Kaleidoscope 72





「じゃあ、代表して夜久先生から挨拶な」

月子がマイクの間に立つとピーとハウリングを起こす。

調節して月子が挨拶を始めた。

しかし、緊張のあまり段々パニックを起こしている。

暗唱できるくらい覚えたが、念のために目の前に原稿を置いていた。

しかし、記憶が飛んでしまいしかも今どこを言ったのか分からなくなったようだ。

が琥太郎を見た。

琥太郎は小さく頷く。手を貸してあげなさい、と。


は壇上中央の月子の傍に行き、マイクを手に取った。

またしても耳に痛いハウリング。

「皆さん、おはよう。
わたしと夜久先生はこの学校の卒業生で、今でも伝説になっているらしい、最初の女子生徒。つまりは、星が大好きな変人だったのよね。
そして、わたちたちに負けず劣らずの星好き変人があなた達よ。
みんな星に導かれてこの学園に集った仲間で、ライバル。
陽日先生じゃないけど、一度しかないこの時間を悔いなく過ごしてちょうだい。わたしも、夜久先生も学園に在籍していたとき、そうやって過ごした。
そして、今度は教師としてもそうやって過ごすつもり。
ああ、言い忘れていたけど。わたしは、空手で黒帯持ってるから。このけん制の意味は各自で考えること。そして、夜久先生には頼もしくて怒らすと怖い幼馴染がいるから。ついでに言えばあなた達の先輩ね。そこらへんもちゃんと各自で咀嚼して理解すること。
これから、よろしく。以上」

どういう挨拶だ...

思わず琥太郎は額に手を当てた。

体育館脇に並んでいる教師達は呆気に取られていた。唯ひとり、郁だけは肩を震わせて爆笑するのを堪えている。

。どう考えても、目指すベクトル間違ったよ...」

多少ソフトだがどう考えてもこれは夏凛に向かっているベクトルだ。

生徒達も呆気に取られていた。

月子はを見る。

は陽日を見た。

「あ、ああ。えーと、新任の挨拶はこれで終了だ」

司会の続きを始める。



始業式が終わって職員室に向かう。

ちゃん、ごめんね」

「何が?」

「私、パニックになっちゃって」

しゅんとして言う月子には苦笑した。

「経験の差。わたしはあの壇上で結構話をしてたし。颯斗くんが会長で、わたしが副会長で。副会長は司会進行役だったからね。つっこちゃんは、卒業式の挨拶くらいだったでしょう?慣れてないとやっぱり緊張の度合いは違うって。気にしない、気にしない」

の言葉にしゅんとしたまま職員室のドアを開けた。

、最高!」

親指を立てて郁が声をかけてきた。

は、「光栄です」とパンツスーツであるにも拘らずスカートの裾を摘むような仕草をして軽く会釈をした。

「けど、夏姉みたいになると後々苦労すると思うよー」

クツクツと笑いながら郁が言う。

「わたしの知っている『強い人』のお手本なので」

の言葉に琥太郎は溜息を吐いた。あれは、強すぎだ...

改めて職員の朝礼のようなものがあり、そのまま担任副担任が揃って職員室を出て行く。

も、1年神話科の副担任として職員室を後にした。



放課後になり、郁とは生徒会室に向かう。

は生徒会顧問の補佐という立場になった。生徒会顧問がイベント面倒くさがりの郁である。

ちなみに、月子は弓道部の副顧問だ。顧問は勿論引き続きで陽日だ。

「生徒会って言っても、がいたときみたいな盛り上がりはないよ。寧ろ、僕が居たときと同じレベルだと思うな」

「一樹会長がイベント好きだったから...けど、琥太にぃはそれなりに盛り上がっているって言ってたよ。
しかし、郁ちゃんがこういう面倒なこと、引き受けてるとは思ってなかったなー」

「水嶋先生、でしょう?」

「大変失礼致しました、水嶋先生」

大仰にが無礼を詫びる。

郁は肩を竦めて「ま、琥太にぃの手伝いの一環だよ」とぶっきらぼうに返した。

どうやら照れているようである。

「ふふふ」と笑うに郁は「何を笑ってんの」と指摘して拗ねたように少し歩調を速める。

「ちょっと、郁ちゃん速い!」

が小さいんだろう」

「何で『小さい』って言葉がここで出てくるのー!」

競歩状態の郁に、駆け足状態のは生徒会室に向かいながら子供のような口喧嘩をする。





飽きることなく星空を眺める彼女達は星に導かれてこの学園に集い旅立っていく。

戻ってくる者、二度とこの学園に足を踏み入れることのない者、未来は様々だが空は何処までも繋がっていて、見上げる星は相変わらずそこにある。

変わっていく人の世を見守るように、今日も変わらず星は瞬いていた。









桜風
11.11.18


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