Kaleidoscope 6





部屋で一度着替えて食堂へと向かう。

食堂の入り口には晴秋が立って待っていた。

「席くらいとっておきなさいよ」という夏凛に「今の時間はそんなに多くないって」と返しながら食堂の中に入った。

確かに、そんなに多くない。

食堂の中がざわりとざわめいた。

先ほど、あの廊下でのやり取りを見ていた生徒は少なくなったのだろうし、目撃証言がきっと広まったんだ。

ああ、生活しにくい...

この先の学校生活を思い浮かべながらはそんなことを思っていた。

「ふーん、食券を買うのね?どれがおススメ?」

「わたしは順番に食べてる。今日はうお座定食」

「しし座定食にしないのか?ボリュームあるだろう?」

そう言いながら晴秋はそのしし座定食のボタンを押す。

「この『おとめ座定食』って何?」

「穀物中心かな?」

そう言って晴秋を見上げると「だろうなー」と返ってくる。

「んじゃ、炭水化物が食べたい。米、米!」と言って夏凛はおとめ座定食のボタンを押した。

定食ならどれにでも米はついているが、も晴秋もそこは指摘しなかった。


食堂の隅の席に腰を下ろした。

「んで、生徒会って何をするの?」

「んー...」と言って晴秋を見る。

「そのときの会長のモチベーションによると思うな。結構生徒会に任せてるところがあるみたいだし。行事だって、ある程度の内容なら生徒会の意見で増やせるんだろう?」

と彼が言う。

「ふーん。んで、役職は?」

「書記だって。本当はひとりだけど、もうひとり増えても良いって会長が」

「何それ」と眉間に皺を寄せて呟く夏凛に対して晴秋は苦笑していた。

「もう片方の書記って?」

「もうひとりの女の子。夜久月子ちゃん。つっこちゃんって呼んでる。天文科」

ああ、その子がの犠牲になったんだなぁ...

心の中で夏凛と晴秋が思った。

だって、にちょっかい出せなくなったら、彼女に集中してしまうだろう。

「この年頃の男って単純で馬鹿だからなー」

「分かりやすいだろう?」

小声で行われている夏凛と晴秋の会話は今のには届いていない。

焼き魚の骨を一生懸命取っているため、そちらに集中しているのだ。


食事が済んで席を立とうとしたを制して晴秋が食堂のおばちゃんがいる厨房に向かい、声をかけている。

「ああ、ここにいたのか」とやってきたのは仕事を終えたばかりの琥太郎だ。

「おや、琥太。ナイスタイミング」

「鍵をアキに渡してたから部屋に入れなかったんだよ」

不機嫌にそういう。

「おー、琥太。鍵か、悪い」

そう言って近づいてくる晴秋の手にはよく見る箱がある。

一瞬、の表情が強張った。

晴秋は箱をテーブルの上に置いてポケットから鍵を取り出して返した。

「じゃあ、俺は」と立ち上がる琥太郎のベルトを掴んで「Sit down」と夏凛が座らせる。

「何だよ」と不満そうだが、そこで逆らわないのが琥太郎だ。というか、逆らう方が面倒くさい。

の様子を見て小さく溜息を吐く。

ある意味トラウマだろうな...

箱から取り出したもの、それはバースデーケーキ。苺が沢山乗っている。

「ちょっと、何でローソクが15本しかないのよ!!」

「姉ちゃん、分かってる?女の子が16歳になる意味!」

基本、夏凛には逆らわない。

そんな晴秋が夏凛に熱く何かを語ろうとしている。

「16?花も恥らう女子高生?」

「ちっがう!日本国憲法には、女の子は何歳から結婚できるって書いてある?」

「16、だな」と琥太郎が呆れたように言う。

は、これから毎年15歳になるんだ」

真顔で言う晴秋に彼女は肩を竦めた。

晴秋がどう思おうと戸籍上はちゃんと年を重ねていく。だから、晴秋が15と言い張っても今日から16だ。

「お ば か!良いじゃない、16歳でも」

「姉ちゃん?!」

絶対に自分の意見に乗ると思った夏凛に否定されて晴秋は驚きが隠せない。

晴秋だけではなく、も琥太郎もだ。

「あんたたち、わかってないのね。未成年の婚姻の条件、知らないの?保護者の同意が必要なのよ」

「ふっふっふ」と笑いながら夏凛が誇らしく言う。

「つまり!は19歳までは年を重ねてもオッケーってことよ!」

誇らしげに言う。

「おお〜!」と感動している晴秋に冷たい視線を向けながら

「確か、同意が要るのは両親だろう?両親..つまり父母がいない場合は同意は必要ないんじゃないか?」

と琥太郎が言った。

ピシリと時が止まる。

「な..何?ホント?」

「たしか、そうだったろう。詳しくは知らないが、夏姉は親権までは持ってないだろう?」

琥太郎の指摘に呆然と頷く夏凛。

「つまりは、そういうことだ」

肩を竦めて言う琥太郎に対して夏凛と晴秋が呆然とする。

琥太郎がを見下ろす。バースデーケーキを見ないようにしているようだ。

わかってやってるのだろうか、この2人...

の両親は彼女の7歳の誕生日に亡くなった。

彼女が「おたんじょうびケーキがたべたい」と駄々をこねたので両親は買いに行って、その帰りに交通事故に遭ってそのまま亡くなったのだ。

だから、彼女の誕生日は両親の命日で、バースデーケーキはその原因を作ったものなのだ。

「大丈夫か?」

こっそりとに声を掛けてみた。

ビクリと肩を震わせたは「なにが?」と笑顔で答える。

「...いや。お前の姉貴と兄貴」

「びみょう...」

の返答に琥太郎はクツクツと肩を震わせて笑った。









桜風
11.3.4


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