Kaleidoscope 70





引継ぎも終わり、一樹が最後の見回りに行こうと誘ってきた。

生徒会は生徒の安全を守るべく、定期的に見回りを行っている。

いや、仕事に飽きた一樹が突然言いだすときもあったからある意味不定期的と言うべきかもしれない。


発明品を持っていくと言っていた翼を無理やり引きずって出てきた。発明品を持ち出すと言うことは漏れなく爆発事故を起こすということで、有終の美を飾るといっている一樹としては認めるわけにはいかない。

しかし、翼はこっそりと自分の発明品を持ってきていた。

可愛らしいクマの形をしたそれは困った人を見つけてくれるという。

スイッチを入れるとそのクマはたちの周囲からいなくならない。

「つまり、わたしたちが困っている状態にセンサーが正確に反応していると言うことですね」

それだけなら、この発明品は成功だと言うことになる。

しかし、翼が驚きの声を上げてポケットから何かを取り出した。

「ね、それがないとどうなるの?」

「操縦がきかなくなるのだ」

うわーい、やっぱり失敗。

は苦笑した。

案の定、クマは暴走し始めた。

実力行使でそのクマの暴走を止めようとすれば、攻撃をしてくるという。

攻撃オプションって要るのかな...

は首を傾げていたが、「俺の後ろに隠れておけ」と一樹に言われて月子と共に一歩下がった。

結局実力行使で停止させられたクマは爆発した。

「やっぱり、星月学園生徒会はこれがしっくり来るんだけど...」

が呟くと颯斗が盛大に溜息を吐いた。

「そうかもしれませんが...」

目の前では翼と一樹がじゃれている。

一樹が翼に『梅干』をすると、お返しとばかりに翼がプロレス技を仕掛ける。

「仕方ありません、僕も万が一のことを思って用意しておいてよかったです」

そう言って徐に、彼はミニ黒板を取り出した。

さん、月子さん。耳栓の用意は良いですか?」

颯斗に言われて2人は耳栓を装着する。

そんな颯斗の様子に気付いた一樹と翼だったが、時既に遅く、颯斗が黒板に爪を立てて音を鳴らす。

耳を塞いで崩れ落ちる2人を見ては笑う。

「笑い事じゃないんだからな、

唸るように一樹が言うが、「いつもの生徒会だと思って」とが返すと「かもな」と苦笑を返した。

有終の美からは到底遠いものだったが、それが星月学園生徒会で、愛すべき日常だ。

クマの残骸を片付けてまた見回りを再会する。

一樹の歩調がいつもよりも少しだけ遅く感じた。

ゆっくり、自分が過ごした4年間を思い出しているのかもしれない。



翌日の卒業式の準備が整い、あとは本番を迎えるだけとなった。

体育館で準備が終わった確認をしていると「よう」と声をかけてきたのは一樹だった。

少し話をしてその場で別れようとしたが、月子の提案で天体観測会を行うこととなった。

空を見上げて気付く。

もう、すぐそこに春が来ていた。



一樹が呼び、は彼を見上げる。

「お前の心の強さは、これからも生徒会の支えになる。けど、疲れたらちゃんと疲れたといえよ。助けてほしいときはこいつらにちゃんと言え。いいな、無理や無茶はするな。こいつらが心配するだろう?
あと、生徒会ってのは副会長の補佐の力が大きいから、颯斗を助けてこの学園をより良いものにしてくれよ」

そう言っての頭にぽんと手を置いた。

「はい。おそらく、颯斗くんが副会長をしていたときよりは、副会長の気苦労は随分と減ると思います」

「そうか」と笑顔で言った後「ん?」と一樹が首を傾げる。

「それって...」

「颯斗くんが仕事をサボるなんて到底思えませんから」

にこりと微笑んだに「ったく...生意気だな」と一樹は苦笑した。




自分達の大好きな、尊敬する大切な先輩を送り出し、その翌年、たちも大切な後輩たちに送り出された。

颯斗の後任は翼で、彼は1年かけて翼を鍛えた。そして、翼もまた、それに応えようと一生懸命だった。

翼といえばやはり発明で、相変わらず失敗して爆発させていたが、少しずつ成功率は上がったように思える。


卒業式が終わり、は保健室に向かった。

「琥太にぃ」

スーツを着たままの琥太郎が振り返る。そしてその隣には意外な人物がいた。

「あれ、郁ちゃん?」

「久しぶりだね、

にこりと微笑んで傍にやってきた。

「アキにぃが、『暇なら俺の代わりにの卒業式を見て来い』って言うから。入寮準備もあったし、ついでにさ」

肩を竦めて郁が言う。

「あれ?就職先決まってたんだ?」

からかうようにいうと

「僕ほどの優秀な教師が落とされるはずがないでしょう?」

とおどけて返す。

琥太郎を見ると

「ノーコメントだ」

と返された。

「えー、ちょっと。琥太にぃ。それはないでしょう」

「ノーコメントだ」

笑いながら琥太郎は繰り返す。

「星月先生、3年間、お世話になりました」

は深く頭を下げた。

「ああ、は良く頑張ったな」

顔を上げたの頭を優しく撫でる。

携帯が鳴って出てみると月子からで、探していると言う。

もう少し話していたかったが、琥太郎を見上げると「行きなさい」と言われた。

「はい。じゃあ、また。郁ちゃんも。また遊びに来るから」

「ちゃんと手土産を持ってきてね」

「郁ちゃん、持ってこなかったじゃない」

はそう言って笑い、保健室を後にした。

「寂しいもんだな...」

ポツリと呟く琥太郎に、「だから余計に、でしょう?」と郁は苦笑した。









桜風
11.11.11


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