Kaleidoscope 72





夜中、携帯のバイブに気付いて目が覚める。

知らない番号だったが、先ほど夢で見た。

「もしもし」と出ると『オレを夢にまで見たか』とからかい口調の晴秋だった。

のことをどうにかしたいと思った。だが、自分だけでは出来ない。

そして、琥太郎も自分は無理だと言った。

そんなときに浮かんだのが晴秋だった。

星詠みの力なのか、それともそうではない純粋な勘なのか。今はどちらでも良い。

琥太郎に頼んで晴秋の番号を聞こうとしたら「アイツの勤務形態は不規則だしな。お前の番号に電話するようにメールを入れておこう」と請け負ってくれた。

それが2日前。

そして、今彼から掛かって来たのだ。

「すみません、お忙しいのに」

『いや、こっちも夜中に悪かったな。琥太からこっちに掛けるようにメールが入ってたが。どうした?』

少し躊躇ったもののここで話を切り出さなければ意味がないと首を振る。

「近々、お会いして..相談したいことがあるんですけど」

暫しの沈黙の後に『今、3年は授業ないよな?』と確認された。

「はい」

『出席日数とか、平気だな?』

「はい」

『じゃあ、明日..ああ、もう今日か。今日の午後どうだ?こっちに来てもらうことになるが』

と言われた。

「分かりました」

時間と場所を指定した晴秋に「では」というと『あのさ』と声を掛けられた。

「はい」

『オレ、お前を殴ることになるか?』

問われた一樹は少し沈黙し、「わかりません」と返した。

『わかった』

そう返した晴秋が通話を切り、耳にはツーツーという電子音だけが残った。



学校を休んで晴秋に会いに行った。

何か手土産でも要るかなと思ったが、晴秋は逆にそういうのを嫌いそうだと思って辞めた。

指定された駅の南口に行くと晴秋が立っていた。

あれだけ背が高いのだ、良く目立つ。

見ると女性と一緒に居た。どうしよう、声をかけて良いのだろうか。

「ああ、不知火」

躊躇っていると自分を見つけた晴秋が女性に何かを言って、こちらにやってくる。

「良いんですか?」

「お前が遅いから逆ナンだ」

彼は不機嫌にそう返し「なんか食いたいもんあるか」と聞いてきた。

「いえ」と返した一樹に「ファミレスが無難だな」と返して駅前のファミレスに向かった。


「んで?」

注文した品がそれぞれの前に置かれてから晴秋が話を促した。

一樹は先日の自分が倒れて以降の話をした。の様子も。

「ふーん」と何気ない様子で返す晴秋の眸に動揺が見え隠れしている。

「で?」と返されて、一樹は俯いた。

「お前、オレに何を期待してるの。オレは、琥太以上に役立たずだからな、そういった件に関しては」

そう言って晴秋は自分の話を始める。

「オレは、から逃げたことがあるんだ」

から、晴秋さんが?」

「というか、オレがを可愛いって思い始めたのって高3くらいのときで、それまで邪魔だったからな」

と思いがけない言葉を聞いた。

「年が離れてるとさ、下に合わせて何かするってのが面倒なんだよ。それに、親が死んだのって、の言葉が原因だろう?」

「それは!」と一樹は反論しそうになったが晴秋はそれを手で制した。

「知ってる。それは違う。けど、16のガキだったオレはそう思えなかった。誰かを悪者にして自分の気持ちのバランスを取ってた。星月のおじさんは、オレが逃げる..気持ちを整理する時間をくれた。琥太もな。
オレが生徒会長始めたのは家に帰りたくなかったから。家に帰ったら現実が待っている。実家に帰れず星月の家に帰ること。星月の家に帰ったらちっこいガキが一生懸命オレに好かれようと必死になってる。ロクに読めもしない神話の本を手にして読もうとしている姿を見せつけられるんだ。オレはこいつのせいで、って思ってるのに。
だから、生徒会長になってイベントをガシガシ作ってバンバン実行した。部活も最初は入る気がなかったのに、家に帰りたくないから5月くらいからかな?入った。あの学園で一番スポ根している部活、弓道部。合宿が必ず組まれてたしな。けど、それじゃ足りないからもっとスポ根にした。
オレにとって星月学園って確かに充実した青春の場所だったが、結局逃げ場だったんだ」

まさか晴秋がそんな過去を持っていたとは思わなかった一樹は言葉が出なかった。

「どうして、晴秋さんはのことを可愛いと思ったんですか?」

「オレが大人になったってのと、あいつを変えてくれた子がいるから」

「星月先生も仰ってました。今はもう会えないって」

「死んだからな」

軽く言われて一樹は息を飲む。

そして、ふと思い出した。の従姉とかいう女がもう一人は亡くしていると言っていた。

「怖い顔してるぞ」

指摘されてはっとなる。

「あのバカ女が何か言ったんだろう?」

一樹の思い出した彼女と今晴秋が言った『バカ女』が同じ人物か分からず「夏休みの」と言うと「それだ」と晴秋が言う。

「あのときのと琥太の表情を見たら何となく分かったよ」

吐き捨てるように言った。

「...気が付いたんだよ。はまだガキなのに、大人の顔色を覗って生きていかなきゃならないって察してあんな可愛げのないガキだったんだって。そして、そうさせてたのはやっぱりガキのオレだったって。
5つ下の女の子が、を変えてくれたから気付けたことだけどな。
オレは約2年半、の心を傷つけてきたからその分アイツを守ってやるって決めただけ。そう思ったら途端に可愛いぞ?健気というか...姉ちゃんも似たようなもんだったらしいけどな」

アレだけ溺愛しているのには、それぞれの過去があるということのようだ。思いがけない話を聞いて、一樹はの過去を想った。









桜風
12.3.30


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