Kaleidoscope 13





月子が昼休憩に幼馴染と共に食堂に行くと食券機の前でと犬飼、そして颯斗の姿を見つけた。

「どーれーにーしーよーかーなー」

笑いながらが言う。

「おっまえ、酷くないか?青空、お前も何か言ってくれって」

「ですが、犬飼君はさんのノートで良い点を取れたんでしょう?」

助け舟を期待したが全く助ける気がないようで、寧ろ颯斗はの味方のようだ。

「くっそー」と呟いた犬飼は背後にいた月子に気がついた。

「おい、夜久。お前からも」

「えーい!」

月子にこの状況を訴えようとしていたところでがボタンを押した。

「うん、今日はしし座定食な気分」

「お前ぇー!!」と犬飼が叫ぶ。

「ボリューム満点ですね」

微笑みながら言う颯斗に

「値段も高いー!!」

と犬飼が訴えた。

ちゃん」

「あ、つっこちゃん。あれ?今日は食堂なんだ?」

彼女の昼食は幼馴染のお弁当を食べることが多いと聞いていた。だから、食堂にやってきてるのは珍しい。

まあ、幼馴染は一緒に来ているようだが。先日転入してきた土萌羊も一緒にいる。

「うん。ねえ、犬飼君どうしたの?」

「聞いてくれるか、夜久」

「え、う..うん」

いつもはどちらかといえば冷静な犬飼が取り乱している。

「こいつ、容赦ないんだぜ!確かに、テスト前にノートを借りた。それで勉強をした。そして、やばいかもって覚悟してた教科、余裕だった。けどな、その対価に昼飯を奢れって言うんだぜ!!」

「ええ、何せ『魔女』ですからー」

ケラケラと笑いながらは食券を厨房の中のおばちゃんに渡しに行った。



のことを『魔女』と称したのは犬飼だ。

冗談だったし、今でも冗談だ。

だが...




昨年の夏ごろ。

まだ今の部長が部長に就任して間もない頃、は弓道場へと向かった。

用事は、弓道部所属の月子を呼びに行くためだった。緊急で生徒会の活動について話し合わなくてはならなくなったのだ。

既に部活に出ていた月子は道着ということもあり、携帯を傍においていないのか連絡が取れない。

さすがに放送で呼び出すのはかわいそうと言うことでがひとっ走り呼びに来たのだ。

は控えめに道場のドアを開けて中を覗う。どうやら休憩中らしいが、月子の姿が見えない。

「あれ?えーと、さん?」

道場の中にいた部長、金久保誉が声をかけてきた。月子の友人と言うことと、生徒会執行部の一員と言うこともあって金久保ものことは知っている。

「あ、失礼します。あの、つっこちゃん..夜久さんは何処にいるでしょうか」

「ああ、彼女なら」と金久保が居場所を口にしたところで中から大きな笑い声が聞こえてそれがかき消された。

の興味もそちらに向く。

「いやいや、夜久と違ってはしたたかだぜ。そうだな、夜久が『マドンナ』なら、は『魔女』だな」

ははは、と笑って犬飼が言った。

悪い意味でいったわけではない。

何だろう、抜け目が無いとかそう言う..あまり悪いつもりで言ったわけではなかった。

「魔女デース」

真後ろからそんな声が聞こえて犬飼と、同じく弓道部の星座科の白鳥弥彦が振り返る。

「うわぁ!!」

至近距離のに驚いて犬飼が声を上げた。

「魔女デース」とやっぱり笑いながらが言う。

「そうか、そうか。わたしは魔女だったのね。だったら、何かをしてあげたら対価をもらわなきゃね。対価をもらわない魔女の方が怖いんだってー。

ノート1回につき、お昼ご飯の定食ね?」

ニコリと微笑んでいう。

その笑顔だけを見たら可愛らしいし、ちょっとくらい赤くなる男子はいるだろう。

だが、犬飼は逆に蒼くなった。

「待て、これは悪口じゃないんだぞ?!」

「うん、声音からそう言うのは分かったけど。ほら、せっかくだし」

どこがどんな『せっかく』だ!と犬飼は頭を抱えたが、「ふふふ」と笑い声が聞こえて顔を上げる。

視線の先にいたのは、仏の部長こと、金久保だ。

他に上級生がいない弓道部では、唯一の2年である彼がとても頼りになる尊敬する部長である。

「部長!」

「犬飼君、女の子に『魔女』って。悪口じゃなくても失礼だと思うよ。だから、僕はさんの味方だな」

とそんな宣言をされてしまった。

「ええ〜!」と声を上げたがどうやら分が悪いと察した犬飼はこれ以上余計なことを言わないように口を閉ざした。

その様子には笑い、ちょうど月子が戻ってきた。

どうやら更衣室に行っていたようだ。

「あ、ちゃん」

金久保には既に事情を説明しており、了承も得ている。

は月子に事情を話し、彼女は部長に断りを入れて生徒会室に向かった。




と、まあ。

こんなやり取りがあったことから思い出したようには犬飼にノートを貸したら翌日の昼食など、ご馳走してもらっているのだ。

毎回ではない。しかし、思い立ったときにはほぼ強制的に。何せ、『魔女』だから。

「でも、部長も言ってたけどやっぱりそれは犬飼君が悪いと思うわ」

月子までそう言う。

「あー、はいはい。俺が悪いんだよな、そうだよな」

投げやりに言う犬飼には笑った。









桜風
11.4.22


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