Kaleidoscope 54





生徒会室の電気がついていた。

忘れ物をして致し方なく学校に戻ってきた一樹は不思議に思って生徒会室に向かった。

今の時期は確かに忙しい。しかし、それでも生徒会活動のない日はあるし、今日がそれである。

「おーい、誰が残ってんだ?」

声を掛けながらドアを開けると誰の姿もない。

「ったく、誰だ?消灯と施錠を忘れたやつは。翼か...?」

そう思いながら入り口の電気を消そうと手をかけてふと机の上の通学鞄が目に入った。

「ん?」

ちょっと席を外しているだけなのかなと思った。

だったら、少し待っててやって一緒に帰るか...

そう思ってお気に入りのソファで寝ながら待とうと思ったらそこにこそ先客が居た。

一樹は思わず脱力する。

「ホント、無防備すぎだろう...」

体が小さい上に、丸まっていたので入り口からはその姿を確認できなかったが、がくうくうと寝ていた。

「ったく...」

ただ、とても平和そのものな寝顔をしているので起こすのは忍びない。

仕方ないので、が起きるのを待つことにした。


そっとの顔を覗きこむ。

顔にかかった前髪をそっと掻きあげてやって驚いた。

「風邪でも引いてるのか...?」

熱があるようで、熱い。

しかし、本人は全く苦しそうでもないし。

そっと頬に手を当てるとくすぐったそうに肩を竦めて表情を緩める。

あどけない表情。

あまりにも無防備で、だから思わず...

「......、あ」

一樹は自己嫌悪に陥った。

そりゃないだろう。

何となく曖昧にしていた自分の気持ちを自分で気付かされて心から途方にくれた。

「これって、ある意味寝こみを襲ったってことになるのか?」

更なる自己嫌悪。

不意に目の前のが何かを呟いたようだった。寝言かと思ったが、

「うわぁ!」

「わぁ!!」

が驚きの声を上げて、ガバッと体を起こし、一樹はの声に驚いて思わず体を仰け反り尻餅をつく。

「か、一樹会長?」

呆然とが呟き、「ビックリしたじゃないか」と一樹が訴える。

「あれ?なんで??」

、寝ぼけてるのか?ここは生徒会室で、もう食堂が閉まってる時間だぞ」

「え?!あ..食べ損ねた...」

おなかを押さえては呟く。

一樹は思わず噴出した。

「何か買い置きしてないのか?」

「ないので、星月先生にたかろうと思います」

真顔でが言う。

「なら、早いほうが良いだろう。ほら、帰るぞ」

を促し、一樹が立ち上がる。

もソファから降りて制服の皺を伸ばす。

「何か急ぎの仕事があったのか?」

「はい。けど、終わりました。明日、颯斗くんに確認してもらいます」

そんなもんあったかな?

一応、全体の仕事は把握している。それなのに、がこんなに急いですることってあっただろうか。


鞄を持ってコートを着る。

入り口での支度が待つ一樹を見ながら、少し冷静になる時間を稼いだ。

夢で見た人物が目の前に居たのだ。

いつの間にか大きくなったその気持ちに静かに蓋をする。

何かを欲しいということをしなくなった。出来なくなった。

失うことを知り、それは簡単だと思い知らされたから。

大切なものはそこにあるだけで良いのだ。手を伸ばせば消えてなくなる。それは掌で受け止めた雪のように。









桜風
11.11.25


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