Kaleidoscope 65





はなんで星空に興味を持ったんだ?」

不意に聞かれた。

以前、生徒会で流星群の観測会をしたときそんな話になった。

しかし、はそのときは寝たふりをした。答えたくなかったから。

「お前、狸寝入りしてただろう?」

「何のことですか?」

「寝てるとき、体温が上がるんだろう?」

こういうとき、この体質がちょっと嫌になる。


「...育った環境のせいですね」

暫くの沈黙の後に簡潔に言う。

「ああ、星月先生の家で育ったからってことか?」

「星月のおじさんの家においてもらって、兄が星月学園に進学していましたし、一緒に遊んでくれていた郁ちゃんとかも星空が好きだったので」

が沈んだ口調で言った。

「だから、お前も好きになったんだろう?」

不思議そうに一樹が言う。

しかし、は首を横に振った。

「好きなフリをしていました」

「好きなフリ?本当は好きじゃなかったのか?」

「どちらでもない、が正解です。別に見るのは嫌いじゃなかったけど、好きにならなきゃいけないって言う強迫観念もありましたし。
わたし、凄くいやな子供でしたから」

「そうか」と一樹は相槌を打ってこの話を終わりにしようとした。

「今のわたし、作り物です」

「...作り物?」

続けるべきか、打ち切るべきか悩んだが吐き出したほうが楽になることもある。

一樹はの話に付き合うことにした。

「はい。わたし、大人に好かれるのは得意です。相手がどんな子を求めているかそれを感じ取って、その距離を保って接してきました。星月家の中で外せなかったのが『星を好きでいること』だったんです。
あの家を出るにしても、たぶん星月学園以外の学校だったらおじさんたちも凄く気にしただろうし。おそらくここが一番お互いの譲歩としてギリギリの場所だったんです」

星は楽しむためのものではなく、道具だった。

星月家で要らない子になったらあの親戚達の中に戻らなくてはならない。

少なくとも、星月家は自分を打たない。『金』ではなく『子供』として扱ってもらえる。

ここを追い出されたら自分は消えてなくなる。

そこまで複雑なことは思っていなかっただろうが、それでも可愛がってもらうために必死だった。

兄が星に関するスペシャリストを育てる、自分を置いてくれている家が経営している学校に通っていると聞いて一生懸命星を知ろうとした。

そうは言っても子供に出来ることといえば星座にちなんだ本を読むとか、子供向けの『春の星座』というような簡単な図鑑のようなものを眺めるしかなかった。

けれど、周囲は大人ばかりで忙しいだろうから頼ってはいけない。大人の負担になってはいけない。

本を読んでいたら琥太郎やその母親が声を掛けてきた。「読んであげよう」と言ってくれた。

けれど断った。自分が本を読んでもらってこの人たちに迷惑を掛けてはいけない。

「わからないところがあったときにおしえてください」

そう答えたことがある。我ながら可愛くなかった。

それが最善だと思っていたが、逆だ。

しかし、お陰で読み書きを覚えるのはクラスメイトに比べて早いほうだった。難しい字でも教えてもらったら忘れないようにして。

兄が偶に帰省してきたときには自分が一生懸命覚えた神話の話をして見せた。

兄は、自分の事が嫌いだった。

おそらく邪魔だったのだろう。兄は沢山の事ができた。それなのに、自分は出来ないことだらけだ。

だから、できることを増やして兄が面倒くさがっている自分の短所を少しずつ克服していった。

けれど、自分のこの姿を指摘して怒ってくれた人が居た。

郁の双子の姉の有李だった。

皆が『かわいそうだから』と言って作り物の自分を許してくれる中、有李だけはそれを許さなかった。

あのまま育っていたら自分はどうなっていただろう。

ふと思うときがある。もっと嫌な人間になっていただろう。

周囲の大人に媚びて、自我と言うものを全て封じただビクビクと怯えるだけのつまらない人間。

今でもやっぱり嫌われるのが怖くて人と距離をとってしまうが、それでも『自分』と言えるものは多少は持っている...と、思う。



「今でも、『フリ』か?」

物思いに耽っていると不意に背後から声がした。

「今ですか?」

「きっかけなんて人それぞれだ。けど、過去はともかく今はどうだ?」

促されて空を見上げた。

「今は..好きだと思います」

翼にもらった星はちゃんと胸の中で輝いている。

「なら、いい」

一樹の声音が優しく、思わずは泣きそうになった。









桜風
12.2.10


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