| 食事を済ませて数学の課題を始める。 クラスの中でも優秀な2人であるが、颯斗が意外と数学に苦戦するようで、が教えることもある。 今回も颯斗が申し訳なさそうにに声をかけて教えてもらうと言うことが数回あった。 「さんは、何でも出来ますね」 「『何でも』は出来ないって。歌が歌えない、絵が描けない」 笑って言う。 「絵は..味があると思います」 一度目にした『ひとこぶらくだ』を思い出して颯斗が言うとが笑った。 「いいよ、ムリに褒めてくれなくても。お姉ちゃんの泣き崩れた姿見てるから」 あの姉が泣き崩れるってよほど衝撃的だったんだろうな、と颯斗は何となくそう思った。 不意に颯斗の携帯が鳴った。 「すみません」と席を立って食堂を出る。元々食堂の隅っこで勉強会をしていたので出口からは近い。 「犬飼君からでした」と戻ってきた。課題を一緒にやりたいと話をしてたので「どうぞ」と言ったとのこと。 「何と!まだ魔女に借りを作りたいのかー...」 大げさに驚いたフリをするに「懲りませんよね」と颯斗も頷く。 暫くしてやってきた犬飼は熱心にに質問をしていた。 どうせ奢らされるなら元以上のものを取りたい。 そんな一心で一生懸命だ。 「冬は道場って特に寒いんでしょう?」 少し休もうと話して手を止めた。 「あー、足がなぁ...」 板だからひんやりと冷える。 「そういや、お前らいっつも一緒だよな」 犬飼に指摘されてと颯斗は顔を見合わせた。 「そうかな?」 「そうですか?」 「おー。まあ、部活してなくて生徒会でクラスが一緒だったらそりゃまあ、一緒に行動することが多くなるだろうけど。 この間、夜久が木ノ瀬に聞かれてたな。お前らが付き合ってるのかって」 はきょとんと颯斗を見上げて颯斗は困ったように犬飼に視線を向けている。 「それで、月子さんは何と?」 「『わかんない』って」 その言葉にまたしてもと颯斗は顔を見合わせる。 「というか、そもそも木ノ瀬くんって..翼くんのいとこで同じクラスの子だよね?宇宙科の」 「そうそう、よく知ってんなー」 犬飼が言うと「たまに翼君の面倒ごとに一緒に巻き込まれてくれるから」とが返す。 「あー、あいつも意外と面倒見がよさそうだもんなー。夜久が言ってたんだけどよ。秋の文化祭前に野点をやったんだって。金久保先輩が茶道されてるからって」 「あ、それ聞いた。大騒ぎだったんだってね」 もクスクスと笑う。 「何です、それ」 颯斗は聞いていなかったようだ。 は笑いながら話をした。 月子から話を聞いていたし、一樹にも訴えられた。 「ああ、それで...何だか学校の様子が違って見えたんですね」 神話科と星座科はそのときは学校を留守にしていたのでよく知らない。文化祭前の大変な時期にそんなものがあったので、文化祭の展示は楽なものを選んだと言う裏事情があったのだ。 「生徒会室もしょっちゅうどかんだよな」 は苦笑し、颯斗は冷ややかな笑みを湛える。 「そうですね、ホントに翼君は...」 ふふふと笑ってそう言う。 「けど、翼くんは自己顕示意欲以上に誰かのための発明だからねぇ...困ったよね」 が咄嗟に庇うように言うと 「しかし、もう常識とか分別とか色々と備えていてもおかしくない年齢ですよね」 とやはり笑顔で颯斗が返す。 はグッと詰まった。 その通りなのだ。 「ん..んじゃ、課題の続きしようぜ!」 この空気を払拭すべく犬飼が明るい声でそう言った。 課題が済んだ時間を見ては驚く。 「あれ?なんで食堂...」 食堂が閉まっているはずの時間だった。 「よーし、終わったかー?」 「陽日先生?!」 犬飼が声を上げた。 「まあ、これだけ一生懸命課題に取り組んでるのを邪魔するのもな?鍵は俺が預かって閉めとくって話をしたらおばちゃんたちも納得してくれたし」 「ご、ごめんなさい」 急いで帰り支度を済ませる。 「急がなくて良いぞー」 利き腕ではないといっても、やはり使える手が片方しかないのは難しい。 の片付けを颯斗が手伝ってやり、そのまま寮まで送ると申し出てくれた。 陽日が、戸締りを確認したら寮に帰るので少し待っていれば一緒に帰れるといってくれた。 それに甘えようと思ったが「大丈夫です、僕が送りますから」と颯斗が言う。 陽日は帰る『ついで』だからそんなに気にならないが、颯斗は回り道をしてもらうことになる。 「悪いよ」と言ったが「大丈夫ですよ」と微笑む。 「んじゃ、俺は先に帰るなー」と犬飼が言い、は颯斗を見上げる。 此処で断ったらまた怒られそうだ。 「じゃあ、お願いします」 「はい」 のバッグをさりげなく取り上げて颯斗は微笑んだ。 『付き合っている』とはどういう状態を指すのだろう。 しかし、それを理解するにはまず『恋心』がわからないとダメなんだろうな... 曖昧な何かを胸に抱えては夜空に輝く月を見上げて溜息を吐いた。 |
桜風
11.12.16
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