Kaleidoscope 24





昼食をとりに食堂に向かうと、食堂で一樹が拝み倒されていた。

何なんだろう...

一樹はなんだかんだで頼られるのが好きそうなので、ああやって拝み倒されたら結局首を縦に振ってしまうんだろうなと何となく思っていた。



梅雨に入って湿気の多い日が続く。

お陰で食欲も落ちるというものだ。

と、いうわけで本日はサラダセットを食べているの前に知らない生徒がドカッと座る。

誰だっけ...?

どこかで見たことがあるような気がするが、分からない。うん、知らない人なのだろう。

気にせず食事を続けると「サラダだけ?あ、体重気にしてるの?女の子らしいね」と目の前の知らない人が声をかけてきた。

『女の子らしいね』の一言がなければ自分に対する言葉と思わずに食事を続けていただろうが顔を上げる。

「別に体重を気にしているわけではありません」

無視をしようとも考えたが、タイの色が青だった。上級生だ。

ああ、面倒くさい。

「そうそう、ちゃん」

突然名前で呼ばれた。

少し不愉快だ。

以前、生徒会に入ることが決まったときに一樹に突然名前で呼ばれて驚いたが、イヤではなかった。

ただ、驚いただけ。おそらくその声音に身内に対する親愛の情が何となく見えたからだろう。

しかし、目の前にいる男にそれはない。

あるとしたら、何だろう...厭らしさ?

「女の子が小食なのって見ててかわいいなって思うよ」

今すぐ夏凛を召喚してみたい。

あの人はガッツリ食べる。

体力の必要な仕事だからってのもあるが、昔からそうだったらしい。

今、ここに夏凛がいたら目の前の男子生徒の顎を持って上を向かせ、彼が啜っているラーメンをそのまま流し込むとかしそうだ。

「ほーら、男らしく沢山お食べー」とか言いながら。

...やりそうだ、お姉ちゃんなら。

は何となく想像して笑いそうになったのを堪える。

目の前の男子はが無反応なのが気に入らないのか段々イライラしてきているようだった。

!」

名前を呼ばれて振り仰ぐ。

「ああ、一樹会長」

「隣良いか?」

そう言って空いているの隣に座った。

「サラダセットって食うヤツいるんだな...」

の目の前のプレートを見ながら一樹は呟く。

「美味しいですよ。サラダの種類も多いし。お肉も入ってるし」

「俺は米が良いな。それ、パンしかないよな?」

「ライスでも大丈夫みたいですけど。やっぱりパンにしちゃいますね、これは」

はそう返してパンをちぎってバターを塗り、口に運ぶ。

目の前の男子生徒は気分を害したようで、去り際に舌打ちをしていった。

「...お知り合いでしたか?」

「知ってるやつではあるが、友人とは呼べない関係だな。邪魔だったか?」

「いえいえ、非常に助かりました。面倒だと思っていたのですが、さすがに上級生を相手に無視は出来ないかと思っていたところです」

淡々とそう言うに一樹は苦笑した。

「あんまひとりでいるなよ。颯斗はどうした?」

「当番だから今日は購買部でサンドイッチだって言ってました」

相手が暴力で訴えてきたらだってそれで返せるだろうが、さっきみたいなのはあしらうのが大変だろうと思う。

「お前、颯斗とか一緒に食堂に来れるやつがいないときは、購買部でなんか買って保健室で食ったらどうだ?」

一樹の言葉には少し機嫌が悪くなった。

さっきの男子生徒の『厭らしさ』が何かは何となく分かる。だから、こうして一樹が心配するのも。

その不機嫌をやり過ごすようには溜息をつき「はーい」とあまり良い返事とは言えない返事をした。


昼食を済ませて教室に戻る途中にやっと思い出した。

先日一樹が拝み倒されていた。その一樹を拝み倒していた相手がさっきの男子生徒だ。

何だったんだろう...

教室に戻り次の授業の準備を始める。

その日の放課後は保健係の仕事が入っていたので、は生徒会室には行かなかった。


「と、いうわけなんだ」と一樹が言うと「それは..ちょっと面倒なことになりましたね」と颯斗が悩ましげに言う。

「ああ、俺はきちんと言ったつもりだったんだがな」

「一樹会長が曖昧に何かを伝えることは無いでしょうから、相手が態々婉曲した解釈をしたとしか思えませんけど...」

生徒会にはこの学園の女子が全員所属している。

全員と言っても2人しかいない女子が2人とも所属していると言うことなのだが...

生徒会長として、不知火一樹という人物は生徒にも教師にも一目を置かれており、その彼の部下である生徒会役員にちょっかいを出すのは彼による無言のプレッシャーで随分と減っている方だとは思うが、それでもめげない生徒達だっている。

まあ、年頃の男どもが集まっているのだから仕方ないといえば仕方ないが...

は腕っ節が強いというのが有名でそのためそれが男子生徒たちの抑止力にもなっていた。

しかし、春先に彼女が倒れたという噂がその抑止力を弱めてしまったらしい。

完璧で近寄り難いというイメージが少なくとも月子よりはあっただったが、いつも誰かが一緒にいる月子と違っては単独行動をすることが多く、逆に隙が多いのではないかと言う勘違いが広まってきているみたいなのだ。

「実力行使に出てくれりゃ...」

がカウンターで伸すだろうと思ったが、

「何を言ってるんですか!」

と颯斗に叱られた一樹は「だよなぁ...」と力なく同意した。

先日、自分に直談判に来た生徒がいた。

と話をさせてほしい。

態々自分にそう言いに来るってことは普通の『お話』で済むものではないのだろうと思って断った。

そうしたら本日食堂で、隠すことなく迷惑そうな顔をしているにめげずに声をかけている男子がいた。

淡い恋心とかで済むなら良いが、何となく嫌な予感がしているのだ。

以前、の兄に彼女のことを見たかったら広い視野で見てみろといわれた。

少しなれないからコツが掴めているのかどうか分からないが、やっぱり自分の勘に頼ると、このまま放置しておくのはいいことにはならない気がする。

「あいつ、確か..柔道部だったか?」

「...まさか」

来る体育祭、クラブ対抗二人三脚リレーで柔道部が優勝してしまったら...

「誉には何としても頑張ってもらわないとな」

「そうですね...」

一樹の言葉に颯斗も深く頷いた。









桜風
11.6.3


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