Kaleidoscope 67





楽しかったな...

夜、寝る前の日課である読書をしながら皆で宿直をしたことをふと思い出した。

昨晩から宿直の先生が戻ってきたので、一樹と月子は学校が始まるまでまだ少しあるため実家に帰っていった。

正月の夕飯も鍋で、一樹が不知火家の鍋の心得を何か言っていたが皆気にせずに食べたい具材をどんどん鍋に入れて結局最後まで鍋の心得を聞くことが出来なかった。

星月家も、家もそういうの全く気にしない。

どちらの家でも母親が「火の通りにくいものから入れるのよ」というのは確か言っていた気がするが、結局一緒くたに煮るんだからと食卓に置いた途端皆が食べたいものを入れていた。


ふと携帯が鳴ったのでは手を伸ばす。

発信者の名前に驚き、通話ボタンを押した。

「もしもし」

『おう、いい子に留守番してるか?』

「子供じゃないですよ、一樹先輩」

兄と姉からは先ほど電話があったから今度は星月の家のほうかなと思ったが意外なことに一樹だった。

「どうしましたか?」

が寂しがってないかと思ってな』

そんなことを言われて苦笑した。

今、楽しかったことを思い出したから寂しくなってきたところだ。

「寂しいですね」

がさらっと言う。

『あー...やっぱ、はとーちゃんがいないと寂しいか』

笑いながら一樹が言う。

「どうでしょう?つっこちゃんがいないから寂しいだけかもしれませんよ?」

『ったく、素直じゃないな』

苦笑しながら一樹が言う。

は、仕方ないなぁ、といった感じに笑う一樹の声が好きだ。

だから、いつも少し生意気を言う。

『寂しかったらいつでも電話してきても良いんだぞ?』

「せっかくの団欒を。大丈夫です、後数日もすれば嫌でも一樹会長の顔を見ることになります」

が言うと

『素直じゃないな、は』

と笑われた。

「ご家族の方は元気でしたか?」

に話を振られて一樹が答える。そんなに長い時間ではなかったが優しい時間をもらった気がした。



パチンと携帯を閉じた一樹はふと窓の外を見上げた。

満月が輝いている。

この先、何度一緒に星空を眺めることが出来るだろうか...

ぼすん、とベッドに寝転んだ。

「寂しいですね」と言ったの言葉が頭から離れない。

「まったく...」

呆れて苦笑した一樹は体を起こし、部屋を出た。

ギリギリまで実家で過ごそうと思っていたが、明後日にでも戻ろうと決めたのだ。

「寂しい」と言われてしまったら傍に居たくなる。

本当に、しょうがないものだな。恋というやつは...




生徒会室で書類仕事をしていた。

課題は早々に済ませたし、生徒会の仕事は3学期も忙しい。

生徒会長選挙に、卒業式。忘れてはいけないのがバレンタインイベント。

今のうちに片付けられるものは片付けてしまおうと思ったのだ。

「生徒会長選挙..か...」

昨年も一応そんなイベントはあった。だが、一樹の絶対的なカリスマ性に太刀打ちできないと思ったのか、誰も立候補者がなく信任投票だけで終わった。

今年はそうは行かない。

一樹が卒業する。

一樹は今年度に入って少しずつ後輩たちにそれを自覚させてきていた。

そして、最も自覚してほしい人はおそらく颯斗だ。彼に自分の後を継いでほしいと考えているに違いない。

一樹の颯斗に対する期待は傍に居れば伝わってくる。

「...寂しいな」

ポツリと俯いて呟いた。

ガラッとドアが開き、は慌てて顔を上げて驚いた。

「一樹会長?!」

颯斗か翼だと思っていた。2人とも居残り組だし。宿直以降顔を合わせていないが、そろそろ顔を出すのではないかと思っていたのだが...

「どうしたんですか?新学期までまだ日がありますよ?カレンダー確認しました?」

が寂しがってるんじゃないかと思ってな」

部屋に入ってきた一樹が悪戯っぽく笑って言う。

思わずは絶句した。今そう呟いたところだ。

暫く沈黙をしてしまい、は慌てて「つっこちゃんがいなくて寂しいです」と言う。笑い飛ばすタイミングを外してしまった。

「ホント、素直じゃないな」

そう言って一樹はの頭を撫でる。

「ただいま、

「おかえりなさい」

笑顔のを見た一樹は、早く戻ってきてよかったとそっと微笑んだ。









桜風
12.2.24


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