Kaleidoscope 49





ガラリと保健室のドアが開いた。

もう戻ってきたのかと思い振り返ると郁が立っている。

「何だ、琥太にぃいないの?」

部屋の中を見渡して郁が言う。

「たぶん、5階」

が短く返す。5階には理事長室がある。琥太郎は結局理事長と保健医を両立させる道を選んだ。

「ふーん...」

そう言いながら郁はそのまま保健室の中に足を踏み入れた。

が構える。が修学旅行以来つけているヘアピンを見て郁は口を開いた。

「ねえ、。何ではこの学校に来たの?」

「え?星..神話に興味があったから」

「簡単に入れると思ったからじゃないの?入ってから優遇される、とか。一番利用しやすいもんね、ここ」

挑発するように、わざと厭らしい言い方をする。

「ご自身の母校をそのように仰るのはいかがかと思いますけどー?」

が適当に返す。

その反応が気に入らなかったのか、郁はを睨んだ。

「男だらけの学校に入ってちやほやされたいって思ったんじゃないの?」

「別に、そういう邪推をわたしに向けられるのは構わないけど。それ、つっこちゃんには言わないでよ。郁ちゃん『サイテー』のレッテル貼られちゃう」

「もう手遅れ」

肩を竦めて郁が言う。

は盛大な溜息を吐いた。

「郁ちゃんって、実はドMだよね」

「はあ?!失礼なことを言うのやめてくれない?」

「他人を傷つけて、その人が自分の言葉で傷ついた顔を見て自分を傷つける。何とまあ、遠回りな自虐的な行為なのでしょうかー」

芝居がかってが言う。

殆ど図星だが、に指摘されたくなかった。

皆に守られて幸せに育てられてそのことに気づかず、それを当たり前のように思って生活をしている子供に。

「そうやってのうのうと生き続けるってどんな気分?自分がわがままを言ったから親がなくなったんだよね、の家」

郁がそういったと同時にドアが開き、琥太郎が戻ってきた。

「郁!!」

ドアを開いた途端に聞こえた言葉に思わず声を荒げた。

「星月先生?」

幸いなことに、琥太郎と一緒にやってきた月子には聞こえていないようだ。

「ほらね、郁ちゃん。盛大に傷ついてる」

は笑う。

いつもの笑顔だ。その笑顔に郁はほっとした。

「ねえ、郁ちゃん。残念ながらそれは親戚の中で言われ続けてきたことだから、わたしだってもういい加減傷つくのに飽きたの。残念でした」

はそう言い、「星月先生、わたしは帰ります。もう留守番は良いんですよね?」と保健室を後にした。

「ああ、ありがとう」と琥太郎は呆然とを見送った。


「おい、郁...」

「わかってる。今回は僕が大人げなかったし、酷いことを言った自覚はあるよ」

「あとで謝っておけよ」

「はいはい、そうします」

適当に返していると琥太郎の携帯がなった。

「ちょっと落ち着け。え?郁?いるけど。夜久も?ああ、いる。ちょっと待てって」

琥太郎がそう言って携帯を操作した。

『月子ちゃん、悪いけど不知火呼んできてくれないか?』

スピーカーから相手の声が聞こえる。

「一樹会長、ですか?」

『ああ、使いっ走りにして悪いけど至急、頼みたいんだ』

「分かりました」と言って月子が保健室を後にする。

「アキ?」

怪訝に思って電話の向こうの人物に声を掛ける。電話の相手はの兄の晴秋だった。郁とも勿論知り合いである。

『郁、今すぐを探しにに行け!』

「はあ?久しぶりに声を聞くのに、挨拶もないの?」

『ごちゃごちゃ言ってんな!すぐに走れ!!に何かあったらオレも姉ちゃんもお前を許さないからな』

「何で僕が...第一、に何かあるの?」

『オレは星詠み科だ』

一言そう言うと郁の表情がさっと変わった。

星詠み科のことは詳しく分からない。ただ、予知できるとかそういう力があるとか。

眉唾物だと思っているが、晴秋の言葉に有無を言わせないものがある。

郁は走って保健室を後にした。

「アキ、どういう...」

『こういうとき女の先生がいないのは痛いな、何かあったときのフォローがな...』

晴秋がそう言っていると電話の向こうで何か声がして『悪い、切る』と言って一方的に電話が切れた。


「あの、一樹会長を呼んできました」

「晴秋さんが呼んでるって聞いたんですけど」

一樹を呼んできた月子にまた別の用事を頼んで琥太郎は彼女を追い出した。

「お前、のこと星詠みの力で何か分かるか?」

「は?あ、いえ...はちょっと特殊で晴秋さんも彼女自身を見ることは出来ないって...あいつに何かあったんですか?」

「らしいが、電話が切れた。勤務中なのに隙を見て電話をしてきたって感じだったな」

「俺にも何か出来ることありますか?」

ただ事ではないと思った一樹が声をかけたが、「今は何とも言えない。すまない。アキはたぶん、夜久を保健室から遠ざけるためにお前を呼んでくるように言ったんだと思う」と答えるだけだった。

「わかりました。何か手伝えることがあったら言ってください」

そう言って一樹は保健室を後にした。やけに胸騒ぎがして落ち着かなかった。









桜風
11.9.2


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