| 合宿は無事に終了し、はお盆に合わせて実家に帰った。 しかし、泊まることなく、仏壇に手を合わせて墓地に行って墓に手を合わせて逃げるように出て行った。 そうは言っても、親はを監禁しようとはしなかった。 「トモ兄、相変わらず...」 実家からの帰りには苦笑した。 あまり交流のない親戚だったが、それでも永田はの両親から一目置かれる存在だった。 の両親だけではない。親戚中から一目置かれていた。 だから余計に中田も居心地が悪かったのだろうな... たくさんものを教えてくれたのは永田だが、一緒に遊んでくれたのは中田の方が多い。 つまり、は永田よりも中田に面倒を見てもらっていたということなのだろう。 いや、その影できっと永田が色々とフォローしてくれていたに違いない。今回の帰郷についても、永田のお陰だ。 時計を見ると、まだ時間が早い。 ついでだから店のほうに行って、明日の仕込とか、買出しとかしておくか... そう思って行き先を変更した。 いつもは店の裏に停めるバイクだが、今日は店の前に置いた。店自体を開けるわけはないので、邪魔にならないだろうと思ったのだ。 店の中で作業をしているとコンコンと窓ガラスを叩く音がした。 顔を上げるとあまり接点を持ちたくないと言えなくもない那智がヒラヒラと手を振っている。 は仕方なく手を止めてドアを開けた。 「今日はお休みなの?」 「まあ、ね。さっき戻ってきたばかりだから。入る?」 に言われて那智は頷いた。 「でも、学校帰りに寄り道ってまずいんじゃないの?」 の言葉に那智は目を丸くして「よく知ってるね」という。 「まあ、一応。貴校に勤めている親友が居ますから」 「ああ、真奈美せんせいね」 おーい、『せんせい』を付けるとは言え、名前で呼んでいるのか? 大丈夫なのかな、と思いつつ「そのとおり」と返した。 正しくはアラタ情報なのだが... 「まあ、入るならお座りなさいな。コーヒーで良い?」 「奢ってくれるの?」 「そうしましょう」 の言葉に「わーい」と何となく棒読みな返事で那智が喜び、「あ、アイスでね」とついでに注文も付けた。 「それよりさ」 目の前に出されたアイスコーヒーに口を付けて那智が言う。 「表のバイク、さんの?」 おー、わたしも名前呼びですか... 若い子に名前で呼ばれる新鮮さをほんのりかみ締めながらは「うん」と頷いた。 真奈美は教師という立場があるから名前で呼ばれるのは問題になることもあるかもしれないが、自分は全く問題にならない。 「カッコイイね。どこで買ったの?」 那智はどうやらああいうのに興味があるようだ。 まあ、そうなんだろう。 ひとりで納得しては自分のバイクに目を向けた。 「伯父にもらったの。高校を卒業した年に、『足がないと不便だろう』って。まだバイクの免許も取ってなかったんだけど。だから慌てて取っちゃったわよ」 苦笑して言う。 「えー、どこのとかわかんないの?年代とか」 「残念ながら。構造については勉強したけど、車種についてはさっぱり。乗れたら良いから」 「えー!どこのだろう...その伯父さんと連絡取れないの?」 「えーと、アマゾンの奥深くに行ってると思うから、無理かな?」 「どういう伯父さんなんだよ」と目を丸くして那智が呟く。 「そうだ、方丈君」 「ああ、おれのことは名前で呼んでいいよ。おれはさんのこと、名前で呼んでるし、慧がいるからね」 「えー、と。慧君ってお兄ちゃん..だよね?」 「そう。おれのたったひとりのお兄ちゃん。で、さっき何か言おうとしてたよね、さん」 何かタイミングを逃した感じがしたが、促されたし、せっかくだから遠まわしに聞いてみた。 先日見た、那智が乗っているバイクのことだ。 一瞬那智の瞳が剣を孕んだようだったが、「さあ?よく知らないなー」と返された。 「そうなんだ。那智君ってバイクに詳しそうだから。見かけたら目ざとく見つけるんじゃないかなって思ったんだけど」 「まあ、そうだね。たぶん、見かけたら覚えていると思うけど...でも、さんはバイクの車種とかそういうのに興味はないんだよね?」 「改造には、興味ある..かな?」 たぶん、あのバイクは改造されていた感じに見えた。 「...さんって、技術屋さん?」 そういうのに興味を持つということはそういうことなのだろう。 那智の問いにはニコリと微笑んだ。 「さあ、どうかしら?」 ムッとした表情を浮かべた那智に対してはニコニコと微笑んでその少し鋭くなった視線を受け流していた。 |
桜風
10.4.30
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