| 「ねえ、マコちゃん」 急遽入った仕事のために迎えに来た車の中で中田に聞くことにした。 「何でしょう、坊ちゃん」 「さん、ってどういうヒト?」 「..ですか」 バックミラー越しに八雲を見ると頷く。 「どういう..とは?」 聞き返されて八雲は先ほどの話をした。 聞き終わって、ああ、そうかと中田は納得した。 「の家は、というか、両親はちょっと特殊というか。あっしが実家を出るまでのことしか知りませんし、家同士でそこまで繋がりがあったわけじゃないのであまり詳しくはないんですが」 そう前置いて話し始めた。 の両親は上昇志向が高かったそうだ。 今でこそあまり見なくなったが、自分の子供には政略結婚をさせて家を大きくさせようと思っていたらしい。 しかし、中々子供に恵まれず、結局が出来たのは彼らが諦めかけたときだった。 だからこそ、両親は諦めきれなかった夢が一気に膨らんだ。 は元々たくさんの事に興味を持っていた。 幼い頃からたくさんの『何故』を抱えてそれに果敢に挑戦したり、解明しようと猪突猛進だった。 しかし、親がそれを許さなかった。 彼女が興味を示したものを全て取り上げ、自分たちの望むような子供となるように色々と強要した。 そんな窮屈な中、は育った。 だが、そんなが今のように朗らかな人物になれたのは、きっと家族のお陰ではなく、友人、恩師、そして..親戚の伯父。 「友達?」 「ええ。今、話してて思い出したのですが..たぶん、その友人というのは北森先生ですよ」 「へ?センセイ?」 そうだ。きっとそうなのだろう。 中学当時の彼女が口にした友人の名前、『真奈美』。 その名前以外、彼女の友人の名前は口にした記憶がない。 大して親戚付き合いが深いわけではなかったが、それなりに会話をしていたつもりだ。その中で唯一聞いたことがある友人の名前。 そうか... 「じゃあ、恩師って?」 八雲の言葉に中田は「すいやせん」と応える。 その頃には既にとの交流はなかった。 それについては、先日あの店に行ったときに話をしてその中で自分が感じ取ったところだ。 でも、きっと高校時代の担任だろう。 あの進学校に通っていて大学に行かない道を一生懸命サポートしてくれた教師だ。彼女の両親を説得した人なのだから。 いや、説得できなかったかもしれない。しかし、きっと一緒に戦ってくれた。 そんな存在はきっと大きいはずだ。そして、中々出会えない。 「何で大学に行かなかったのかな?」 「さあ、何故でしょう。けど、の場合はそれで良かったんじゃないかと思います」 「そっかー...」 誰かのために勉強をするのは面白くない、辛いと言っていた。 彼女はその環境で育って、親のためというか親に強要されて勉強したことは凄く辛かったのだろう。 だが、それが役に立っているとも言っている。 そして、今はその両親のしがらみから逃れている..のだろうか。 「今、さんは親とはどうなの?」 「すいやせん」 自分の知ってる情報は随分昔で、たぶん兄なら知っているのだろうと少し悔しく思う。 「そっか...うーん」 後部座席で八雲が唸っている。 「坊ちゃん、着きやした」 スタジオに着いた中田が声をかける。 「うん、わかった」 そう言って八雲は車を降りた。 『聞いて!』 八雲がひとりで店にやってきた数日後家に帰ったら真奈美から電話がかかってきた。 最初は何事かと思ったが、通話ボタンを押した途端真奈美が話し始めた。 挨拶もなく。 「どうしたの?愚痴??」 『違う、違う!!あのね、聞いて!!』 嬉しそうに話し始めた親友の言葉に耳を傾け、そしての頬も緩む。 「良かったじゃない」 『ええ!これからも頑張るから!またお店にも遊びに行くから!!』 そう言って電話を切る。 よほど嬉しかったのだろうな... 真奈美の電話の内容は八雲が大人しく今日の補習を受けたというのだ。 「何があったのかしらねぇ」 ポツリと呟き、親友のあの喜びに満ちた声を思い出して嬉しくなる。 「先生ってのはやっぱり凄いんだなー...」 自分の高校時代の恩師を思い出しては苦笑した。 |
桜風
10.1.29
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