Kaleidoscope 34





塩をまき終わった夏凛が戻ってきた。

「今朝ね、あたしたち居なかったでしょう?お墓参りに行ってたの、両親の」

唐突に始まった話に皆は多少混乱を見せる。

夏凛は、の7歳の誕生日に亡くなった両親のこと、その後の親戚の態度と星月にを預けることになったその経緯を話した。

「ま、あたしが星月のおじさんに頭を下げただけだとやっぱりあの親戚連中には勝てなかったと思う。
親が遺言を弁護士に預けてたのよ。子供達は星月に頼む、って。そうじゃなかったら未成年だったあたしは対抗手段が無かった。
んで、学校辞めて、就職して今の仕事についたの。あの馬鹿どもに親の培ってきたものを吸い尽くされて溜まるかって思ってね」

ウィンクをして彼女がそういった。

「夏凛さんは何のお仕事をされているんですか?」

月子が問う。

「空から日本を守ってます」

「は?!」

「ちなみに、アキは海から日本を守ってます」

「へ?!」

だから体格が良いのか、と何となく納得したが...

その思い切った性格で色々と大丈夫なんですか?!

皆は心の中で突っ込んだ。


「姉ちゃん、オレ買い物行ってくるよ」

2階から降りてきた晴秋がいう。

「あたしが行く。この子達の勉強はあたしは見れない」

そう言って立ち上がり、「あの家の脱税の話、垂れ込もうかしら」と呟いた。

「やめといた方が良いよ。あそこたしか、今年19になる息子も居るだろう?殆ど家から出ないらしいけど」

「それが?」

は、17歳。そいつ、19歳。去年のの誕生日に琥太から聞いた話、思い出して?」

弟の言葉に従い思い出す。

「あっぶな...」

は素直だからね。オレらの不利になるとか何とか言われたらサインして判も押すよ。変に後ろめたさを持ってるし」

晴秋の言葉に「そうね」と頷いて夏凛は出て行った。


何事も無かったかのように晴秋は先ほどと同じ場所に座って新聞の続きを読み始める。

「あの、晴秋さん。さっきのどういうことですか?」

月子が問う。

「ん?ああ、19と17の話?結婚の話。この国は婚姻届って言う紙切れを役所に提出したら法律上は身内になっちゃうからね。そしたらが親から継いだ財産も全部吸い尽くされる。金はどうでも良いけど、あの子が確実に不幸になるからね」

