Kaleidoscope 68





食堂のおばちゃんが作っておいてくれたお節を皆で食べ、これまた突然一樹が引き受けた神社でのお手伝いをし、また鍋を食べて宿直を過ごした。


3日の午後には月子と一樹が地元に帰っていった。


その翌日、の元へ郵便が届いた。姉からだ。

中にはDVDが入っている。

クリスマスの演奏会のものだと気付いたは颯斗に連絡をした。

生徒会室で一緒に見ようと声をかけて生徒会室へと向かう。

翼にも一応声をかけたが、電話に出なかったので仕方ないと諦めた。何かの発明に夢中になっているのかもしれない。

生徒会室のパソコンで再生する。

スピーカーから聞こえてきた音に颯斗は息を飲んだ。

元々録画機器の性能はあまり良くないので音質は悪い。

しかし、夏凛の音は以前聞いたことのあるものとそう変わらない。

いや、多少は音の質が落ちているがそれでも10年のブランクあるとは思えない音だった。

「夏凛さんは、今でも練習はしているのですか?」

「たまに、って言ってた。嫌いじゃないからって」

聞くと、この演奏会の曲も数日前に言われたので練習期間が少なかったらしい。

「どうかした?」

「いいえ、上手だなと思って」

以前、は自分のせいで姉が自分の夢を諦めたと自分を責めていた。だから、正直に本当のことは言えなかった。

たぶん、夏凛自身もまだ音楽に対する未練は多少なりともあるのだろうと思う。

しかし、ここでそれを口にすることは出来ない。

夏凛がにそれを言っていないし、がまた傷つく。

ただ...

この演奏をそれなりの耳を持っている人が聞いたら彼女の今の立場を嘆くのではないかと心配する。

誰かが「戻って来い」と言うのではないだろうか。

そして、夏凛のその才能を無駄にしたとを責める者が出てこないだろうか。

ザワリと胸に不安が込み上がってきた。

「颯斗くん?」

少し怖い表情をしている颯斗の顔を覗きこみ、は不思議そうな表情を浮かべていた。

「いいえ、何でもありませんよ。せっかく生徒会室に来たのですから、ちょっと仕事を片付けて帰りましょうか」

颯斗の提案には頷き、DVDの再生を終わらせた。



******


「何であんたがいるの?」

真顔で見下ろされて郁は「久しぶり」と軽く声をかける。

星月家に新年の挨拶をしに来た郁はそのまま居座っていた。

そして、同じく休みが取れて新年の挨拶をしに来た夏凛に冷ややかな視線を向けられたのだ。

「てか、郁。あんたになんてことをさせたのよ!」

あの怪我のことだろうか...

「何のこと?」

心の中ではかなりビクビクしながら郁が聞き返すと

「ネコミミとメイド服」

と夏凛が言う。

ハロウィンのことのようだ。

「何で夏姉が知ってるの?」

心底不思議そうにしていると「から写メが送られてきた」と言う。

余計なことを...

「あんた、いつからメイドが好きなオヤジ趣味に走ったのよ」

と呆れたように夏凛がいう。

「今は若くてもメイドが好きだったりするんだよ」と返す。

そう言ってふと思い出す。

「ねえ、夏姉。副会長君、って知ってる?えーと青空君」

「青空颯斗?と同じクラスの子でしょう?何??」

夏凛の声音に郁は苦笑する。姉として察する何かがあるらしい。

「ううん。教育実習で星月学園に通ってたけど、仲がよさそうだったなと思って」

にこりと笑って言う。

「修学旅行のとき、ヘアピンをプレゼントしてもらったみたいだし」

が?青空にもらったの??」

確認してくる夏凛に「逆はまずないでしょう」と郁が呆れる。

「今度見せてもらおうっと」

ああ、チェックするんだ...

焚き付けてみたのに、その通りになって面白い。

「で、郁。さっきおばさんに会ったんだけど。あんただいぶ周囲を綺麗にしてるらしいじゃない。何が起こったの?」

『周囲を綺麗に』の指していることについて少しだけ苦い表情をする。

「まあ、僕もそろそろ忙しくなりそうだしね」

郁の言葉の裏にあるものに気付いた夏凛はケラケラ笑い、「やっと認めたか、がきんちょめ」とデコピンをした。

「痛いなぁ...」

おでこを押さえながら訴えてみるが、こういうもの悪くないとどこかで思っている自分は嫌いじゃない。

だから、

「夏姉、妹離れの準備は出来てるの?」

と調子に乗ってしまい、その直後、夏凛の本気の関節技に泣くことになった。









桜風
12.3.2


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