HOME 1





カランとドアが開いてウィンドチャイムが鳴る。

あまり広くない店内はカントリー調のアイテムで統一してあり、ドアの上には少し控えめにこの店の名前『HOME』という木製の看板が掛かっている。

「いらっしゃいませ」

カウンターに立っていた女性が声を上げた。

そして、客と目が合うと微笑む。

「いらっしゃいませ」

同じ言葉を繰り返す。

「サンドイッチ、と..コーヒーかな?」

客はそう言ってカウンターに座る。

「かしこまりました」返事をして彼女は調理を始めた。

「お店のほう、どう?」

「まあ、ボチボチです。こうして先生も来てくださるから」

そう言って笑う。

「あら?わたしだけだと潰れているでしょ?」

先生と呼ばれた彼女も笑って応える。

「ねえ、さん」

両肘をついて手を組み、その上にあごを載せた彼女はカウンターの中にいるに声をかける。

名を呼ばれた彼女は振り返り、

「何ですか、南先生」

と恩師の名を呼ぶ。


は母校の近くで喫茶店を営業している。

母校、それは聖帝学園であり、両家の子息息女が通うブルジョワジーな学校だ。

もちろん、の実家もそんなブルジョワジーの仲間ではあるが、はそういうのがどうにも好きではなくて、結局高校を卒業したときに選んだ進路は専門学校。

親は大反対をしたが、結局頑としてそこを譲らす専門学校を卒業してそのまま社会に出た。

そして、こうして若くして喫茶店なんぞ経営している。

経営と言っても、放浪癖のある伯父の代わりに留守番をしている雇われ店長だ。

だから、先ほど恩師の南悠里に店のほうはどうかと聞かれても大して深刻に受け止めていない。

まあ、実際ボチボチで間違っていないし、資金繰りに非常に困っているとかはないのだ。

でも、まあ。

結局親戚を頼っているのだから全く甘チャンだと思っているし、ちょっとそんな自分が嫌いだったりする。


「どうぞ」とは悠里の前に先ほど注文のあったサンドイッチとコーヒーを置いた。

「ありがとう」と応えて悠里はコーヒーに手を伸ばす。

「で、先生。さっきの。何ですか?」

「ん?うん...ね、北森真奈美さん、って覚えてる?」

「もちろんですよ!え、真奈美がどうしたんですか?」

悠里は中等部のときにお世話になって、そのまま高等部でもお世話になっている。

元々中等部の教師をしていた悠里だったのだが、何故か高等部に引き抜かれてそのまま高等部の教師となったのだ。

中学を卒業するときにもう悠里の指導を受けることはないと思って寂しい思いをしていたのだが、高等部に上がってみるとそこにもいた。

噂に上ってはいたが、本当だとは思っていなかった。

そして、今悠里が口にした『北森真奈美』。

彼女は3年のときこそクラスが分かれてしまったが、中等部に所属していた間は最も仲が良かった友人だったが、彼女が家庭の都合で引っ越したため、一緒に高等部に上がることはできなかった。

しかし、進路が分かれても手紙などで連絡を取り合っており、今でもにとって友人と呼べる存在だ。

「そう。就職とか、大丈夫かしら...」

「あー、今物凄く苦しいみたいですね。あ、でも昨日だったか一応内定貰ったっていう連絡来ましたけど...先生にも会って相談に乗ってもらってるって聞きましたよ?」

「まあ、そうなんだけど。ねえ、さん。北森さんの家、知ってる?」

「ええ。あれ?先生はご存じないんですか?あ、でも引っ越すって言ったなぁ。就職決まったし、って」

「そこの住所、教えてもらえるかしら?」

何で本人に聞かないんだろう、と思いつつ何かのサプライズを考えているのかと思っては頷いた。

悠里に限って真奈美にとって害になるような何かをするとは思えないし。


「しかし、さん。ほんとにコーヒーを上手に淹れるわね。サンドイッチも美味しいわ」

「ああ、いつか乗っ取ってみようと思っているので。この喫茶店」

笑いながらが言う。

悠里は呆れたように笑い、「まあ、オーナーさんの不在が長いものね...」と言って頷いた。

「でも、わたしも料理得意よ。こんど何か作りっこする?」

「いいですよ。この店の定休日とかで先生の都合のいい日にでも」

にこりと微笑んでは頷いた。









桜風
09.12.4


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