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「これ、何ですか?」

悟郎に渡されたものを見て、が呆然と呟く。

「ん?今日は肝試しなんだよ」

だから?

は首を傾げる。

「で、ボクたちは驚かせる側。ちゃんもこっちの戦力だから」

は目をぱちくりとした。

確かに、今日は合宿の中日でみんな勉強に疲れてきているだろう。

だからここらで刺激を、と思ったらしいのだが...

「こんな山道で危なくないですか?」

「距離はたいしたことないし、驚かす役兼安全確保役なんだよ」

驚かせるという行為が安全を脅かすような気がしてならないのは自分だけだろうか...

ふと、視線を巡らせるとそこにはいつものスーツ姿の永田が居た。

「あの人は?」

ためしに聞いてみた。

悟郎はの視線を辿ってその先に居た人物を確認すると溜息を吐いた。

「ダメダメ。永田さんが驚かす役になったら、たぶんシャレにならないと思うし...」

あ、うん。そうかも...

は頭の先からつま先まで納得した。

その様子を見ていた永田に軽く睨まれてしまったがここは気づかなかったフリをしよう。


作戦会議というものまであり、B6の本気度が伺える。

...此処で本気を出すのか?!

「じゃあ、ちゃんはボクと一緒にね」

悟郎がそう言い「よろしくお願いします」とは頭を下げた。

そのまま2人で担当に指定された場所に向かう。

ちゃんって、センセ..南先生と知り合いって言うか。先生の生徒なんだよね?」

突然そういわれては驚く。

「何でご存知なんですか?!」

悟郎は表情を柔らかくした。

悟郎はその格好から一見女性に見えるのだが、近くに居るとやっぱり男性らしさだってある。

思わずドキリとした。

「うん。ボクたちが3年でセンセの生徒だったとき、ちゃんって1年生だったんだよね?」

「はい」

まあ、年齢を考えたら分かるのでそれは「何でご存知なんですか?!」の質問の中には含んでいない。

「時々、廊下でセンセに会ったとき話し込んでたでしょ?ボク、聞いてみたことがあるんだよ。誰?って

そしたら、センセ。凄く優しい目をして『中等部のときからの教え子』って教えてくれて。名前は、特に言わなかったけど。それで、顔は覚えてた。ボク、人の顔を覚えるのって得意なんだ」

そう言って悟郎はウィンクする。

「風門寺先輩たちが卒業した翌年も先生はクラスを受け持って。そのクラスにわたしも所属していたんです。中高合わせて南先生には4年間お世話になりました」

「いいなー、ボク1年だけだよ」

「でも、たぶん..密度は濃かったんじゃないですか?」

3年のドタバタが1年の教室にまで知れ渡っていたんだ。濃くないはずがない。

の言葉に悟郎はクスリと笑う。

「かもね。うん、そうだな。密度が濃かったし、センセが居なかったら、今のボクたちはなかったよ」

優しく微笑んで言う悟郎には思わず視線を背けた。

「風門寺先輩は、先生と手紙とかメールのやり取りしてるんですか?」

「ん?うーん..あまり。最近は特に、ね。ちょーっと忙しいから。色々と。ちゃんは?」

「メールはあまり。でも、手紙は時々ありますよ。と言っても、先生が転勤されてから..2通かな?やっぱりまずはその土地に慣れるのが大変なんでしょうね。こちらもあまりお手紙を出すとお返事の催促をしているような気がして、返事をしただけなんです」

「センセ、元気だって?」

「はい」

の言葉に悟郎は目を細める。

あれ?とは首を傾げた。

そして、笑みを零す。

「なに?ちゃん」

突然優しい表情を浮かべたに悟郎は不思議そうにその理由を問う。

「いいえ。ほら、一組目がやって来ましたよ!」

そう言ってが促す。

「あ、うん。そだね。めいっぱい脅かしちゃおうね」

それは、まずいのでは...

はそんなことを思ったが口には出さなかった。


悟郎のあの表情。

たぶん、悟郎は先生のことを好きなんじゃないのかな?

恩師としてか、それとも、女性としてかそこらへんは、残念ながらは彼と親しくないから判断しかねる。

だが、どちらでもいい。何となく、胸の奥が暖かくなる。

B6が卒業した後、悠里は時々あの悟郎と似たような表情を浮かべていることがあった。

それは、どういった感情かこれもには分からない。しかし、悠里とB6の間には確かに絆というものがあるのだろう。

何だか少し羨ましいのと、何となく誇らしいのとがない交ぜになって複雑な心境ではあるが、やっぱり嬉しいという気持ちがいちばんだった。









桜風
10.4.16


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