Kaleidoscope 12





夕方、日が沈んで下校する時刻になった。

颯斗が教室に忘れ物をしたというので、は一樹と2人で寮への道を歩く。

「付いて行こうか?」と声をかけたのだが、「遅いのでいいですよ」と断られたのだ。

遅いから声をかけたのに...

「お前がうろちょろするんだったら俺だってムリにでもついていくけどな。颯斗は男だからなぁ」

と一樹が苦笑する。

「まあ..そりゃ颯斗くんは男の子ってのは知ってますけど。放課後の、暗くなった教室ってやっぱり不気味じゃないですか」

と不本意そうにが訴えた。

ああ、そういう意味で言ったのかと一樹が納得する。

「けど、一樹会長。わたしでも大丈夫ですよ」と少しムッとしたのか彼女が主張する。

「1対1ならな。そうじゃない場合どうするんだよ」

の腕っ節がいくら強くても、腕力はどうやったって男には負けるだろう。

「窓から飛び降りて逃げます。戦うときと逃げるときの判断は咄嗟にできないといけないって姉に耳タコで言われてますから」

「そりゃ、逃げる選択肢は絶対に持っとくべきだろうけど。お前、窓から飛び降りるってどんなスタントマンだよ」

呆れてそう零した。1年の教室は2階にある。骨折でもしたらどうするつもりなのか...

「ところで。今、会計がいませんけど、来年度また会長がスカウトするんですか?やっぱりわたしが会計をした方が良いんじゃいないですか?」

「んー、そうだなぁ」と考えるフリをすると「スカウトの目星はついてるんですね?」と確認するように言われて驚いた。

「へ?」

「いや、だって。一樹会長はもう来年度の新入生のことを知ってるんですよね?」

「いや?なんで...」

は『星詠みの力』を何処まで知ってるのだろうか。

そんなことを思っていたら

「だって、来年の新入生に女子がいないって仰ったじゃないですか」

と指摘されて納得した。

「ああ、女子がいないってことだけは聞いたんだよ。あとは知らねー」

「そうなんだ」と呟くをちらりと見た。

は星詠みの力のことを熟知しているようなことを時々言う。

他の生徒も『星詠み科の生徒は星詠みの力がなくては入れない』と言うことくらいは知っているだろう。入学の募集要項に書いてあったし。

しかし、その『星詠みの力』が具体的にどんなものかまではおそらく良く分からないはずだ。表現が抽象的だし、人によって力の強さが違う。

「そういえば」と見上げてきたの視線とぶつかってなぜか慌てた。

「な、何だ?!」

「お彼岸に実家に帰りたいと思ってるんです。1泊2日で良いんですけど。大丈夫でしょうか」

生徒会の用事がどの程度忙しいのかが分からない。

「ああ、大丈夫だ。それまでにある程度の準備を済ませておくつもりだしな」

と一樹に言われてはほっと息を吐いた。

そういえば、お盆も帰りたいと申し出ていたなと思い出す。

秋の彼岸は2学期中なので諦めているのだろうが、長期休暇を被るときはなるべく帰って墓参りをしたいと考えているのかもしれない。

「そういう用事ならあまり気を使わなくていいぞ。みんなでフォローするし」

と一樹が言うと

「用事の重大さは人によって違いますよ。わたしだけ特別にってのはイヤです」

と断られた。

「へいへい。しっかり者の娘を持つととーちゃん楽が出来て嬉しいなー」

わざとらしく言う一樹に「そうでしょうねー」とも適当に返した。


そういえば、随分と暖かくなってきたと思っては空を見上げる。

「こけるぞ。前を見て歩けって」

と一樹が注意すると「一樹会長が一緒にいるので大丈夫です」とが返す。

一瞬面食らった表情を浮かべた一樹は苦笑して「は根っからの末っ子だな」と零した。

は腕っ節が強いし、しっかりしている。

けれど、身内とした相手には甘えるのが上手だと思う。

上手、下手を意識しているのではなく。

たぶん、彼女の性格なのだろう。もしかしたら、環境により形成された処世術のひとつなのかもしれない。

信頼されたら応えたくなる。

少なくとも、自分の性格だとそうなってしまうが、のそれは言い換えれば『無防備』であり、人選を間違ったら酷い目に遭うだろうに...

、もうちょっと警戒心は持ってたほうが良いぞ?」

「はい?」

「とーちゃん、心配だ...」

突然そういわれては首を傾げる。

きょとんとしたその表情を見て、一樹はまた溜息を吐く。

月子も危なげだが、も充分危なげである。

まったく...

溜息を吐いた一樹をやっぱり不思議そうに見上げるに「ま、俺ができるだけのことはやってやるから」と苦笑した。









桜風
11.4.15


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