Kaleidoscope 27





8月に入って間もない頃、会計の書類の締め切りだと言うのに、翼が全く手をつけてないなと言うとんでもない事態に陥っていた。


その後、何とか会計に関する書類が落ち着いた。

これもひとえに颯斗の笑顔のお陰である。

「颯斗くんは凄いねぇ」とがしみじみ言うと「頑張ったのは俺だぞ」と翼が主張した。

「おいおい、颯斗が追い立てたから何とかできたんだろう」と一樹もの意見に賛成らしくそう言った。

「よし!じゃあ、俺たちも夏祭りに行くか」

はきょとんとする。

なに、それ。

「ああ、先ほどさんが職員室に行ってる間に月子さんが来てたんです。それで夏祭りの話になって、月子さんは部活のみんなと行くかもしれないとか」

「で、翼のヤツも行きたいって言いだしてな。別に良いが、仕事が済まんとムリだぞって言ったらこうして頑張ったってワケだ。も来いよ」

普通こういうときは『来るだろう?』とか、そういう相手の意思を確認する言い方になるのではないだろうか。

しかし、こういう言い方をする人物が身内にいるのでは逆にそれが嬉しくなる。

つまりは、身内と言うことだから。

「はい」と頷くと「よし」と一樹も満足げに笑った。


一度寮に戻って私服に着替える。

「おい、何処に行くんだ?」

外出届を出して寮の玄関を出ようとすると琥太郎に声を掛けられた。今の時間はまだ保健室は開いていないといけないはずだ。

夏休みだから早く終わったのかな、と首を傾げると「忘れ物を取りに来たんだよ」との考えを察してそう言う。

なるほど、と頷いたは「生徒会の皆と夏祭りに行くんです」と答えた。

「ああ、そういえば今日だな。気をつけていけよ。迷子になるなよ」

「子供じゃないです!」

そう返しては玄関を出て行った。

「毎回迷子になってたのは誰だよ」

苦笑交じりに琥太郎は呟き、学校に向かった。


正門前の集合だった。

が一番最後だったらしく「遅いぞー、書記その2」と翼に文句を言われた。

「ごめん」と頭を下げる。

「よし、じゃあ行くか」



「...しまった」

周囲を見渡すと知ってる人物がいない。

あの長身集団だ、自分が見上げれば何とか見失わずに済むと思っていたのだが...

出かけ際の琥太郎の言葉を思い出す。

「迷子デース」

呟いて溜息を吐く。

仕方ないので連絡を取ろうと携帯を見ると電源が切れていた。

あれ?と首を傾げて電源を入れようとしてもうんともすんとも言わない。

「あ、そか」

今朝、携帯の充電を確認したら電池は残りわずか。

しかし、夏休みだし、生徒会の仕事だけだしとか思って気にしなかったのだ。

こうやって出かけるなんて微塵も思っていなかった。

探しに行こうかと思ったが、この人ごみだ。

下手に動かない方がいいだろう。

は少し脇に外れて空を見上げた。



幼い頃、まだ両親が生きていた頃に祭に連れて行ってもらった。姉は全寮制の学校に通っていたし、兄はクラスメイトと一緒に行くといって一緒には来なかった。

そのとき、は迷子になった。

両親は必死に探してくれたらしく、を見つけたときは母が抱きしめてくれて、その後父が肩車をしてくれた。

それが嬉しかった。

両親が亡くなった年、琥太郎が近所の神社の夏祭りに連れてきてくれた。

ふと、父に似た背中を見つけて追いかけた。

そして迷子になった。

今はもう探してくれる両親がいない。

怖くなって泣いていると「!」と自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

琥太郎だ。

「琥太にぃ!!」

名前を呼ぶと彼は自分を見つけてくれた。

一生懸命探してくれたのが分かるくらい汗をかいて、そして、を見つけた途端ほっとしたように息を吐いた。

「ほら、お前小さいから」

そう言って手を繋いでくれた。

とても安心できた。

それ以来、夏祭りにはは必ず迷子になっていた。

探してくれる人がいること、手を繋いでくれること。

それが嬉しかったのだ。









桜風
11.6.17


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