Kaleidoscope 32





夜店でかなりの買い食いをした。

「高校男子ってこんなに食べるもんなの?!」

夏凛は女子高育ちなのでこれだけもりもり食べる高校生が珍しかったみたいで目を丸くしていた。

「こんなもんだよ」という晴秋が全部奢った。まあ、全員後輩だし、餌付けでもしておこうかなって思ったらしい。

餌付けって...


家に着いて晴秋がバッグを下ろした。

「お兄ちゃん、大荷物だね」

「ん?半分は酒。姉ちゃんも帰ってくるって聞いたし」

「あたしのもー」

夏凛と晴秋の言葉には「もー!」と頬を膨らませる。

「どうしたの?」

こんな表情も可愛い!とか言いながら夏凛が問う。

「前も大量にお酒を持って帰って、適当に空けて途中まで飲んだの放ったらかしにした挙句、久しぶりに飲んだらすっぱくなってたんでしょう?」

「ああ、アルコールってほんとに酸化したら酢になるんだな。化学で習ってたけど、この身を持って実感した」

「CH3COOHね!」

晴秋と夏凛の会話には盛大に溜息を吐いた。

「あのさ。アキも夏姉も凄く頭が良いって知ってるし、聞いてるけど。偶にほんとに呆れるくらい馬鹿だよな」

しみじみと言う琥太郎に「ははっ、琥太」と晴秋が物凄くさわやかな笑みを浮かべた。

嫌な予感がして「琥太にぃ...!」とが注意を促そうとしたが時既に遅く、ヘッドロックを掛けられた琥太郎は「ギブギブ」と畳を叩いている。

「お兄ちゃん、そちらの方は我が校の大切な保健医!!」

が訴えると「アキ、落としなさい」と冷ややかに夏凛が言う。

「違う。あんまり大切じゃないけど、いなきゃそれはそれで困る保健医!!」

が言い換えると晴秋は力を緩め、「仕方ないわね」と夏凛も許す気になったらしい。

「琥太にぃ、大丈夫?」

「久々に死ぬかと思った...」

何やってんだ、この大人たち...

は皆の心の声が聞こえた気がした。



子供達を寝かしつけた後、晴秋の部屋で酒盛りが始まった。

「俺、寝たいんだけど」

「寝れば?」

酒を1滴も呑まない琥太郎が訴えるとさらっと夏凛が返す。

「まあまあ、琥太も付き合えよ。さっき冷蔵庫の中のウーロン茶取って来たし」

そう言って晴秋がグラスにウーロン茶を注いで琥太郎に渡す。

「あれからは元気?」

「夏姉たちみたいにあんな無茶させる人がいないからな」

それからお互いの近況を話す。

琥太郎は自分の状況を少し話をすると「ま、琥春の気持ちも分からないでもないけど」と夏凛が苦笑した。

「そういえば」とぽつりと琥太郎が呟く。

「ん?」

「郁から相談されてるんだけど」と前置きをする。

カタリと廊下から音がした。

「どうしたー」と晴秋が声を掛けると寝ぼけた顔のが部屋に入ってきた。

そして胡坐をかいている晴秋の膝に頭を乗せてくうくうと寝始めた。

「寝ぼけてるな、これは」と琥太郎が苦笑し、「何でアキ...」と夏凛が心から悔しそうに呟いた。

「相変わらず熱いな...」

の頬をなでながら晴秋は苦笑する。

は眠っていると体温がかなり上がる。それを知らなければ発熱していると思い、慌てて病院に連れて行くだろうと思われるくらいの体温だ。

実際、のこの体質のことを知らなかったときは琥太郎は夜になるたびに心配したものだ。

琥太郎が実家を出たごろに姉の琥春が実家に帰って来ての面倒を見て、やっぱり何度かこのことで病院に行った。

「で?郁?」

話を元に戻す。

「郁ちゃん?」

寝ぼけているが問い返す。

「うん、郁の話」

晴秋が頷くと寝たままはファイティングポーズをとった。

その様子に夏凛は声を上げて笑い、琥太郎も苦笑した。

「郁、教育学部なんだ」

「うわ、凄いの育てそう...」

夏凛の呟きを黙殺して琥太郎が話を続ける。

「それで、教育実習先を探してるんだって」

「郁の通ってる学校って附属高校ないの?」

「あるみたいだけど。俺、ちょっと無理を通してみようかと思ってるんだ」

「はあ?」

何でそんなことを、と言いたげに夏凛が声を上げた。

「姉ちゃん、を部屋に連れてってやって。月子ちゃんがいなかったらオレが連れて行くんだけど」

晴秋が夏凛にそう言う。

晴秋の意図に気づいた夏凛は「うわ、可愛くない」と言ってをひょいと持ち上げて「トイレも行ってくる」と宣言して出て行った。

「まあ、そりゃお前がそうしてやりたいと思って、頑張ってやるんだったら良いとは思うけど。ただ、お前必要以上に『水嶋』を背負いすぎてるぞ、たぶん」

晴秋の言いたいことは琥太郎にも分かっている。

「わかってる」

俯いて琥太郎が言う。

「有李のことは、お前のせいじゃないぞ」

重ねて言った晴秋の言葉に返事をする代わりに琥太郎は晴秋のコップに手を伸ばして一気に煽った。

「あ、ばか...」

それでなくとも酒に弱いのに、こんな強いのを飲んでしまったら明日が辛いはずだ。

「逃げるにしても考えろ、ばか」

1滴でも酒を飲むと寝てしまう琥太郎はそのまま仰向けに倒れてしまった。

「うわ、邪魔」

戻ってきた夏凛がドア付近に転がってる琥太郎を蹴ってそう言った。

「まだ過去に捉まってんのねー」

皺を寄せている琥太郎の眉間をぐりぐりとつつきながら夏凛が言う。

「仕方ないだろう。琥太と言い、郁と言い...有李が気の毒だな」

も、ね」

ポツリと呟いて夏凛はちびりと酒を舐めた。









桜風
11.7.1


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