Kaleidoscope 64





ぱちりと目が覚めた。

は深く息を吐きそっと布団から出て行く。

?」

驚いて振り返ると半分体を起こした一樹が心配そうに見ていた。

「...お手洗いです」

「んじゃ、ついてってやる」

そう言って体を起こす。

「いいですよ、子供じゃないし」

「お前に何かあったら俺が大変な目に遭う」

キッパリといわれ、大変な目に遭わせそうな人たちの顔が浮かんだ。


本当はトイレに行きたいとは思わない。

ただ、もう寝たくないのだ。

部屋の外に出てもいいように嘘を吐いたのに...

トイレの少し手前で一樹は立ち止まり、「ほれ、行ってこい」と言った。

トイレの目の前で待とうとしない辺り、さすがだなと思う。

仕方がないのでトイレを済ませて出てきた。

部屋に帰って寝たふりをして、今度こそそっと抜け出そう。

そう思っていたが「いいぞ、付き合う」と一樹が言う。

「え?」

きょとんと見上げると「寝たくないんだろう?」と言われて驚いた。

「何で?」

「違ったか?」

一樹の言葉には首を横に振った。

「んじゃ、まあ。時間を潰すなら星を見てるのが一番だな」

そう言っての手を引き、屋上庭園へと向かった。


「うおっ!さっみぃなー...」

「コート、着てくるの忘れましたね」

白い息を吐きながら会話をする。

一樹の顔を見上げると鼻の頭が赤くて目が潤んでいる。

大丈夫かな...

元々トイレと嘘を吐いたので、コートなんて着てくることはなかった。

しかし、付き合ってもらってるのに風邪を引かせてしまうのは忍びない。自分が我慢すれば大丈夫と思ってやっぱり戻ろうといおうと思った。

しかし、

「あー、けど。こうしてりゃ多少は...」

と言って一樹がを後ろから抱きすくめる。

「おー、少しはマシになったかな?」

「あの、一樹会長?」

「ん?ああ、けど寝てるときの方が体温高いんだっけか。このまま寝るか?」

そう言ってと共にその場にぺたんと座った。直に座るとお尻が冷たいはずなのだが、は一樹の膝の上に座らされたので冷たくない。

「...眠れません」

いつもの少し拗ねた口調とは違うのそれに少し困惑しつつ「そっか」と返して空を見上げる。

「怖い夢でも見たのか?」

ぽつりと言うとはコクリと頷いた。

「そっか。けど良かったな」

怖い夢を見たのに、なぜ『良かった』というのだろうか。

「だって、今晩見た夢は初夢じゃないから正夢にならないもんな」

一樹の言葉になるほどと納得した。しかし、

「絶対に正夢になりませんから」

は返した。


が見た夢は両親が亡くなったときの、自分の記憶だ。

親戚が親の持ち物を自分達の財産として勝手に分け、は遺産が入るから誰が引き取るかと取り合いになった。

ではなく、親が残した金だけが彼らの目的だった。

の思い出の品は容赦なく捨てられ、それを阻もうとしたら打たれた。

幼い頃の記憶。

もう二度と同じ事は起きない。両親が再び亡くなることはないだろうし、今度こそ姉や兄が居る。

の言葉で一樹も彼女が見た夢が何かを察した。

夏に一度だけ見た彼女の境遇。

星月家にすぐに引き取られたと聞いたが、それまでに、星月がやってくるまでにおそらくは傷つけられていたのだろう。

一樹も似たような経験はある。

ただし、自分の場合は引き取ってくれた叔父夫婦こそ優しく、自分をわが子のように愛してくれていた。それでも、一樹自身が両親が亡くなったのは自分が原因だと責めた時期があった。

周囲は違うと言うが、それは自分が納得できなければ意味のない言葉だ。

そして、は間違いなく自分の言葉が両親の事故を招いたものだと信じている。

原因と結果を考えたら全くの無関係だとはいえないだろう。

そうやって納得することは出来ない。それは良く分かる。

知らず、を抱きしめる腕に力が籠もった。









桜風
12.2.3


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