晴秋が言うと月子が頷いた。

あの親戚のことを詳しく知っているわけではないが、を切りつけたあの言葉の数々を思えば碌なことにならないだろうと思う。

「オレも姉ちゃんも公務員だしさ。ちょっとそういう柵があるんだよ」

「買い物が済んでなかったのに、どうして戻って来れたんだ?」

翼が問う。先ほど夏凛は買い物に出て行った。つまり終わっていなかったと言ことだ。

「嫌な予感がしたから、買い物切り上げて帰ってきただけ。勘だよ、勘。こと、のことに関してオレの勘は半端ない」

笑いながら晴秋が言う。

「ま、こんなことがあったけど。お前らは今までどおりの付き合いをしてやってくれな?」

晴秋の言葉に「勿論です!」と両拳を握って月子が立ち上がった。

周囲はきょとんとしたが、晴秋は目を細めて「ありがとな」と言った。

「でも、私。昨日ちゃんにご両親は?って聞いちゃいました」

しゅんとして月子が言う。

晴秋は苦笑した。

「悪意のある言葉とそうではない言葉。は敏感だから大丈夫。第一、こんなでっかい家なんだから気になるのは当然だろう?あの子も気にしてないよ。

ありがとう、月子ちゃん」

晴秋の言葉に月子は頷いた。

「ところで、肝心のはどうしたんですか?」

一樹が問うと、

「目と鼻の頭が赤いからそれが戻ったら降りてくるって」

と晴秋は苦笑した。


暫くしてが戻ってきた。

「ごめんね、嫌な思いをさせちゃって」と笑って言うに月子が溜まらず抱きついた。

しかし、不意をつかれたは月子を受け止めたままよろよろと後ろに下がる。

「いてっ」と頭の上から声がして見上げると琥太郎にぶつかって止まる事ができたことに気が付いた。

「ありがと」

「何やってるんだよ、お前達は」

呆れたように琥太郎は呟き、「ごめんなさい」と言って月子は戻っていった。

「琥太にぃ、ごめんね」

ポツリと呟くの頭をガシガシと乱暴に撫でた琥太郎は何も返さずに居間に向かった。


「ちょっと、琥太。スイカ邪魔!」

「仕方ないだろう、昨日食べなかったんだから」

「もう、場所取るもの持ってこないでよ!」

台所が賑やかになっている。

勉強はひとまず休憩だ。

昼食の準備を始めた姉の姿を見てが手伝うと言うと

「小間使いが居るから大丈夫」

と笑顔で彼女が言い、の代わりに琥太郎が呼ばれた。

「小間使いって俺かよ」とブツブツ言いながら琥太郎は大人しく台所に向かう。

「なあ、の姉ちゃんってホントに公務員なのか?」

何で知ってるんだろう、と思いながらも七海の質問には頷く。

「ちゃんと階級が上の人には大人しいぞ。下にはあんな感じだけどな」

苦笑して晴秋が言う。

「組織が違うのに交流はあるんですか?」

「たまにな。というか、放っておいても姉の噂はオレの所に流れて来るんだよ。聞きたくもない姉のジャイアン的なアレが尾鰭も背鰭なしで。たまに、向こうの上官が冗談でオレに『何とかできないか』とか言ってくるし。『ムリです』って返してるけど」

「お姉ちゃんって昔からそうだったの?」

の問いに晴秋は首を傾げた。

「んー、どうだったかな?姉ちゃんも高校から全寮制だったし、大学も寮に入ってただろう?接点自体が少なかったからなー。偶に会ったらあんなだったから、生まれつきじゃないか?」

そして、噴出す。

「ただ、お前をいじめ続けた郁をジャイアントスイングでお仕置きしたのは笑ったなぁ」

そのまますっぽ抜けて琥太郎に直撃した。

全く自分の関係ないところでの話なので、笑い話だが、本人達は笑い事ではなかっただろう。



「ほら、小僧ども。たんとお食べ」

昼食はどんぶりものにした。

昨晩の様子を見ていたので、とりあえず腹に来そうなものと考えてどんぶりものにした。

ホントはそうめんが食べたかったが...

とつっこちゃんは、こっち」と言って小ぶりなどんぶりを渡す。

「食べられる?」

が問うと

「大丈夫、美味しそう」

と月子が笑う。

「そういや、アキ。あの話断ったんだって?あんたの上司から説得してくれって言われたから『お知り合いのご息女が不幸になってもいいなら姉として命令しますけど?』って返しといたよ」

不意に始まった話。

「何の話?」

が首を傾げると

「アキのお見合いの話。うちら結構上官からそういう話が来るのよ」

と夏凛が答えてはぽかんと晴秋を見上げた。

「オレはまだを構っていたい。それでも構わないって言っても、大抵最終的にはそれじゃイヤだって言いだすからな」

晴秋の言葉に目をぱちくりとした。

「アキより先に夏姉じゃないのか?」

琥太郎が言うと「彼氏くらい居るよ」と夏凛が返し、その場に居た全員が「ええーーーー!!」と声を上げた。

「凄いな、姉ちゃん。会って間もない少年達が驚きの声を上げてるぞ」

晴秋が笑いながらそう言う。

「ほんと?」と恐る恐る聞いたのはだ。

「うん。ただ、結婚したらどっちか仕事やめなきゃならないから。ほら、あたしの方がどの道引退早いだろうから、その後でも良いでしょうって。それまで待てないなら知らないって言ってる」

「噂では『勇者』扱いだからな、姉ちゃんの彼氏」

「ねえ、お姉ちゃん。写真ある?」

「ない」

「じゃあ、どんな人?」

「...使えるやつ」

そう言って夏凛は立ち上がり、台所へと向かう。

「お姉ちゃん、照れてる」とが呟き、「珍しいものが見れたな」と琥太郎が頷く。

そんな2人の様子を見て晴秋は苦笑を漏らした。









桜風
11.7.8


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