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「そういえば、盆くらいは帰るんだろう?」

片づけが既に終わっており、正直手持ち無沙汰の中田が声をかけた。

「帰らないよ。そのまま監禁されて知らない人との婚姻届に判を捺されるのがオチだもの。マコ兄は?」

「オレは『中田』だ」

つまり、あの家に戻る気はないらしい。

「伯母さん、寂しがらない?」

「あいつは帰るだろう」

「...たしか、真壁先輩の誕生日ってお盆だったと思うよ。それでなくとも、秘書業にお休みはないんじゃないの?」

の言葉にグッと詰まった。

「お袋は、オレじゃなくてあいつが居ればいいんだから」

拗ねたように言う中田には苦笑した。

まあ、あの完璧超人と血が繋がっているのが運の尽きというか..逃れられない運命の始まりだ。



暫くして永田が戻ってきた。

買い物をしてくるといったのは本当で、近所のスーパーのものだった。

「うわぁ、見事に風景に溶け込めなかったでしょうね」

がひとりごちると隣にいた中田は頷いた。

「夕飯は私が作ろう」

「トモ兄が?!」

が驚く。

「ああ、出来るなら美味いものが食べたいからな」

あれ?遠まわしにわたしの作るものが美味しくないって言われてる??

は首を傾げ、まあ、楽だから良いやと気持ちを切り替えた。

「真壁先輩、良いって?」

「ああ、翼様からの許可は頂いた」

スーパーの袋から出てくるものを見ながらはそのまま会話を続けていた。

「盆くらいは帰れよ」

顔を見ることなく不意に言われた。

「やだ。監禁される」

「私が話を通しておくから」

「...どの面を下げて帰れと?」

の言葉に永田は彼女を見下ろし、その頬を引っ張った。

「この面以外に何か出てくるのか?」

「はにもはい」

「なら、その面下げて帰れ。お前、逃げてるだろう。大人としてあるまじき行為だ」

最後の部分は少し声を大きめに。

が振り返ると中田が居心地悪そうにしていた。

自分を介さずに直接言えば良いのに...

でも、きっとこの兄弟は中々大きな隔たりがあるんだろう。如何ともしがたい高くて厚い壁が。



永田の作った夕飯はそこらのスーパーで材料を調達したものとは思えないほど輝いていた。

「トモ兄凄い!」

「当然だ。真壁家の秘書たるもの、これくらい出来なくてどうする?」

中田も悔しそうな表情を浮かべて食事を続ける。

「いや、ホント美味しいよ。トモ兄、良いから嫁に来て!!」

ガツガツ食べながらが言う。

その言葉に永田は食事の手を止め、中田はぽかんと口を開けたままを凝視した。

が、彼女は自分が発した言葉の意味には気づいていなかったらしくそのまま勢いを落とすことなくガツガツ食べていた。

「まあ、お前の嫁の行き先がなかったら考えてやらなくもない」

永田の言葉に中田はぎょっとして彼を見た。

ガツガツ料理を男らしく食べているを眺める永田の瞳は優しい。

、作法は守れ」

しかし、その表情とは裏腹に、口にした言葉は少し厳し目だ。

はっと我に返ったようには姿勢を正す。

そして、食事を再開した。

その所作は良家の令嬢というに相応しいものだった。

それは間違いなく彼女が『令嬢』と呼ばれる立場にあったその証拠だ。

ふと、が中田を見る。

手が止まって動かない。

「マコ兄。食べないの?ちょー美味しいよ」

「言葉遣い」

またしても厳しい口調で指摘された。

「とても美味しいよ」

言い直すに永田は満足したのか食事を再開させる。弟にはさして興味ない。

「あ、ああ。うん、食う」

そう言って少しぎこちなく食事を再開した。

またお兄ちゃんの作ったものを口にするのはイヤだとかいう理由で食事が進まないのかな?

はそんなことを思いながら久しぶりに誰かに作ってもらう食事を堪能していた。










桜風
10.3.12


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