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「まあ、泣きたければ泣いてもいいが?」

不意に背後から声をかけられては振り返った。

「トモ兄!?」

「これは..まあ。凄いな」

店内を見渡して永田が呟く。

「ねー、凄いよねぇ。昨日、台風中継を懸命にしているアナウンサーの様子を見ながら昼間から優雅にビールを飲んでた罰かな?」

遠い目をしながら言うに「そうかもな」と適当に返して永田はスーツの上着を脱いで店内のハンガーに架け、シャツの袖を捲くる。

「ほら、。ぼうっとするな。今日1日で片付けるんだろう」

そう促されては目を丸くした。

「真壁先輩の秘書業は?」

「今日はお休みを頂いた」

そんな簡単に休みをもらえるのだろうか。

何かあったら指を鳴らしていつも永田を呼んでいたその姿を学校内では良く見かけたのに...

「翼様も大人になられたんだ」

「...トモ兄って、まさかのエスパー?」

声に出していなかったのに考えを読まれては真顔で聞き返した。


「げ!!」

別の声がして振りかえる。

「マコ兄も?!」

「てか、何でそいつが居るんだよ!!」

何故かが怒られる。

「う..ん?えーと」

「手伝いですよ、中田さん。従妹が困っているだろうと思ってね。あなたこそ、お仕事はいいんですか?」

「坊ちゃんからお休みを貰ってる」

余裕綽々の永田に対して喧嘩腰の中田。

ああ、よく目にしていた光景だなぁ...

は可笑しくなって笑った。

「笑っている場合ではないだろう」

ぺチン、と軽く頭を叩かれる。

「ごめんなさい。でも、いけそう!!」

ぱっと笑っては永田を見上げる。

永田は溜息を吐き、「。まずは箒はどこだ。箒で床を掃いたらモップ掛けだ」などと指示を始める。

永田の指示に中田は異を唱えない。

一番効率のいい方法を口にしているのは分かっているから。


掃除をして、一応、ガラス片やそれ以外のごみの片付けも済み、ひと段落着いた。

ふと、中田が店内の一角を見てに声をかける。

「なあ、。アレって何?」

店内で唯一無傷な一角があった。

窓ガラスも割れていないし、棚の上にあるものも落ちていない。

本当にあそこの空間だけは何事もなかったかのような佇まいなのだ。

「あー、伯父さんのおみやげ物の展示場所..かな?」

この店のオーナーである伯父は海外から帰ってくるときに必ず何かしらの置物を持って帰る。

それが結構不気味な姿のものが多く、できれば関わり合いたくないと思っているはそれが何かは特に聞いていない。

「ふーん」と興味があるけど、興味がない様子を装った感じの声で中田は応える。

「あれらは、たぶん呪具だな」

「呪具?!って呪いの何たらっていう?!伯父さん、何てものを!!」

永田の言葉に中田の背中に隠れながらは嘆く。

「呪いの..というものではないだろう。自分の姪の居る店にそういうものを態々置くほど悪趣味でもないだろうし。どちらかといえば、おまじないの道具といったところか」

そう言いながら永田は怪しげな一角に足を向けた。

店を預かっている以上その一角も掃除しなければならない。

は一応毎日そこに足を踏み入れているが、最も掃除が雑になっている場所ではある。

だって、長居したくないし、できれば触りたくないから。

しかし、永田はそこに行き、さらに、的に最も気持ち悪いというか気味悪いと思っている置物を手にした。

「これなんて南米の」と説明を始める。

南米の聞いたこともない何たらという部族の呪具で幸せを招くとされているものだし、さらにこっちなんて中東のどうたらっていう宗教の呪具でこれは商売繁盛で、などなど。

「は、はい!せんせー!!」

未だに中田の背に隠れたままのが手を挙げた。

「何だ?」と永田が返す。

「何でトモ兄はそんなマイナー中のマイナーな知識まであるんですか!!」

の言葉に永田は喉の奥で笑う。

「秘書として、当然のことでございます」

恭しく言う永田がこれまた怖い。

「ね、秘書ってそんなに凄い人じゃないとなれないの?」

こっそり中田に聞いてみた。

「真壁の秘書なら、そうなんじゃないのか?」

相変わらずの完璧ぶりを見せ付けられて中田は少々機嫌悪くそう応えた。

そんな素直な反応を見せる弟に、永田は目を細くする。

ああ、可愛いなぁ...

そんな表情の永田を見ては小さく溜息を吐く。

トモ兄ってドSだよね...

は心の中でそう思い、永田を見ると「まあ、そうだろうな」と応えた。

やっぱり、エスパーだ...









桜風
10.2.26


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