Kaleidoscope 71





たちが卒業して4年が経った。

もうそんなに経ったのか、と理事長室を出て体育館に向かう琥太郎はふと思い出に浸る。

賑やかな日々だった。

その後の学園も生徒会の受け継いだお祭り騒ぎの精神で勿論盛り上がったが、あのときほどの盛り上がりではない気もする。



入学式の会場はそのまま始業式の会場となる。

「緊張するね」

今年度採用の月子はこそっと隣に立つ同じく新米教師に声をかけた。

「うん」と笑みを含んだ声が返ってくる。

懐かしい、という気持ちがあるのだろう。自分だってそうだ。

月子は顔を上げた。

壇上では理事長の星月琥太郎が挨拶をしている。


「じゃあ、お待ちかねの担当教師の発表だ。その前に、今年は2名の教師の新任があるからそっちの紹介からな」

司会をしている陽日は砕けた調子で、そしてどこか誇らしげだった。

壇上から琥太郎が見下ろす。

2人ともこの学校の卒業生で、保健係を勤めてくれた。

「まずは、天文科に夜久月子先生」

名前を呼ばれて壇上に向かう。緊張のあまり階段を踏み外しそうになった月子に皆がどよめいた。

「で、もうひとり。神話科に先生だ」

「はい」と返事をしたは階段を踏み外すことなく壇上に上がる。

此処からの眺めも懐かしい。

在学中、生徒会役員だったは此処に立って一樹や颯斗の背中越しにこの光景を見ていた。

「じゃあ、代表して夜久先生から挨拶な」

司会ってこんなに砕けてるものだっけ??

は小さく首を傾げた。

の表情から何を考えているか分かった琥太郎は苦笑した。相変わらずだ。






が星月学園を卒業してから彼女自身もそのまま星月の家で過ごすことがなくなったので随分と接点は減った。

彼女がどこの大学のどの学部に通っているか知っていたし、偶に食事に行ったりしていたので近況を聞く機会もあった。

しかし、彼女の就職先についてまでは聞かなかった。

なぜなら、彼女の姉と兄に何度も釘を刺されたからだ。

曰く、「この先一生ずっと甘やかし続けることは出来ないんだから、簡単に手を差し伸べるな」とのこと。

なるほど、と納得した。

相談があれば親身になって聞く気でいたが、結局彼女が大学4年になっても相談が無かったのできっと自分で何とかしたのだろう、と多少の寂しさを感じつつも安心した。

そして、星月学園の採用試験の面接の日。

理事長である自分もその席に同席することになっていた。

書類に目を通す時間が無かったので、事前情報は全く無かった。

しかし、面接というのだからそれでいいだろうと思っていた。書類と筆記は既に担当が審査しているのだから...

面接は2日に渡った。

1日目に月子に会い、懐かしさを感じつつも随分としっかりしたなと感心した。

翌日の面接の最後の人物となった。

「疲れただろう、琥太郎先生」

「俺は今は理事長として座ってる」

声をかけてきた陽日に返すと「あとひとりだし、終わったら飲もうな」と陽日がいう。

そして、陽日が書類を捲って「え?!」と声を漏らした。

どうしたのだろう、と思って書類を捲ろうとしたらドアがノックされた。

最後の受験者だ。

「どうぞ」と言いつつ書類を捲る。

ドアから入ってきた人物に琥太郎は固まった。

彼女は受験番号と名を名乗る。

です」

開いた口がふさがらなかった。

「理事長、口が開きっぱなしです」

あろうことか、が指摘する。

「お前のせいだろうが」と言いたかったが、その言葉はグッと飲んだ。

その代わり、少し厳しく面接を執り行う。

しかし、はそれを難なくクリアしていく。誰も彼女の採用を反対できないくらいに完璧に。

あの姉と兄を見て育ったんだ、『さすが』と言うところである。

そして、面接が終わり、保健室に戻るとスーツ姿のが居た。

「帰ってなかったのか...」

「せっかくだから星を見て帰りたいの。郁ちゃんに書類提出して許可してもらった」

「郁もお前に甘いからな」

苦笑して琥太郎はぼやく。

「というか、もしかしてアキや夏姉が俺にお前の就職について聞くなって言ったのはお前の仕業か?」

「ううん。2人に教えないって言ったからだと思う。琥太にぃが知ってて自分たちが知らないってのが気に入らないんでしょう」

笑って言うに「そこは計算済みだろう」と指摘すると「さてさて」ととぼけた。

「ま、身内びいきナシで、寧ろ厳しく見てよ。郁ちゃんに色々言われるのは癪だから」

の言葉に「わかってる」と琥太郎は頷く。

「コーヒー、要る?」

「ああ、もらおう」

勝手知りたる保健室。

は昔のようにコーヒーを淹れて琥太郎に出す。

「夜久は昨日だったぞ」

「つっこちゃんもここ受けるって話はしてたからね。そうなんだ..こりゃ難関だね。姉妹校とか作らないの?」

「今のところそこまで手を広げる予定は無いな。...あー、のコーヒーを飲んでたら夜久のマズイ茶が懐かしくなったぞ」

苦笑しながら琥太郎が言う。

「もう『美味しい』になってるかもよ?」

「それは寂しいな」

その後、日が沈んだ頃を見計らって郁と陽日を誘って屋上庭園に行き、星空を眺めた。









桜風
11.11.18


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