Kaleidoscope 21





の鞄を回収した晴秋は、思いのほか話し込んでしまったな、と腕時計を見て驚く。

「うわ...」

自分の腕がズルむけていることに、今気がついた。

そうか、ギリギリのスライディングだったもんな...

今から行くのは保健室だから手当てしてもらおうと思いながら階段を下った。


保健室に戻るとは寝息を立てていた。

そのベッドの横では心配そうな表情を浮かべる夏凛がその寝顔を覗き込んでいる。

「琥太、悪いが手当てしてくれ」

そう言って袖をまくった晴秋の腕を見て琥太郎は深い溜息を吐いた。

「お前、もっと早く言えよ」

「さっき気づいたんだよ。色々と体をいじめるのは慣れてるからな」

晴秋の仕事を考えればその通りかもしれないが、普通は気づくだろうというレベルの怪我だ。

「そういえば、戻ってくるの遅かったな。教師の誰かに捕まったのか?」

「いや。不知火をからかってきただけだよ」

しれっと言う晴秋に琥太郎は「妹が世話になってる自分の後輩をからかうなよ」と呆れながら言った。

それに対して晴秋は「はははっ」と軽く答えるだけだった。


暫くして下校のチャイムが鳴った。

、寮に戻るぞ」

晴秋が声を掛けるとの瞼がゆっくりと上がる。

「うん」と言って体を起こそうとする彼女を夏凛が手伝う。

「ほら、負ぶされ」

背中を向けて晴秋が言う。

「いやだ」

、まだふらふらするんじゃないの?良いから、アキに負ぶさりなさい」

心配そうに言う夏凛をじっと見た。

こんな心配そうな、不安げな夏凛の表情は出来れば見たくない。

晴秋の背を借りて夏凛がいつもどおり元気になるなら、と思って頷いた。


食堂の前を通りかかったとき、「ねえ、今年もあるの?」とが言う。

「ん?あるけど。今日は諦めるよ」と晴秋が言う。

「食べる」

背中から聞こえる声が意外で振り返った。

「食べる」とはもう一度言う。

「え、でも。大丈夫なの?」

「食べる」

心配そうな夏凛にも同じ言葉を返した。

「ん、わかった」と晴秋は食堂に足を向けた。

昨年同様、食堂のおばちゃんに預かってもらっている。

しかも、ケーキ自体レベルアップしているものだ。

食堂の中に入ると「ちゃん?!」と少し離れたところにいる月子が立ち上がった。

晴秋におぶられているので視線はいつもより高い。

ヒラヒラと手を振ると彼女が駆けてきた。

「どうしたの?」

「ちょっと体調崩しちゃった」と気恥ずかしそうに言う。

「大丈夫?」

「月子ちゃんのところ、席は空いてる?良かったらを座らせてほしいんだけど」と晴秋が問う。

「え、はい。大丈夫です」と月子が答えると彼女について席まで向かう。

そこには彼女の幼馴染の東月錫也と七海哉太、それと土萌羊がいた。

さん、どうしたの?」

「おい、。顔色があんま良くないぞ?大丈夫か?」

月子の幼馴染達は心配そうにに声をかけてくる。

「ちょっと、席借りるな」と晴秋が言ってを椅子に座らせて食堂の厨房に向かった。その後を夏凛が追う。

少しして晴秋が戻ってきた。

「うっわ...」

昨年のケーキは晴秋が片手で運んできた。

今年は両手で持ってきている。

何故夏凛が晴秋についていったかが分かった。

あの箱を持つとお皿と包丁とフォークはもてない。

「あ、あの...」

「17歳と言ったらそこそこ大人だからな!」

いやいや、子供です。子供のはずです...

は今更に後悔する。ケーキを食べたいとか言うんじゃなかった。

箱を開けた途端「おお〜」との傍でどよめきが起こった。

月子や東月や七海、土萌は勿論、の友人と呼べる者達が興味津々に傍にやってきていたのだ。

『お誕生日おめでとう、』とプレートに書いてある。

「去年と同じ徹は踏まないぞー」と言いながら晴秋が出したのは『1』と『7』と『?』の形をしたろうそくだ。

「ねえ、なんで『?』なの?」

が聞くと

「やっぱ、子供のままでいてほしいから」

と兄は言いながらケーキにそれを挿していく。

『17?』となったろうそくに火をつけた。

晴秋が夏凛を見る。

「さんはい!」

やっぱり今年も歌うんですかーーーーー!!

はまたしても顔を覆って羞恥をやり過ごす。

今年は同級生の合唱つきだ。泣きたい、恥ずかしい...

「ほら、ローソクの火を消して」

夏凛に促されては火を消した。

、どれだけ食べれる?」

包丁を構えた夏凛に「これだけでいい」と言ってフォークを取り、ケーキの上に乗っている苺をひとつ刺して口に運んだ。

「ごちそうさまでした」

「ホントにそれだけでいいの?」

月子が言うと「うん」とは頷き、「あの、去年と同じく」とは残りのケーキを月子に託してその場を去った。

ちゃん、どうしたのかな...」

部活をしていたため、月子はのあの騒ぎは知らない。

「おー。どうした、こんなに集まって」と月子たちの姿を目にした一樹が声をかけた。

目の前には結構値の張りそうなケーキ。

苺がひとつだけなくなっている。

「...月子。これ、悪いがあとでちょっと切り分けたのをの部屋に持ってってくれないか」

たぶん、体調が悪いのだけれど姉と兄の気持ちの応えようとしたのだろう。もう少し体調が落ちついたら食べる気になるかもしれない。

「はい」と月子は頷き、既に切り分け担当を請け負っている東月にお願いしていた。









桜風
11.5.27


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