| 「しまったなぁ」 フルフェイスのヘルメットの中でくぐもった声がした。 自分の慣れた道ではない方向に追い込まれてしまったようだ。案内標識を見ながら運転しているから何処に向かっているのかは分かるが、うっかり裏路地に入ったらそこが袋小路になっていなくもない。 自分ひとりなら、狭い道で迎え撃つことも考えるが、今回は真奈美が一緒だ。 せめて真奈美がバイクの運転が出来たらそのまま逃してみるのだが、これもまた出来ないことなので選択肢には入らない。 「...」 心細そうに呟く真奈美の声が背中で聞こえる。 「まあ、何とかなるって」 あの超完璧人間の従兄にも連絡入れたし。 それと同時に機転の利くもうひとりの従兄にも同じ連絡を入れていたし。 何とかなる。 だから、時間を稼がないと... しかし、向こうの狙いはが心配したとおりのこととなり、袋小路に追い込まれた。 「真奈美、ちょっと降りて」 促されて真奈美はバイクを降りた。 そして、もバイクを降りた。 「何だ、観念したのかよ」 幸い、この路地は人が2人通るのがやっとの幅だ。 だったら、地道に時間を稼ぐか... ポケットに入れていた携帯を真奈美に投げて渡す。 「永田智也。電話して」 突然出てきた名前に真奈美は驚いて固まる。 「従兄なの。頼れると思う。そのGPS辿ってくれているだろうけど」 の言葉に固まっていた真奈美は慌ててダイヤルを選び始めた。 「んだと!?応援を呼ぼうってのか!!」 柄の悪い男がそう凄む。 「トーゼン!で、今は時間を稼ぐ」 そう言っては構えた。 自分の身についているものは、伯父から習ったものなのでどれだけ通用するか分からない。 しかし、ここに永田が居たら冷静に指摘しただろう。 「あの人の教えたそれは、実戦を想定してのものだから、並の男に比べたらお前の方強い」 そうは言っても、現時点で永田智也はここに居ないため、そんな有益かもしれない情報はの耳には届かない。 何人か伸したが、それでも後方の真奈美を気にしながらのことで相手もそれに気がつき、真奈美に向かっていった。 まずいな、と思った頃、バイクのエンジンの音が近付いてきた。 1台ではなく、複数台だ。 を襲っていたと男たちは驚き、そのバイクの音が近付くのを呆然と眺めている。 先頭を走っていたのは、那智だった。 「やっぱり、那智君じゃん」 は額の汗を拭いながら呟いた。 あのバイクは見覚えあるぞ、と。 の呟きが聞こえてかはどうかは不明だが、那智は真奈美を見て、そして彼女たちを追いかけてきた男たちを見る。 その先は、にとってはちんぷんかんぷんだった。 何せ、よくよく考えたら事情も碌に分かっていないのに店を臨時休業にして飛び出したのだ。 「ははっ」とが笑う。 それが不思議だったようで真奈美は首を傾げた。 しかし、ピンチのときに現れたのが永田ではなくて那智になるとは... 正直、にとっては意外で初めての経験だ。 ひと段落して姿を見せた永田はどうにも居心地が悪そうだ。 「お迎え、ありがとう」 はいやみでもなんでもなくそういった。 だが、言われた永田はばつが悪そうにしていた。 「北森先生から電話があった」 「うん、トモ兄に電話してってお願いしたから」 つまり、自分に対して信頼を寄せられていた証拠だ。 「すまない、遅くなった」 「トモ兄、ありがとう。大変だったでしょう。相手がでかい組織だったらもっと楽に捜索できたでしょうに」 「...お前に慰められたらおしまいだな」 そのフォローはいらないんだが... そんなことを思いながら永田は毒づいた。 |
桜風
10.6.25
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