Kaleidoscope 25





「ねえ、颯斗くん。何かあった?」

不意にが問う。

「え?別に、何も...」

心の中では焦ったが、いつもどおり返事をする。

昨日、一樹に話を聞いて自分も出来るだけの傍にいようと思ったのだ。

しかし、そこを不審に思われているらしい。

どうしたものかと悩ましいところだ。

「そういえば、体育祭でさんはリレーでしたよね」

あからさまな話の転換には半眼になって颯斗を見る。

だが、彼が言いたくないことを態々聞き出すのはとしてもあまり楽しいことではないのでムリに口を割らせようとはしない。

自分に関係あることなら、いつか分かるだろうし...

「力勝負では勝てないしね。リレーなら走ってれば良いんだから」

それはそうと、借り物競争の競争率が高かったことを思い出す。そして、このクラスでその競争を勝ち抜いたのが颯斗だった。

去年もダシにされたからなぁ、とは昨年の体育祭を思い出した。

『借り物競争』というものがある。

まあ、紙に書いてあるものを借りてゴールを目指すというシンプルなものだが、昨年はその借り物にや月子の鉢巻とかタオルとかそういうのを指定されていた。

体育祭の実行委員会については、生徒会も噛んでいるが、各クラスの実行委員が中心となるので内容を把握しきれないのが実情だ。

去年そんなことがあったので、借り物競争は彼女たちと『お近づき』になれるという邪な男達の欲望まみれの競技となってしまっている。

月子はどうか分からないが、は何となく察しているのではなかろうかと思って颯斗は彼女を見下ろしたがよく見えない。

こういうとき、身長差があるので表情を覗き見ることが出来ず不便だと思う。


「と、言うわけなんですけど」

保健室には珍しく一樹がいて、琥太郎と向かい合って座っている。

「相談があるのですが」と言われて何の相談かと思えばのことで、琥太郎は溜息を吐きたくなる。

「放っておけ」

「しかし...」

「手を出すな、と言う意味だ。見てくれるのはありがたいし、お願いしたいくらいだ。けど、は他人が自分に向ける感情に敏感だからな。特に、悪意に近いものは」

溜息混じりに言う琥太郎に「では、今回のも...」と言うと「たぶんな。自分で対処できなくなったらお前とか俺に相談してくるだろう。は頼り方を知ってる」と言う。

「そう..でしょうか」

なんだかんだで独りで何でもしようとする姿をよく目にしている気がする。

「根っからの末っ子だからな。子供の頃から俺もそこそこ甘やかした。放っておいて手遅れになることはないさ」

軽く請け負った琥太郎にいささか納得しかねる一樹だったが、昔から彼女を見ていたという彼が言うなら、と納得することにした。

「あと、例えば柔道部が優勝してとの交際をどうたらって言ってきた場合、生徒会は個人の意思をどうこう言えるのか?」

本人が了承しないのに、と言いたいのだろう。

「相手の出方次第ですけど。例えば、を柔道部のマネージャーにするための交渉権を、といわれたらそこで断ることは出来ないでしょう。その後の交渉はどうなろうが知りませんけど」

なるほど、と頷いた琥太郎は苦笑した。

「しかし、やはり殆ど男子校状態だからはよくモテるな」

「笑い事ですか?」

「今のところはな」

琥太郎の返事に溜息を吐いて「では、失礼します」と言って一樹は保健室を後にした。




体育祭当日。

今回強引とも言われそうだったが生徒会が借り物競争の内容に規制をかけた。

これは本気で生徒会が女子生徒たちを保護しようとしているぞ、と密かに囁かれている。

あの生徒会長を敵に回してまでささやかな夢を見させてやろうなんて根性は体育祭実行委員にはなかった。

そのことにがっくりと肩を落とした生徒は多く、強引に介入した会長に対して不満を抱く生徒も少なくない。

「あんまりこういう強引なことは...」

がポツリと呟く。

「いーや。俺の仲間が俺以外のヤツに景品みたいに扱われるのがイヤなんだよ」

お前達に気を遣ったんじゃないとアピールする一樹には肩を竦める。

いつも「とーちゃん」とか言いながら自分達を庇ってくれる一樹は文字通り盾になってくれていることが多いと思う。

能力のある人だからそういうのを見せないだけで。


クラブ対抗二人三脚リレーは弓道部が優勝した。

放送部がマイクを向けると「女子更衣室!」とご褒美の希望を部員全員が口を揃えて言う。

一樹がちらとを見た。

準備は万端だ。

頷くを見て一樹は両手で大きく丸を作った。「了解」と言うことだ。

弓道部員達は沸く。

自然と周囲から拍手が沸き起こり彼らの勝利を祝福する空気が流れる。

いやぁ、青春だ...

そう思っていたが視線を感じてそちらに視線を向けると、先日の男子生徒が睨んでいる。

自分をか、それとも一樹をか...

「一樹会長、夜道には気をつけたほうが良いですよ」

「は?!」

このタイミングで言われる言葉ではなかったので一樹は頓狂な声を上げた。

まあ、退学になりたくないだろうからよほどのことはしないだろう...

彼の常識と良識を信じたはとりあえず気にしないことにして、こちらに戻ってくる月子を笑顔で迎え入れた。









桜風
11.6.10


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