| ガラリとドアが開いて「久しぶりだな」と退院した一樹が入ってきた。 生徒会室にはだけだった。 颯斗は音楽部の顧問に呼び出されており、月子は部活。翼はホームルームが長引いているのかまだ来ていない。 は立ちあがり、一樹に向かって駆け出そうとして踏みとどまった。 「一樹会長、申し訳ありませんでした」 深々と頭を下げるに一樹は顔を歪ませた。 本当だ、と思った。 病院に運ばれて目を覚ましたとき、知らない天井だった。 「気がついたか」と声を掛けてきたのは琥太郎で、「星月先生?」と状況の説明を求めた。 どうやら、生徒会室に行ったは良いが脳震盪を起こしていたため倒れたらしい。 「のやつは?」 どこか遠くで『ごめんなさい』という言葉が聞こえた気がした。 「泣いていたよ」 寂しげに琥太郎が答える。 「青空に連絡を入れることになっている。お前の後輩達が心配しているからな」 「じゃあ、に伝言を頼めますか」 そう言った一樹に琥太郎は頷き、『泣くな、ばーか』という伝言を預かった。 電話を終えて戻ってきた琥太郎は椅子を引いて一樹のベッドの脇に座る。 一樹の実家に連絡を入れているので、保護者待ちをしている彼の担任はロビーにいる。 「不知火」 どこかつらそうな声音で名前を呼ばれた一樹は、何かあると構えた。 「もしかしたら、にはもう声が届かないかもしれない。覚悟しておけよ」 「どういう意味ですか?」 「の両親が亡くなったことは話したよな。その原因も」 「はい」 目の前の琥太郎から彼女が生徒会執行部に入った日に聞いた。 「あいつは、自分が原因で他人が傷つくのを極端に恐れている。それが怖くて人との距離を測って接していたんだ。うちに来たときからそうだった。 けど、そのときウチに遊びに来ていた女の子がを救ってくれた。そして、その子にはもう会えない。 学園に入学したは人との距離を測ることはしつつもそれなりに付き合い方を覚えていた。けれど、不知火。お前のお陰であいつはいろんな人との付き合いを覚えたんだ」 「俺ですか?」 聞き返す一樹に琥太郎は頷く。 「お前は、が距離を置こうとするタイミングでその前に距離を詰めていたからな。無意識だろう。けど、そのお陰であいつの人との間の距離感が随分と狂った。喜ばしいことにな」 全く自覚のないことを指摘されて一樹は少なからず困惑する。 「けど、たぶん今回のことで徹底的に距離をとるだろう。お前が今までどおりの関係を望んでもはそれを良しとしない。自分のせいでお前が傷ついたからな」 「そんなの、のせいじゃないですよ」 「俺もそう思う。これは、事故だ。事故というのは偶然で、仕方のないことだ。そして、の両親も事故で仕方のないことだ。けど、あいつはそう教えてもらえなかった。事故の直後にの親戚に散々お前のせいだと言われたらしい。ウチに来たときに俺達が違うといっても、もうにはその言葉は受け入れてもらえなかった」 つまり今回も同じようなことになると言いたいのだろうか。 「俺が何とか出来れば良いんだが、無理だろう」 悟ったように琥太郎が言う。「すまないな」と。 「、気にするなよ。事故じゃないか」 「わたしがあそこで遠回りをしなかったのがいけないんです」 はこんな声だっただろうか。こんな、硬くて人を拒絶するような声で話をする子だっただろうか。 沈黙が空気を重くする。 「遅くなりました」と入ってきた颯斗が室内にいる一樹の姿を見て嬉しそうに微笑んだ。 「一樹会長!」 「ああ、颯斗...」 何とかしたい。何とかしなければ... しかし、どうして良いか分からず、それがもどかしくて一樹はぎゅっと拳を握った。 |
桜風
12.3.23
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