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昨晩は物凄い風と雨だった。

カーテンを開けると空は真っ青で快晴だった。

いやはや、気持ちの良い朝だ。

とりあえず、そのままベランダに出てささっと軽く掃除をしておいた。


観測史上最も大きいと分類される台風が昨晩通り過ぎていった。

東京はその台風の直撃を受け、交通網は麻痺していた。

幸い、というべきか。

昨日は定休日では家にいた。

風に飛ばされないように懸命に中継をしているアナウンサーの根性とプロとしての矜持に敬意を表しつつ、テレビに映る中継地点の様子をビールを飲みながらボーっと眺めていた。真昼間から。

まあ、学校は夏休みでよかったなぁ...

教師たるもの、この程度の台風で休むわけにはいかないだろう。

この程度と言いつつ、観測史上最も大きいと分類されていたが。

子供たちの安全には気を配るが、大人である教師たちは自己責任と言って特には気を配らないというのがきっと社会だ。


このマンションの駐輪場は壁に囲まれているところにあるから、バイクは安全だったろう。

夕方、一応確認しに行ったが、大丈夫そうなので安心している。

「さて、行きますかねぇ」

溜息とともには立ち上がり、家を後にした。

バイクに跨り、嵐の過ぎ去った混乱している公道に出た。

バイクは良い。

少なくとも機動力が高いから多少の渋滞の中でもすいすい走れる。

道端に落ちている枝やら葉っぱやらは少し怖いが、それでもいつもどおりにバイクを走らせて店に向かった。

バイクを置いて、店の表に回る。

「...新聞屋さんって凄いなー」

遠い目をしてそういった。

これは、本日は営業どころの話ではない。

は店に届いていた新聞に挟まっている広告を取り出して、極太のマジックペンで文字を書いた。

『ご覧のとおり、臨時休業』

店のガラスが何枚か割れている。

店内の観葉植物も倒れており、火事場泥棒が居てもおかしくない。

一応、店の売り上げは隠している上に、重い金庫に厳重に保管しているから大丈夫..のはず。

しかし、まあ。

此処までボロボロだと何からして良いか分からない。

「泣いても良いかしら?」

先ほどのチラシをドアに貼りながらポツリと呟いた。



「翼様」

いつものように翼を起こしにやってきた永田が声をかけた。

「何だ」

「本日、1日だけお休みを頂きとうございます。よろしいでしょうか」

翼は眉をあげた。

あの永田が休みを申し出るなんて物凄く珍しい。

昨日の超大型の台風が慌ててUターンしてくるのではなかろうか。

そんなことを思ったが翼は「別に、構わんが?」と返した。

「ありがとうございます」

深く頭を下げて永田は翼の家を後にした。

もちろん、本日やっておかなければならないことは全て済ませてある。

なんと言っても、この永田智也は超有能な秘書だから。



「坊ちゃん」

「何?マコちゃん」

朝食の席で中田は八雲に声をかけた。

「本日、スタジオにお送りした後、お休みをいただけないでしょうか」

八雲はきょとんとして、「いいよ」と応えた。

今日はそのスタジオでレッスンをして、その後はメンバーとの仕事だから、中田がいなくても大丈夫だ。

「お迎えは、他の人に頼むし」

別に構わない。

「ありがとうございやす!」

深く頭を下げた。

何より、何で中田が休みがほしいといったか何となく八雲は想像がついていた。

「昨日、ホントに凄い台風だったもんね」

八雲がそう呟く。

「や、え..はい」

見透かされているらしい...

中田は『はい』とも『いいえ』ともつかない返事をしてうな垂れた。

そんな中田を見て八雲は満足げに笑った。









桜風
10.2.19


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