという。 |
桜風
08.10.31
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