| そろそろ春が恋しくなったある日。 の喫茶店に大勢見知った人物たちがやってきた。 「どうされたんですか?!」 目を丸くした。 やってきたのは恩師で聖帝学園高等部の名物教師たち6人。T6と呼ばれていた。 「こんばんは、さん」 物腰の柔らかい、でも考えていることを全く読ませない数学教師が挨拶をした。 「あ、どうぞ。どの席も空いていますよ」 は慌てて促した。 「では、カウンターで」 そう言った数学教師に倣って6人全員カウンターに座った。 なんか、緊張するというか...要らないプレッシャーが... 「ご注文はお決まりでしょうか?」 緊張するけど、いつもどおりに。 そう言い聞かせて6人に注文を聞く。 彼らは思い思いの注文をした。 混雑しているときはこれよりも大変だから特にてんてこ舞いにはならなかったが、それでも6人揃ってやってきていることに疑問を感じた。 全員分の注文をこなしたあと、はやっぱり気になるので聞いてみた。 「で、先生方は何で揃ってこちらに?」 「私たちは、当分此処を離れることになったからね」 地理歴史担当教師の言葉にはぽかんとした。 やがて 「転勤、ですか?」 と聞いてみる。 私立高校の教師の転勤というのは想像できない。 「まー、そんなとこだな」 外国語担当教師がワッフルを頬張りながら言った。 「みなさん、揃って?」 「まあ、そういうこった」 理科担当教師が苦笑した。 「...噂、があるんですけど。理事長が変わったって」 『理事長』といえば...と自分の在学中のときの国語教師を見た。 「まあ、色々とな。大人の事情ってのがあるんだよ」 そう言って彼は紫煙を吐く。 「しかし、まあ。そういうわけで此処には当分来られませんからね。来納めと思いまして」 「納めないでくださいよ」 何だか悲しそうな表情で笑いながらは公民担当教師に返した。 「南先生は?」 「子猫ちゃんも..まあ、アレだ」 言いにくそうに国語担当教師が言う。 「転勤ってことですか?そういえば、どちらに?」 彼らはそれぞればらばらの国を口にした。 「え...ち、ちょっと待って。待ってください。国外なんですか?!」 「姉妹校があるからね」 姉妹校があるにしても国外とは... 「じゃあ、当分寂しくなりますね。というか、教師が7人も抜けるなら補充も大変でしょうに」 少し呆れた風を装ってが呟く。 実のところ、物凄く動揺している。 「もう何人かとは顔合わせをしましたよ」 数学教師の爆弾発言に「へ?!」と声を漏らした。 にこにこと微笑を浮かべて..というかやっぱり何を考えているか分からない表情で数学教師が言った。 「お会いに、なったんですか?」 「ええ。なんと言うか..この先が楽しみな若者たちでしたよ?」 「若者...」 「はい。理事長も含めて、ね?」 そんなに理事長は若いのか... 「きっと、そうですね。今まで知ることの出来なかったことを知ることになると思います。ある意味、否が応もなくですけど」 何だろう、彼が『否が応もなく』というと物凄く不吉な響きになるの何故だろう。 「さん。考えがダダ漏れですよ?」 ニコリ、と微笑んで数学教師が言い、は慌てて表情を作った。 「では、ね」 そう言って地理歴史担当教師が立ち上がる。 見れば、皆注文したものを平らげていた。 「しっかし、のコーヒーが飲めなくなるってのも、なんて言うか..寂しいな!」 ニッと笑って外国語担当教師が言った。 「ありがとうございます」 支払いをしようとした彼らをは制した。 「今回のはツケです。戻ってきたときに払いに来てください」 ひとり、の言葉にかなり喜んだ者が居たが、それ以外は苦笑した。 それぞれが了承の言葉を口にする。 彼らは来たときと同じように、いつものように店を出て行った。 国語教師は頭を抑えながら歩いている。 先ほど、が支払いをツケにすると言ったときに喜んだため、地理歴史教師が何故か持っていた出席簿の角が脳天に振り下ろされたのだ。 ああ、この光景も見納めか... その光景は実は高校を卒業したときに見納めたはずではあるが、は何となく感慨に耽っていた。 |
桜風
09.12.11
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