Kaleidoscope 51





陽日の許可が下りた郁は琥太郎と共にの病院に付き添った。

がレントゲン室から出ると琥太郎だけがいた。

「あれ?郁ちゃんは?」

「電話」とだけ琥太郎は答えて椅子に座る。

はその隣に座った。

、約束だ。俺を頼れ。大丈夫だ。学校内のことだったらやり様がある。俺は、こう見えて理事長を兼任している保健医だからな。あと、お前を傷つけた生徒は見つけ出して処分するぞ。被害に遭ったのがお前だからじゃない。どの生徒でもそうする。いいな?」

自分が琥太郎に相談していたら此処までならなかったかもしれない。

そしたら、あの生徒は処分されることもなかっただろう。

結局、自分の選択は間違っていたのかもしれない。

「はい」とは消え入りそうな声で返事をした。


「怖かった...」

戻ってきた郁がそう言って琥太郎に携帯を返す。

「だろうな。今度1発くらい殴られるのは覚悟しとけよ」

「僕の骨、ボロボロになっちゃうよ」

嘆くように言う郁には首を傾げる。

「どうしたの?」

「んー?大人らしく自分のやっちゃったことにけじめをつけたの」と郁が言う。

「ふーん」と呟いたは突然目をキラキラとさせた。

「ね、あとで学校に帰ったら一緒に屋上庭園に行こう?」

が言う。

「えー、今日?」と郁が言い、「たぶん、安静にしろとかいう指示が出ると思うんだがな」と琥太郎も賛成ではないようだ。

しかし、「今日が良いの!」とが言う。

2人は顔を合わせて「はいはい」と頷いた。


診察の結果、は脱臼と剥離骨折で全治3週間とされた。

帰りのタクシーの中でこれからの生徒会行事を思い浮かべる。

「大掃除がどうか、くらいだな。まあ、ヘタすりゃクリスマスも微妙だろうが」

の考えを察した琥太郎がそういった。

「あ、やっぱりギリギリかかるかもしれませんよね?」

肩を落としただったが、「まあ、できる範囲で頑張ろう」と呟いて顔を上げた。



の願いを聞き届けるために琥太郎と郁が屋上庭園を目指した。

時間は遅いから普通、生徒はいない。

は病院に行くと言うことで外出届を出しているので、今日は寮の門限については厳しく言われることはない。

「で?どうして此処に来たかったの?」

郁の問いに「伝えるために」とが言う。

星空を見上げたは「地味だねぇ」と呟く。

「ま、僕は嫌いじゃないよ」

郁も空を見上げた。

「俺もだな」と琥太郎も空を見上げた。

「わたしね、有李ちゃんに2人を頼まれてたの」

突然のの告白に2人は同時にを見下ろした。

「何言ってんの」と郁。盛大な溜息を吐いたのは琥太郎だ。

「まあ、ちょっと聞いてよ。特に郁ちゃん、今日はわたしに負い目があるんでしょ?」

脅された...

郁は「はいはい」と面倒くさそうに手を振った。

それでも、聞かないとは言わなかった。


「有李ちゃん、ずっと郁ちゃんを心配したてたよ。わたしは郁ちゃんより時間があったから有李ちゃんの病室に入り浸って学校の話をしてた。
そのときに聞いたんだけど、郁ちゃんってわたしが上級生に苛められたら仕返しをしにいってくれてたんだってね。同級生のときはスルーだったけど。
『郁って素直じゃないから』って有李ちゃん笑いながら言ってた。
自分の気持ちを伝えるのは素直じゃないけど、根が素直だから傷つきやすいって。
郁ちゃんはよく『人は人を利用している』っていうよね」

「実際、僕はそんな経験したからね」

肩を竦めて郁が言う。

「けどさ、郁ちゃん。わたし、郁ちゃんを利用してた?」

「上級生に仕返しをさせてたでしょ?」

「わたしは知らなかったよ。郁ちゃんが高校生になるまで。ということは、郁ちゃんは厚意で助けてくれてたんでしょ?」

の言葉を鼻で笑い「おめでたいな、頭が」と郁が言う。

「これまで、郁ちゃんを利用した人は沢山いるかもしれない。元メジャーデビューしたバンドのボーカルだからお付き合いしたいなーとか、こいつ声が良いからボーカルにしちゃおうぜー、とか。
けどね、郁ちゃん。わたしにとって、郁ちゃんは正直利用できる何かなんて全然ないんだよ?」

「それ、ちょっと酷くない?」

「元バンドのボーカルでもわたしにはいじめっ子のままだし。顔が良くても性格がひねてるの知ってるし。
それでも、わたしは郁ちゃんの味方だよ。郁ちゃんが困ってたら頑張ってできることをしてみるよ。けど、邪魔になったらごめん」

そう言ってはてへへと笑う。

「だから、郁ちゃん。郁ちゃんは知るべきだ。案外自分は利用できない人間だって。それでも、郁ちゃんと一緒に居たいって思う人がいるし見返りを求めない関係だってあることを。
結果、それが利益に繋がることはあるかもしれない。郁ちゃんと一緒にいたら和むなーって奇特な人がいるかもしれないもんね。それってある意味利益でしょ?
ねえ、郁ちゃん。有李ちゃんはきっと心配してるよ。足し算引き算しか出来なくなった郁ちゃんのことを」

は言い終わって郁を見上げてニッと笑う。

子供のときと変わらない。有李が可愛がって、それが面白くなくて苛めてしまった笑顔。

それでも、彼女が泣かされて帰ってきたら腹が立って仕返しをした。別に見返りがほしかったわけじゃない。ただ、イヤだった。は笑っていれば良いと思ってた。

「...随分と好き勝手言ってくれるね」

「これくらい言わないと郁ちゃんはわかんないじゃん」

「考えとくよ」

郁の言葉に満足したはその隣に立つ琥太郎を見上げた。









桜風
11.9.9


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