| お盆も帰ったし、正月も、と思っていたところに永田から電話があった。 「正月は帰るな。監禁を食らいたくなかったらな」 従兄の有難い忠告を聞いて、は実家に帰らずにそのまま正月も過ごした。 初詣に、とも思ったがどうにも足が進まない。 あの人の多さを想像するだけでどっと疲れる。 年末にちゃんと掃除はしたが、と思って家を出た。 結局バイクに跨って向かった先は店だった。 しかし、店のドアが開いている。 もちろん、『CLOSED』は掛かっているが... もしかして、とは多少慎重に店の中に入っていった。 「やっぱり!」 居たのは、伯父だった。 「やあ、。久しぶりだね。どうだい、この店は」 「ボチボチですよ、オーナー」 笑って応えるに、彼も笑う。 「コーヒーを淹れてくれるかい?そうそう、今回はこれだよ」 そう言って、また奇妙な人形をカウンターに置く。 相変わらず、『呪いの』がつきそうなそれには眉をしかめた。 コーヒーを自分の分も淹れて伯父に出す。 「ねえ、伯父さん」 久しぶりののコーヒーを堪能していた伯父は顔を上げた。 「何だい?」 「あの..これも含めてアレって...お呪いの道具なの?」 伯父の土産コーナーを指差して以前永田に聞いたことを話した。 伯父は目を丸くし、やがて笑う。 「え、違うの?!」 「いいや、智也の言うとおりだ。正解。しかし...」 また笑う。 「あの2人が揃うとはな」 「あ、うん。凄い偶然だよね。トモ兄は真壁財閥の秘書になってから家をすぐに出ちゃったし、マコ兄も家を出たって聞いてたから...それが2人揃うなんて。トモ兄が日本に居ること自体奇跡かも」 「の言うとおりだなぁ」 そう言ってまた伯父は苦笑した。 本当は言いたかったのはそこではなく、2人揃っての元に足を運んだことが可笑しかったのだ。 「ねえ、伯父さん」 が声をかける。 「ん?何だい?」 「そろそろ充電期間終了かと思うの」 の言葉に伯父は目じりの皺を深くした。 「もう良いのか?」 「うん。でも、もうちょっとね。待ってる人たちが居るから」 「を?」 「わたしが。たぶん、遠くない未来に帰ってくる気がする。そのために、先輩たちが戻って来たんじゃないかな?」 時々この店にやってくるあの学校の生徒たちが話す学校はどうにも『違う』と思った。 きっとその『違う』はB6の先輩たちの方が強く感じていることだろう。 「“HOME”というのは、良い名前を考えたね」 伯父に言われては照れ笑いを浮かべた。 充電にちょっと時間が掛かりそうなに伯父がこの店を任せるといった。 ついでに、店の名前もが付けると良い、と。 うんうん数日悩んで、ふと浮かんだ言葉。 「ただいま」 今は誰にも言っていないし、言われていない。 懐かしくて、そして、きっとそこが一番落ち着くはずの空間だ。 『ただいま』は帰ってきたときに言う言葉で、『帰る』といえばきっと『HOME』だ。 家であり、故郷であり。 自分はそこから逃げている。 けど、「おかえり」と応えることはできる。 だから、店の名前を『HOME』にした。 カントリー調の店の風合いにもマッチしている気がして気に入っている。 「あ、伯父さん」 が伯父を見た。 彼もを見る。 「おかえりなさい」 彼はの言葉に少し目を丸くした。その表情は永田たちとそっくりだ。 「ただいま、」 伯父の言葉には笑みを零した。 の充電期間の完了が来年度途中になるだろうと聞いて、伯父は安心したかのように笑い、 「じゃ、いってきます」 と言ってまたふらりと出て行った。 今度はアフリカの砂漠の辺りとか何とか言いながら。 「『辺り』って何よ...」 困ったなぁ、と思いつつ、は笑う。 永田たちにこの短い帰還の話をしてみようか。 また迷惑そうな表情をするんだろうな... 想像すると何だか目に見えるようで可笑しくなり、笑いがこみ上げた。 |
桜風
10.6.11
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