| 晴秋の語った過去に、一樹は暫し言葉をなくした。 「お前さ、が怖いだろう」 不意にそういわれて一樹は顔を上げる。 「そんなこと!」 思わず立ち上がって反論しようとする一樹に晴秋は苦笑した。 「責めてるわけじゃない。オレも、怖い」 一樹は驚く。 「まあ、座れ」と促されて自分が感情的になって立ち上がったことを思い出した。 「本当はな、それが普通なんだ」 晴秋の言葉に「は?」と一樹は声を漏らした。 「このフロアに居る人の中でどれだけが未来が見える?普通のヤツは見れないんだよ、オレ達が異常なの」 何が言いたいのか分からず、一樹は静かに聴くことにした。 「だから、だけはオレ達にとっての『異常』だけど、世間の『正常』なんだ。オレの父親は母親の未来が見えなくて不確かなものだったけど、それでも愛して結ばれて家庭を築いた。 自分達にもし何かあったらいけないからって、色々と手回しをしてくれていた。未来なんて見えていなかったのに、だ。見えなくても、充分なんだよ。 みんなそうだよ。未来が見えない不確かなものでも誰かを愛して、その人を守ろうと心に決め、その人に誓い共にこれから起こるいくつもの困難を乗り超えようとするんだ。 その点、オレ達はちょっと先が見えるからズルだよな。そして、その分臆病だ。未来が見えないなら、現在を見ればいい。現在が未来へ繋がっていく一番近い場所だからな」 晴秋の言葉は背中を押してくれるもので、一樹は少々戸惑った。 「あの、背中を押してもらってるみたいなんですけど」 堂々と戸惑う一樹に晴秋は笑った。 「ははは。そう思うなら突っ走れ。何か罠があると思うなら慎重に足を止めて考えろ。オレはお前を試しているのかもしれないな」 口調はからかっているが、眸が全く揺るぎない。 「俺は、が好きです」 「本人に言え、バカ」 先に兄貴に告白するとは何事だ、と眉間に皺を寄せて言われた。 「すみません、俺帰ります」 そう言って財布を取り出すと「後輩を奢れる程度には甲斐性あるぞ」と晴秋が言う。 逡巡の後に「ごちそうになりました」と言って一樹は店を飛び出した。 「...いやぁ、オレも大人になったな」 呟いた晴秋は携帯を取り出した。 『珍しいな』と電話に出た瞬間に言われた。 『に何かあるのか?』 「オレはに何か無いと電話しない薄情者か?」 苦笑交じりに返すと『大抵はそうだろう』と言われた。 「一樹に会った」 『一樹?ああ、不知火か。生徒をサボらせるなよ』 呆れた声で琥太郎が返し「どうせ3年は授業ないじゃないか」と晴秋が言う。 『まあ、そうだけど...』 「で、オレは謝罪の電話を入れている」 『誰に?』 「お前だよ」 『サボらせたことか?』 「有李のこと、話した」 暫しの沈黙の後『それでがまた笑えるようになるなら良いんじゃないのか?』と返された。 少し驚いた。 『有李もその方が嬉しいに決まってる。けど、郁にこそ謝っておいた方が良いと思うぞ』 言われて、「だよなー」と乗り気ではない声で返す。 『じゃあ、頑張れ』 そう言って琥太郎が電話を切った。 番号を選択してダイヤルをする。 『もしもし、アキにぃ。珍しいね』 「おう、郁。お前暇だろう。大学生は今時分暇のはずだ。飲むぞ、奢ってやる。出て来い」 一方的に場所と時間を指定して電話を切った。 「あー、面白くねぇ...」 呟いた晴秋は一気にコーヒーを煽って店を後にした。 郁に有李のことを謝罪すると「に何かあったの?」と聞かれて驚いた。 「だって、に何かないとアキにぃはそんな話しないでしょう?」と言われて苦笑する。 「お前も大人になったな」 「はあ?何それ」 拗ねて返す郁を宥めながら酒を勧め、晴秋たちは遅くまで飲み明かした。 |
桜風
12.4.6
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