| 毎日、引継ぎの事務が続く。 その中で冬のイベントのひとつがやってきた。 バレンタイン。 男子校だったのに、何でこんなイベントが... そんなことを思ったのは昨年のことで、今年も一樹が張り切っていた。 颯斗への引継ぎの中に、絶対にバレンタインはなくさないように、というのを強く言っていたのを思い出す。 颯斗は笑顔でスルーしていたが。 星月学園のバレンタインは、ダミーチョコと本命チョコを学校内に隠し、参加者がそれを血眼になって探すと言うものだ。 本命チョコを手にした生徒は生徒会室に持ってきて、お願いを聞いてもらえるという。 「確か、去年は一樹会長のジャケットのポケットの中でしたよね」 颯斗が言う。 あれは反則だとか言う物議をかもした。 今回も本命チョコを隠したのは一樹で、生徒会メンバーも何処に隠してあるのかは分からない。 体育館でバレンタインイベントの開始を告げ、生徒会メンバーは生徒会室に引き上げた。 「そいや、お前達は誰かにチョコをあげないのか?」 「毎年、兄と琥太にぃにあげてますけど」 が答え、 「昨年は僕たちもお相伴に預かりましたよね」 颯斗が言う。 「あー、まあまあだったな」 「それはどうも」 手作りにしたのだ。形こそ不揃いだったが、味はまあまあ。何せ、市販のチョコを溶かして再び固めただけなので味に不安はない。 「今年も持ってきたから終わったら食べましょう」 暫くして、チョコレートを持ってきた生徒がやってきた。 隠し場所は、保健医の白衣のポケットの中。 颯斗も翼もそこに隠していないと言うので、それが本命チョコで間違いないと一樹が宣言した。 本命チョコが見つかったことを校内放送でアナウンスし、ご褒美の話になる。 「彼は、本気なのでしょうか」 颯斗が呆然と呟いた。 彼は、学内2人きりの女子にビンタをしてもらいたいというのだ。 「あの、会長...」 「ま、まあ。本人が希望してるんだし。害はないだろう?」 そう言ってを見た。 「おい、。念のために聞くが、ビンタとはどうやるものだ?」 彼女は素振りをしていた。 「へ?グーで思い切り殴って吹っ飛ばす、ですよね?姉に教えてもらっているので大丈夫です。体が小さくても体重をかければ何とか吹っ飛ばせるだろうって兄に教えてもらってますし」 にこりと微笑むを数秒見つめた後、一樹は「よし、お前」とご褒美をもらいに来た生徒に向き直った。 「月子だけで良いだろう?」 「え?!」 と月子が同時に声を上げる。 「さすがにけが人を出すわけには行かないだろう。すっかり忘れてたが、は空手の黒帯だろう?」 その話を聞いた生徒は「月子さんだけで」と言いなおした。 「え、何で?上手に出来るって」 が訴えるが、「そもそも、グーって言ってる時点で間違いなんだよ」と溜息混じりに一樹が言う。 「え、そうなの?」 颯斗を見上げると 「ビンタに正式な作法があるとは思えませんが。僕もビンタといえば、パーで、しかも吹っ飛ばす必要性は聞いたことがありません」 と答えた。 知らなかった、と呆然としているとパシンと小気味のいい音が聞こえ、幸せそうに頬を赤くしている生徒は生徒会室を後にした。 「あんなもんで良いの?!」 「あれが普通だ」 「あれくらいだったら、お姉ちゃんがお兄ちゃんの頭をはたいてるレベルなんだけど...いや、それよりも優しいよ」 そうかもね。 皆は心の中で頷き、「さ、のくれると言うチョコでも食おうぜ。それを食ったら、ダミーチョコの回収だ」と一樹が仕切る。 「えー、あんなもんで...」 呟きながらは鞄からチョコレートを取り出し、颯斗が紅茶を淹れてくれる。 「失礼しまーす」 ガラッとドアを開ける。 「どうした、」 きょろきょろと部屋の中を見渡しているを見て「誰もいないぞ」と琥太郎が言う。 「あ、じゃあ。安心して。バレンタインのチョコレート」 「ああ、ありがとう。あと、来年は保健室を巻き込むなと青空に言っておいてくれ」 「あれは一樹会長だから考えついたことでしょう?大丈夫だって。それより、琥太にぃ。ビンタって知ってる?」 「俺は経験ないが、郁なら何度か食らったことがあるらしいぞ」 「パーで、しかも吹っ飛ばす必要がないっていうの知ってた?」 が問うと呆れたように溜息を吐いた。 「夏姉か?あの人のレベルで武力行使に関してものを考えたら大抵非常識だぞ。というか、何でいきなりビンタの話だ?」 が先ほどの話をすると「これまた、変わったヤツがいたな...」と琥太郎は呆れた表情を見せた。 「そうなんだ...」 姉の言っていたことがどうやら非常識だったらしい。 その事実に衝撃を受けつつは保健室を後にしてダミーチョコの回収に向かった。 |
桜風
11.11.11
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