| 「いらっしゃいませ」 ウィンドチャイムの音に反応してが声をかける。 「何だよ、ちゃん。一人ぽっちで寂しく開店?」 やってきた常連がをからかう。 「...人のこと言えないと思いますけど。それに、ほら」 は苦笑して応え、店内に視線を向けた。 似たような境遇らしい同性がポツポツと居るのを見て、彼は笑った。 「いつものね」 「はい。あ、甘いものは平気ですか?」 「うん..?」 の言葉に頷いた彼は、いつもは窓際の席に座るのに、今日は窓際までは行かずに適当な席に腰を下ろした。 注文を待つ間、彼は本を読んでいたが、漂ってくるコーヒーの香りが近付いてきたことに気がついてそれを閉じた。 「メリークリスマス、って本場じゃ言わないんでしたっけ?」 苦笑しながらがコーヒーを彼の前に置いた。 「あれ、これ...」 ケーキがワンピースついている。 「サービスです」 そう言っては笑ってカウンターに戻った。 カランと再びウィンドチャイムが鳴る。 顔を上げたは笑った。 「いらっしゃいませ」 「繁盛してるな」 苦笑して彼はいつものようにカウンターに座り、いつものとおり注文する。 「真壁先輩は?」 「成宮財閥の船の上にいらっしゃる」 ああ、そういえば。先日真奈美から電話があった。 「聖帝舞踏祭。そんなの聞いたことない!!」 そういってダンスのコツとか一生懸命聞いてきたのだ。 残念ながら、はその聖帝舞踏祭を毎年サボっていたので特に詳しいことは分からない。 エスコートがないと参加できないなんて横暴だ、と思ったからだ。 「で、トモ兄はついていなくて良いの?」 そう言って指をパチンと鳴らしてみた。 「ああ、大丈夫だ」 永田は頷く。 そうなんだ。そういう時もあるんだ... 感心しながらは頷き、コーヒーを淹れる。 カラン、とまたウィンドチャイムが鳴る。 は「千客万来」と苦笑した。 「いらっしゃいませ。はい、そこ。回れ右しない!!」 笑っては咎め、咎められた中田は渋々カウンターに座った。 永田との間にひとつ席を置いて。 「ご注文は?」 の言葉にいつもの注文をする。 「2人分作っとけば良かった...」 の呟きで、自分が注文したものが兄と同じだということに気がつき、訂正しようとしたが、それはそれで自分が負けたような気がしてやめた。 「多智花君は?」 「コンサートが終わって、そのまま聖帝舞踏祭に直行された」 ああ、そうか。コンサートか。 アイドルなんだなぁ... 何となく、ピンと来ない。 まあ、この店に来るときはそういうアイドルという柵から離れているのだろうから、ピンと来ないのが正しいのかもしれないが... 「トモ兄、マコ兄。甘いもの大丈夫だったよね?」 突然の話題転換なの言葉に2人は少し驚いたが、やはり同時に頷いた。 「じゃあ、これもサービスです」 2人の前にケーキをワンピースずつ置いた。 「お前が作ったのか?」と永田。 「お、美味そうじゃん」と中田。 「イエース。美味しいと思うよ、食べてよ」 に促されて2人はそれを口に運ぶ。 「ブッシュ・ド・ノエルか?」 「元?うん、そう。まあ、切っちゃったらチョコレートなロールケーキだよね」 はそう答え、洗い物を始めた。 そう時間をおかずに永田が立ち上がる。 「そろそろ時間だ」 そんなに長居はしていないが、彼が普段此処に来るときに比べれば長居の方かもしれない。 はレジに向かって歩き出して、ぴたりと止まった。 「ちょっと待ってて」 そう言って店の奥に入っていく。 永田が大人しくレジの前で待っているとが慌てて出てきた。 「はいはい、お会計ね」 レジでの清算を済ませて永田が店を後にした。 そして、もそれに続く。 「お、ホワイトクリスマス」 チラチラと雪が舞っていた。 「バイク、気をつけて帰れよ」 永田にしてはかなり優しい一言だ。 「吹雪かな?」 「黙れ。で、何の用だ?」 店の外まで出てきた理由がイマイチ分からない。こんな寒い中、そんな薄着で出てきたら風邪を引くかもしれないというのに。 「これ、日ごろの感謝の気持ちを込めまして」 どこかの可愛らしい袋に入っている。 何だろう、と思ったが携帯が鳴った。 「お、指パッチン代わり?」 「...かもな。何か分からないが、ありがとう」 今しがたの渡した可愛らしい袋を軽く掲げて永田は礼を言い、そのまま携帯を耳に付けて足早に去っていった。 店内に戻ると面白くなさそうに中田が振り返っていた。 「呼び出しだって」 機嫌が悪いのは兄が去っていったことなのだと思ってが言う。 「ふーん」 「マコ兄は大丈夫?」 「いや、そろそろ舞踏祭も終わりだろうから」 そう言って立ち上がる。 ああ、だから永田が翼から呼び出しがあったのだな、と納得した。 中田が会計を済ませて店を出るとがそれに続く。 「日ごろの感謝の気持ちを込めまして」 永田に言った同じことを口にした。 「何、これ?」 「キャンドル。まあ、男の人はそういうのあまり興味ないかも、って思ったけど。可愛かったし、アロマだから疲れも取れるかもよ?」 そう言って片目を瞑る。 「ありがたく貰っておくよ」 「ん。じゃあ、お仕事頑張って!」 右手を軽く掲げたに中田も軽く手を挙げて応え、そのまま雪のちらつく街の中へと消えていった。 |
桜風
10.6.4
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